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2009年11月21日 第10回記念シンポジウム<映画の未来へ>第2部:セッション1

Main.jpg 11月21日に東京・明治大学アカデミーホールで行われた、「東京フィルメックス第10回記念シンポジウム〈映画の未来へ〉」。マスタークラスに続いて行われた、第2部のセッション1では、様々な国際映画祭で高い評価を得ている黒沢清監督と是枝裕和監督が登壇。この10年を振り返り、自身の変化や、国際共同製作や映画のデジタル化、そして「映画の未来」について両監督から語っていただいた。

進行役を務める東京フィルメックスの林加奈子ディレクターと市山尚三プログラムディレクターとともに、黒沢監督と是枝監督が登場すると、会場は大きな拍手に包まれた。東京フィルメックスも今年で10年目という節目を迎えたが、両監督にとってこの10年はどんな変化があったのだろうか。

「1999年ぐらいから海外で作品が紹介されるようになり、世界で関心を持ってくれる人がこんなにいるのか、と驚き続けた10年でしたね。この間、作品そのものが変化してきたかどうか、自分ではわかりません。時間もない、お金もない、そして東京近辺で映画を撮っているという状況はずっと変わっていない。でも、『これ、海外の人が見たらどう思うだろうか?』と言うことは考えるようになりましたね。良くも悪くも、プレッシャーは感じます」と黒沢監督。林ディレクターが「海外での公開のほか、映画祭でも特集上映が組まれるほどの人気ですね」と言うと、「映画祭はとても刺激的な経験。次の作品にも繋がる出会いの場です。ただ、海外プロデューサーからオファーがあって『海外で撮影できるのかな』と期待したら、『いつもどおり東京でやってくれ』と言われて。これは残念でしたね(笑)」と語った。

Pair1.jpg 一方、是枝監督は「『幻の光』(95)でベネチア国際映画祭に行ったときは、映画祭と言うものがまったくわからなかったですね。映画を売るセールスエージェントや、宣伝のプロであるパブリシストという存在も知らなかった。評価はしていただいたけれど、思っているとおりに自分の映画が受け止められたのか、広がっていったのかというと、正直ズレを感じていました。以後、自分の思っている形で届けるためにはどうしたら良いのだろうか、と考えてきた10年、15年でした」と振り返る。特に海外での上映に関して「自国の文化を背負っていない人の目に晒されることによって、作品も自分も鍛えられた。ビジネスに繋がらなかったとしても、外へ出て行って発見すること、発見させられることが圧倒的に多かったです」と述べた。
林ディレクターが「是枝監督は、香港映画祭のプロジェクトに企画を持って行ってますよね。映画祭は作り手側が活用する場でもあると私も考えているので、感服しました」と伝えると、「国際共同製作を広げていくには良い場かなと思って、思いつきで出したんです。『日本映画』ということではない『アジア映画』を作るということも、可能性としてあったほうがいいなと。そういう点で、釜山国際映画祭や香港国際映画祭は開かれている場だなと思います」と是枝監督は答えた。

ここで市山Pディレクターから、この10年における日本映画を取り巻く状況の変化について説明がなされた。興行的には邦画が洋画を上回る状況になったこと。シネコンの増加に伴いスクリーン数は増えているものの、アート系作品を上映する映画館は減ってきていること。また、映画製作においては、日本人俳優の海外作品への出演や、日本の監督による海外のスタッフ・キャストの起用など、国際化が進んでいることが挙げられた。

「国際化と言うと、是枝監督の新作『空気人形』は主役とカメラマンに外国人を迎えていますね」と市山Pディレクターが言うと、「実は国際化を考えていたわけじゃないんですが、僕自身がペ・ドゥナさんのファンだったんです(笑)。人形の役なので言葉の問題もクリアしやすいし、思い入れでやったキャスティングですね。台湾のカメラマン、リー・ピンビンさんも、『いつか一緒にやりたいですね』と言っていたのが実現しました。3カ国語が飛び交う現場でしたが、2人ともあまりに優秀で、言葉の点で引っかかることはなかったです」と是枝監督。

一方、黒沢監督の『トウキョウソナタ』のプロデューサーは香港在住のオランダ人、バウター・バレンドレヒトさん。「先方は、『日本人監督でやりたい』と言う考えはありましたが、はじめから僕と言うわけではなかったようです。僕はホラー作が続いていましたし。ただ、そのころ自分も『ホラー以外の作品を撮りたい』と思っていたので、タイミングが合ったんですね。作家性を尊重してくれて、僕の自由にさせてくれました。海外のプロデューサーからすれば、日本映画の製作費が安いというのも魅力のひとつなのかもしれないです」とコメント。海外、特にヨーロッパのプロデューサーの場合は作品内容で衝突するケースも多いようだが、「編集作業でも揉めることはなかったです。プロデューサーにうまく橋渡しをしていただきました」と振り返った。

さらに話題は、映画製作・上映におけるデジタル化について向けられた。「フィルムか、デジタルか」という問題は、この10年、非常に大きなテーマとして捉えられている。「映画はフィルムにこだわるべき」という意見がある一方、デジタル化の広がりを踏まえて、世界の映画祭でもデジタル作品を認める動きが相次いだ。
市山Pディレクターは、2000年のカンヌ国際映画祭のシンポジウムにおいてデジタル化の問題が取り上げられたことに触れ、黒沢監督が「自分は目の前のものをどのように撮るかが問題であって、フィルムで撮るかデジタルで撮るかと言うことを問題にするつもりはない」と言う旨の発言をしたことを紹介。
それについて黒沢監督は「実は発言についてはよく覚えていないです。作品がフィルムとして存在するのと、データとして存在するのとでは根本で違うのかもしれないが、撮影現場ではどちらも関係ないという実感はしています。」と語り、デジタル処理・上映でもフィルムの質感を出そうとする傾向はいまだにあるが、今後はデジタルならではのクオリティーを求めるようになるのではという考えを述べた。

Pair2.jpg 是枝監督は「僕は劇映画は全部フィルム。スタートがテレビ業界だったので、フィルムで撮ることにワクワクするんですよ」と語った。また、ノルウェーの映画祭で自分のフィルム作品がデジタル上映されたことに触れ、自分で撮影したときよりも「見えすぎている」ことに驚いた経験を語り、「テレビのハイビジョンで見ている感覚ですね」と説明した。
また、黒沢監督は「ハリウッドではデジタル技術を活用して、対象物にカメラを向けずにスタジオで作ることも可能になってきているが、それは映画なのかと言う気もしている」と率直な思いを述べた。
最近はフィルムそっくりに取れるデジタルの高性能カメラも登場し、日本でも普及するのではないかと見られている。また、デジタル上映の場合はプリント費用が浮くので、インディペンデント作品の配給を考えれば、今後デジタルが増えることも予測されるという話がなされた。

次に、林ディレクターから「ここ10年の中で製作も配給も大きく変化したが、映画は作りやすくなってきているのでしょうか? 明るい未来に向かっているのでしょうか?」という質問が向けられる。
昨今の日本映画の傾向として、娯楽作品と作家性の強いアート作品の二極化が顕著になってきたと語るのは黒沢監督。「以前は曖昧だったし、監督自身もどちらの方向なのかを決める必要はなかった。映画はやってみないとわからないところも大きい。可能性を試したり、挑戦することが少なくなってきているのではないか」と語る。
是枝監督は「映画は、作品であることと商品であることの両方が求められる。そこが苦労でもあるし面白さでもあると思うんですよね。観客も自分も満足させるものを、一本一本悩みながら作っています」とコメント。さらに、アート系作品の興行に関して、「単館系の場合上映期間は6~8週程度で、観客の興味が2か月持たなくなってきていると聞きます。シネコンが増えて独立系劇場は苦しいし、配給側も苦しい。インディペンデント作品を商品として届けるシステムは明らかに壊れてしまった。先ほどのマスタークラスで、北野武監督が『映画の料金は一律でなくても良いのではないか』とおっしゃっていたが、シネコンでかける映画とアート系映画の料金は違っても良いのでは、と自分も思います」と述べ、林ディレクターも「映画製作だけではなく、上映する側にも助成が必要だと言う話も出てきていますね」と語った。

最後に、映画学校の増加やビデオカメラの普及により、映画を撮ること自体は身近になった一方で、映画を見る習慣をつける機会や、見る目を培う場が少ないことも挙げられた。映画の未来のためにも、日本の映画祭が、地域や子どもを含めたあらゆる世代を巻き込みながらその役割を担ってほしい。そんな熱い期待が両監督から語られ、セッション1は終了した。


(取材・文:外山香織/写真:秋山直子)

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投稿者 FILMeX : 2009年11月21日 18:00



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