第10回東京フィルメックスの特別招待作品として、11月24日に上映される『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』。2005年にデビューを果たした大森立嗣監督の二作目として注目を集めるロードムービーだ。製作を手がけたのは、これまで数々の良質な映画を送り出してきた、製作プロダクションのフィルムメイカーズとリトル・モア。そこで、フィルムメイカーズの菊地美世志社長とリトル・モアの孫家邦社長に、本作の企画・製作にまつわるエピソードや、映画作りに対する思いなどを伺った。
はじめに、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の企画意図について尋ねると「大森監督で1本作ろうということは、はじめから決めていました。」と孫さん。「大森監督とはもう10年以上の付き合いになるんです。監督の二作目となる企画をずっと模索していて、何本かの脚本を一緒にやっていたんですが、なかなかピンと来るものがなかった。北へ向かう和製ファンタジーのようなものを考えたが、お金がかかりすぎる。そんな中で、男の子2人が旅に出るという、身の丈にあった企画が出てきたんです」と説明した。
大森監督の第一作は、芥川賞作家・花村萬月の原作を映画化した『ゲルマニウムの夜』。オリジナル脚本による映画は、本作が初となる。
「脚本に関しては、僕たちはいつも面倒くさがられるくらい、『うるさい』って言われるぐらいにやるんですよ(笑)。でも、大森監督は脚本が上手でしたね。いままで一緒にやった監督の中で、一番上手かった。時間も早かった方ですよ。」と菊地さんは語る。孫さんも「脚本の完成度は高かったですね。」とコメント。さらに「脚本については、文法、リズム、個性というような、作家固有のもの、スタイルを大事にしようと思っています。一概に、『こういう物語のときはこう書くんだ』と言うような直し方はしません。ここで終わらせるのかとか、こういうシーンをつけたらどうか、というようなアイディアは出しますけど、それを最終的に取捨選択するのは監督なんです」と語った。
こうして出来上がった物語は、閉塞感を感じながら生きる若者たちが、北へ向かって旅をするというロードムービー。キャストには、松田翔太さん、高良健吾さん、安藤サクラさんなど、人気・実力を兼ね備えた若手俳優陣が顔を揃えた。
「脚本で上がってきた年齢の役者を求めていったら、こういうキャスティングになりました。ただ、忙しい俳優さんにお願いするのは、年々大変になってきましたね」と孫さん。菊地さんは「半年から一年先まで、俳優さんのスケジュールが埋まっていることがあるんですよ。そうなると、こちら側もやれるかどうかわからなくなってくるんです。ある種の運が必要になってくるんですよね。それは、俳優さんにとっても同じことで、良い企画と出会えるかどうかというのは、やはり運ですよね。今回の撮影期間はトータルで30日を切るくらいでしたが、映画と同じで、移動は車がメインでした。東京でのロケに始まり、金沢、八戸とすべて車での移動。フェリーで北海道に渡り、そこから網走まではまた車。キャストや主要スタッフは飛行機で帰りましたが、僕らは帰りも車。よく車が走ったと感心するほどです(笑)」と振り返った。
11月24日には、ワールドプレミアとなる、フィルメックスでの上映が行われる。上映を前にした心境を伺った。
「僕たちもとても緊張しています。すごくわかりやすい話でもないし、エンタテインメントに徹している作品でもない。見てくれた人がどんな形で受け入れてくれるのか、あるいは受け入れてくれないのか。どんな反応をするのかというのを、こちらも期待しています。上映後には、会場とのQ&Aもありますが、楽しみでもあるし、怖くもありますね」(菊地さん)
「フィルメックスは、世界中から秀作を探して、きっちりかけてくれる映画祭。映画というものが、欧米を中心とした一部の資本主義の国のものだけじゃないと発信し続けてきたし、ジャ・ジャンクー監督など、作家を育てていく映画祭になってきていると感じます。僕たちもあるリスペクトを持って見ていたので、フィルメックスで特別に上映してもらえるのは嬉しいです。見に来ているお客さんも、ちゃんと映画に向かい合ってくれる。だから、良い意味での緊張感はありますね」(孫さん)
「フィルムメイカーズ×リトル・モア」のタッグと言えば、これまでにも『空中庭園』の豊田利晃監督、『ラブドガン』の渡辺謙作監督、『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子監督など、さまざまな若手監督と組んで世に作品を送り出してきた。映画作りにおいてどんなポイントを重視しているのだろうか。
「オリジナル脚本にはこだわります」と菊地さんは語る。「僕らはわりと新人監督と一緒にやることが多いんですが、脚本を自分で書いてもらう方が一番判断しやすいんです。どういうものを取りたいのか、どういうものをどういう風に表現したいのか。監督の力量が一番わかるのは脚本だと考えていますし、新人監督は、初めの2~3本は自分で脚本を書くべきだと思っています。そこで、自分の撮りたいものやスタイルを固める。それからですよ、他人の脚本を自分なりにどう消化するか、ということをやれるのは。監督の場合は、技術者とは違いますから。脚本も大変だし、監督をやるのはもっと大変なんです。みんな、苦しんで脚本を書いて、「わからんな」とボロクソに言われたりする覚悟を持ってやってきているんです」。
一方、孫さんは「助走期間が大切です」とコメント。「僕は基本的に人見知りなんです。突然企画を持っていて『一緒にやりましょう』と言うような、監督とプロデューサーの仕事はできないんです。知り合って、時間をかけて打ち解けて、という助走期間が要るんです。その間に、その人が何をやりたいのか、どんなことを考えているのかを探っていく。それで初めて、一緒に仕事をするときに助走期間がプラスになるんです」。
タッグを組むことの強み、魅力は何かと尋ねると、菊地さんは「楽だからです」と即答。「一人で映画を作るのは大変なんですよ」。孫さんも、「現場を維持し、金を作り、宣伝するということを全部一人でやるという能力に僕らは欠けているけれど、二人いるとそこそこ戦える。役割分担でやっていますよ。基本的に、外との付き合いは僕で、内側は菊地がいれば大丈夫、という感じです」と語る。出会いから約25年、数多くの映画を一緒に作り続けてきた菊地さんと孫さんの絶対の信頼関係が感じられる。
「映画は集団で撮るものですね。集団性があることは映画を豊かにするし、皆で継承していくことの方が力になる。それから、経験も大事です。最近、まともに映画ができるようになってきた。気負いがなくなってきたと思います」と孫さんが言うと、菊地さんは「長くやってると、気持ちの良い集団ができてきます。周囲も信頼してくれる。ローバジェットな、地味な企画でも、『あいつだったらひどい映画にならないだろう』と思ってくれる。昔は助手だったスタッフも、日本の映画界で腕利きになってまた集まってくれる。それはとても大きいことですよ」と噛み締めるように語った。
集団での映画作り、そして次の世代へ継承すること。若きプロデューサーたちが若手監督と一緒に映画を作っていける環境づくりにも努めている菊地さんと孫さん。おふたりの映画に対する情熱が、ひしと伝わってくる。
新作『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の上映は、11月24日(火)18時10分より、有楽町朝日ホールで行われる。上映後のQ&Aには大森立嗣監督、俳優の松田翔太さん、高良健吾さん、安藤サクラさんの登壇が予定されているので、ぜひ足を運んでいただきたい。
(取材・文:外山香織)
投稿者 FILMeX : 2009年11月24日 14:34