デイリーニュース

TOP<>BACK

2009年11月21日 第10回記念シンポジウム<映画の未来へ>第1部:マスタークラス

masterclass_1.jpg 11月21日、22日の第10回東京フィルメックスの開幕に先立ち、明治大学アカデミーホールにて、第10回記念シンポジウム<映画の未来へ>が開催された。「マスタークラス」と名付けられた第1部では、北野武監督、これまで北野監督の映画をプロデュースしてきた森昌行プロデューサー、映画評論家の山根貞男さんが登壇し、北野武監督の20年の監督人生についてのお話が繰り広げられた。

山根貞男(以下、山根) 今年は2009年で、北野武監督が最初に『その男、凶暴につき』という映画を撮られたのが1989年でちょうど20年になるんですね。東京フィルメックスが今回10回目で、それよりも倍のキャリアをお持ちですが、北野監督は20年監督業をやると思っていらっしゃいましたか。

北野武監督(以下、北野)最初に、「深作欣二監督が『その男、凶暴につき』という映画を撮るので主役をやらないか?」と言われ、「やる」と言ったら「連続で一カ月間空けてくれ」と言われ、「いや、それはテレビの仕事があるからできない」と言ったら自分で撮ることになった。そのときはそれ一本で終わりだと思ってた。ただ、映画界って誇り高い人が多くて「素人が映画なんか撮れるわけない」っていう空気もあってイライラしてたんだけれど、こっちに言わせればテレビは6カメを同時に使っているけれど、映画なんか1つのカメラしか使わないから簡単だろうと思って1本撮ったら好評だった。で、2本目からは好きなことをやろうと思って、この体たらく(笑)

山根 興行的には一番成功したのは『座頭市』と思いますけれど、監督自身が「これは俺のやりたいようにやれた、いい作品にできた」というのは?

北野 それは『ソナチネ』なんですよ。漫才の時は何をやっても受けた。テレビで「ひょうきん族」とか「たけし城」とか連続して当たって、自分がやるものは当たるものだと思ってたから、映画みたいにまるっきり相手にされないものはなかった。

masterclass_2.jpg

山根 北野監督の映画は並べてみると、つながっている部分もありながら、一本一本の表情が、顔つきがまるで違う映画になっている。だから極端な言い方すると同じ監督の映画とはとても思えない。『みんな~やってるか!』と『ソナチネ』が同じ監督の映画だとは思えない。そういう風になっているのは、一本一本違う映画をお客さんに見せようとお考えだからですか?

北野 松竹演芸場なんか10日間行くと毎回ネタが変っている。映画も前の映画と同じようなのにすると嫌がるだろうと。

山根 そういう姿勢はこの20年間ずっと変わらないんですか?

北野 変わらないで14本まで来たんだけれど、疲れ果てて今回またヤクザ映画に戻った。今ヤクザ映画を撮っているんですけれどおもしろくてしょうがない。また同じローテーションでひとまわりしようかと思っているけれど、前回よりはひと目盛りだけ上にあげたい。

山根 今回このシンポジウムを行うにあたって東京フィルメックスの事務局で一般の方から質問を募集したんですけれど、その中からいくつか質問をしたいと思います。最初はクリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』の話。ご覧になりました?

北野 うん、観た。すごく日本のヤクザ映画と似てるなあとは思った。最後の死に方とか。ただ、あの隣の家のモン族との触れ合いのきっかけが、もうちょっと違うきっかけで仲良くなるべきだと思った。イーストウッドは嫌いじゃないけどね。

山根 イーストウッドはこれまでいろんな映画で殺す役だったけれど、この映画では殺す側ではなくて殺される側でしたよね。それでどうやらこれが俳優として最後の作品らしい。「自分の俳優として最後の作品でそういう役にしたということに、北野監督はどう思われますか?北野監督も俳優としてご自分の映画に出演されていますが、俳優として最後のことを考えられますか?」という質問です。

masterclass_3.jpg 北野 今撮っている作品に関して詳しいことは言えないんですが、ドキッとするところもあるんですよ。今撮っている映画に今の話がかなりあたっているなという。役者を続けるかどうかということについては、監督と役者を一緒にやるのはつらいかなと。そのうち森繁さんみたいに、ただ、いればいい役者になりたい。

山根 それは、監督はこれからも続けていく、監督兼主演っていうのはちょっとつらいということですか?これまでも『Dolls』や『あの夏、いちばん静かな海。』などご自分が出てらっしゃらない映画もありますが、それはこれからもあるんでしょうか。

北野 ええ。自分が出た方がいいと思えば出るかもしれないし、そのうち自分が監督やって主演もやるスタミナが無くなってくる可能性もある。監督だけっていう方向もないかもしれない。監督は疲れるし。誰かの映画に役者で出て、失敗したら全部監督のせいにした方が楽だし。

山根 ただ、これまで北野武という監督の映画を観てきて、撮るのをやめて人の映画に役者として出るだけで我慢できるんだろうかという気はしますけどね。

北野 わざと出て行って、下手な演技して映画をダメにするというテロリストみたいなことして、自分がまた撮ろうかなと(笑)

山根 北野監督は全作品、監督、脚本のほかに編集もやられています。編集がとってもおもしろいと力をこめておっしゃっていましたが、やはり今でもそうですか?

北野 おもしろいことはおもしろいんだけど、今はパソコンでオーバーラップもフェードアウトも全部できちゃう。昔は現像所に出して2週間かかっていた。今は3日間くらいで編集できちゃう。それでも楽しんでますけど、編集してる間に考えているフリができない(笑)

山根 話を聞いていて確信したのですが、北野監督の映画では、画面の進行をみていて変なものがはみ出ていたり異物が突然入ってきたり、その連続なので、それが北野監督の言う編集を楽しむということなんだなあと観ていて思います。

山根 一般の方の質問の中にこういうのもあります。「武さんの映画にはこれまで、若手、ベテラン、個性派といろんな俳優さんが出てらっしゃいますが、キャスティングをする上でこだわりはありますか?」

北野 今までは北野組と言って、大杉漣さんや寺島進さんとか同じ人がずっと出ていたんだけど、今撮っている作品は全部入れ替えた。キャスティングには別にあまりこだわっていない。

山根 キャスティングが失敗だったと思った瞬間はありますか?

北野 エンドロールに名前があっても実際出てない人がたくさんいますよ。撮影はしても編集で全部切っちゃったから。

山根 撮り始めて、これは正解だったと思ったキャスティングは?

北野 大杉漣さんは会社員になりたいとかで、『ソナチネ』が最後の作品になるはずだったけれど、あれから仕事が増えた。あと、寺島進くん。一生懸命やる子で「この子よくやるな、映画が好きなんだろうな、チョイ役でもいいから出そう」と思っていくつか出てもらった。

山根 この役者いいなと監督が思われるポイントはどこなんでしょう?単に熱心であればいいってもんじゃない。大杉さんにしろ寺島さんにしろ、単に北野映画に合っていたからということだけだったら今のような活躍はないと思います。

北野 なんだろうな。いろんなスタッフと話してるやつはうるさいし、舞い上がってるやつも嫌い。撮影の現場で撮影をみてくれる人がいいね。たいていそういう人はカメラの前でもよくうつる。

masterclass_4.jpg 山根 もうひとつ質問がありました。「自分は映画監督を志して作品を作っていますが、必要以上に恥ずかしさや照れが出てしまい、本来の自分を表現するのに時間がかかります。北野監督も“照れ”の感覚をお持ちのようですが、照れるということをどのように克服してこられたのでしょうか?逆に照れるということが表現に役立ってきたことはありましたか?」

北野 自分はお笑いの世界に入る理由はなかった。人前でくだらないことやると怒られるような教育の家だったし。浅草のストリップ劇場でバイトし始めたらばかばかしいことやらされるようになって、そのときに「俺は人以上に恥ずかしい」と思った。でも今当たってるお笑い芸人みんなそうだけど、人一倍恥ずかしがり屋。恥ずかしがり屋の方がセンスがいいし、照れ屋の方が人一倍読みが深いんじゃないかと思う。逆にその照れが爆発しないと。爆発を待った方がいい。

山根 以前、京都映画祭に来ていただいたときに「自分は日本映画のウイルスみたいなものだ。早く退治する薬ができて駆逐してしまわないと日本映画がダメになる」とおっしゃっていたのですが、その後10年くらい映画を撮り続けています。僕は撮り続けてくださいと思っているのですが、今もそのように「自分は日本映画の中に突然変異でできたウイルスみたいなものだ」って思いますか?

北野 なくなったと思ったらまだ生きてる一種の天然痘のようなものです。早くA型インフルエンザになりたいな、流行になりたいなと思います。


さすが北野武監督と思わせるコメントで締めくくられただけではなく、終始笑いも巻き起こる中で繰り広げられたトークセッション。お話の中から北野監督の映画への姿勢がうかがえる貴重な機会となった。


(取材・文:三宅里枝/写真:金沢佑希人、米村智絵)

投稿者 FILMeX : 2009年11月21日 16:00



up
back

(c) TOKYO FILMeX 2009