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2009年11月04日 「水曜シネマ塾 ~映画の冒険~」第二回:SABU監督

20091104_4.jpg 11月4日、映画祭のプレイベントである「水曜シネマ塾~映画の冒険~(全5回)」の第2回が東京・丸の内カフェにて開催された。ゲストとして登場したのは今年、夏に新作『蟹工船』が公開されたSABU監督。スピード感のある独特な世界観を描き続けるSABU監督の作品は,日本だけに留まらず、海外の映画祭でも評価が高い。今回は,海外映画祭や昨年のドイツ留学を通し、SABU監督の「映画の冒険」について、ユーモアたっぷりに語られ、笑いの絶えない和やかなイベントとなった。

林 加奈子東京フィルメックスディレクターが「このイベントのテーマ“映画の冒険”に最もふさわしい監督」と評するSABU監督。
91年ベルリン映画祭のフォーラム部門に出品された『ワールド・アパートメントホラー』(大友克洋監督)に俳優として出演。存在感のある演技を披露する。96年のベルリン映画祭には『弾丸ランナー』の監督として参加。
現在では、大使館のパーティなどでも「今、SABU監督は何をしていると聞かれることが多い」と林ディレクターが語るほど、海外での注目を集める監督の一人である。
 
「ベルリン(映画祭)ではバカ受け」なSABU監督作品であるが、日本と海外のリアクションの違いについて、海外メディアの表現に注目をする。「海外のメディアは(紋切形の表現ではなく)自分の頭で考えている記事で面白いなと思う。”スイス時計のような精密さの脚本がどうの“とか書いてくれるんですよ、いいこと言うなと」と照れ笑いをする。
 
20091104_2.jpg 20代から存在感のある俳優として活躍してきたSABU監督だが「お醤油顔ブーム」に飲み込まれたと笑いながら語る。林ディレクターからも「言わなきゃと思ってんたんだけど、オバマに似てませんか」と指摘されると「子供が幼稚園に通っていて、人気があるんですが、お父さんのほうが好きって言われるんです。オバマに似ているから」とSABU監督。会場は一気に沸いた。
 
林ディレクターは制作現場について触れ、「SABU組に入りたいスタッフってすごい多い。人気なんです。全部オリジナルで脚本も絵コンテも自身で用意されるために現場でイメージが湧きやすい。それから、時間どおりに終わる」。「(時間どおりより)もっと、早く終わる。撮影は楽しいんですけど、早く帰りたい」 と淡々と語るSABU監督だが、映画制作の作業で楽しいのは、との問いに「前までは脚本が一番楽しかったです。書きながら笑ってたりする。それが映画になっていくっていうのがおかしくて。苦しんでいるんですけど、おかしい。必死なんだけど、ふざけてますから。過去に書いた以上のものじゃないとだめなんで、ちょっと悩んでます」と映画製作への熱い一面をのぞかせた。
 
話はDAAD(プロとして活躍中の芸術家向けの支援プログラム)でドイツ留学した経緯に移る。「疾走の撮影が終わり、ちょうど監督10年目の節目というか。タイミングを狙っていた。海外に向けて作りたいと思ってて、それ用に書いた脚本も出来上がってたので」
映画監督対象プログラムの留学期間は半年間。「留学中は好きにしていいんです。勝手に遊んでて、気にいったら仕事して。そのまま、なんだったら住み着いてって」。自由に創作ができる環境であるが、「最初は2月に家族で行ったんですけど、しまったーと思って。暗さと寒さでぺちゃんこになってて。へこみました。でも、あったかくなったら楽しくてしょうがなくなりました。」ドイツでは昼に絵コンテを書き、夜は毎日映画を見ていたとのこと。映画を作り、映画を見るという映画漬けの理想的な留学生活だったようだ。
 
海外向けの脚本をドイツ留学中に撮影ができると考えていたSABU監督だが「ドイツって遅いんです。休みばっかりで、働けよって。ずーっと休んでいる。それにずっとイラついていて、帰るぞ、みたいな。で、結局帰ってきちゃった」その後、ドイツではなく、韓国の配給会社との話し合いがもたれ、制作に向けて動き始めた。 来年撮影が予定されているその作品は、制作会社は韓国、舞台はアイルランド、ジャンルは刑事もの。SABU監督の海外に向けてのプロジェクトは着実に進んでいる。どんな作品になるのか、今から楽しみだ。
 
海外プロジェクトの話から、映画大国との危ないやりとりの話がどんどん飛び出てくる。
「アメリカは怖いです。うわーっと寄ってきて。大好きだよって。こっち来いみたいな感じで。あははは」
「それから、インドでリメイクの話があったんです。電話がかかってきて、『ポストマン・ブルース』をやりたいって言ってきて。リメイク権が問題だと思って聞いたら、18万円って言われて。(笑)その時、踊るマハラジャが大ヒットしてて、もうちょっとちょうだいよって(笑)。ちょっと聞きなおしてもらったら、(『ポストマン・ブルース』の)ロケハンに行って、いないって。それっきり連絡来ない。(作品が)出来て公開されてるんじゃないですか(笑)」
「だったら18万もらっとけばよかったですよね。」との林ディレクターのコメントに会場から笑いが起きる。
映画製作はビックビジネス。おいしい話も怪しい話も興味深い。
 
次に、映画人としてのSABU監督の二つの転機について振り返る。
転機の一つは「俳優になる」もう一つは「監督になる」ことだ。
俳優になるきっかけは、「もてたかったんです(笑)もともと和歌山でパンク系のバンドはしていたんです。一人で上京してきて、作曲して、適当に歌ったテープを持って事務所訪ねて行こうと思って。そこが役者の事務所で。俺、勘違いしていて、入っちゃった」。勘違いからはじまったものの、そこから俳優業がスタートする。
次の転機は当時出演していたVシネ。「Vシネマが始まって、新人監督の挑戦する場所でスタートしたのにエロ系やギャンブル系が多くなって、そこに出てくるのが恥ずかしくなって。脚本とかも面白くなくて、俺のほうがおもしろいなって気がしてきて、1回書いてみようと思って、書いて」。その当時書いた3本の脚本の中に弾丸ランナーがあった。
 
20091104_3.jpg SABU監督は、運や縁といった、自分の意志とは関わらないところで状況が変わっていくシチュエーションを意図的に使っているとのこと。
自分自身、運のいい男だというSABU監督だが、「運に気づくかどうかだと」と語る。上京して、ファッションメーカーに就職が決まっていた。明日から勤務始まるという日、「帰りにうどん屋に寄って、うどん食ってたら、もう終わったーって、頭の中が勝手に、意識してないですけど、やめろやめろって気がして、で、そのまま出て、(会社に)やっぱりやめますって」まるで、SABU監督の映画のワンシーンのようだ。一見運命に翻弄されているように見えるが、SABU監督 の今をつくるものは運だけではない。「真面目にやってるかどうかだと思います。やるべき事をきっちりやってたら、色んなものや人に出会えたりする、でもそれも夢がないとだめだと思いますけど」運のいい男はどこまでも努力家である。
 
ここで観客の方々からSABU監督への質問を受け付ける。
『DRIVE』や『MONDAY』のシーンを例にとり、感動しながら笑う、という作りは意図的なものですかとの問いに「滑稽で切ない、それが価値なんです。そこがなかなか見つからないんですけど。(そこを)意図的に作ってます」観客からの讃辞に、満面の笑みで語る。
 
ドイツ留学を経て、新作の『蟹工船』でなにか変ったことはあったかとの問いに、SABU監督は「日本のロケ場所が面白くないものが多い。制作部で決められた場所の中から決めなければいけない。ノルマというか、(場所を)決めなきゃいけなかったりするようになっていってしまう。そういう日本のシステムが 嫌だったんです、ずっと。蟹工船はどれだけ面白くできるかで徹底できたのでよかった。
ホウ・シャオシェン監督の作品を見ていると“ここしかない場所”でちゃんとやっている。それに憧れがあった。今後そうしていきますけど」と答えた。妥協のない映画作りは『蟹工船』でも明らかだ。
 
『蟹工船』に出演している労働者の監督・浅川役、西島秀俊さんとSABU監督の出会いはフィルメックスだったと語る。
原作では大柄な鬼監督という設定だったが、それをイメージを壊すために西島さんは元官僚のような設定だったとのこと。
「お弁当にはカニとか入ってたんですか」の林ディレクター質問に「カニカマを使用したので、カニカマの会社さんからお弁当をいただいていたんですが、俺、蟹アレルギーなんで、食べられない。ウニ工船だったらよかったのに」と答えると、会場が笑いで包まれた。
 
林ディレクターは、第10回東京フィルメックスの見どころとして、特集上映「ニッポン★モダン1930」の島津保次郎監督作品を取り上げた。英語字幕をつけ、海外へ日本映画を発信する予定とのこと。海外に発信すべき日本映画は海外の映画ファンだけでなく、日本の映画ファンもぜひチェックしたい。
SABU監督も「セレクトショップと同じで、最初からセレクトしてくれていますからね。どれを見ても面白い」フィルメックスの上映作品に期待を寄せた。
 
最後にSABU監督の今後の予定について伺うと、来年2本の撮影が予定されているとのこと。新作を楽しみに待ちたい。
 
 
(取材・文:安藤文江)


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投稿者 FILMeX : 2009年11月04日 23:30



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