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2009年11月27日 『2つの世界の間で』Q&A

jaya_1.jpg 11月27日、シネカノン有楽町一丁目において、コンペ作品『2つの世界の間で』の上映後に、ヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督のQ&Aが行われた。スリランカ出身のジャヤスンダラ監督は、前作でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞、本作もヴェネチア国際映画祭のコンペ部門で上映され、注目を集めている。フィルメックス初上映ということもあり、客席からは独特な作品世界の裏側を探るような質問が相次いだ。

登壇したジャヤスンダラ監督は、まず市山プログラム・ディレクターの質問に答える形で、自身の映画制作のスタンスについて説明してくれた。「世界には文学や演劇ではなく、映画を通してしか語れない物語があります。私の作品はそのような、映画でしか出来ないものだと信じています。そして、映画ならではの表現のために、脚本を書くことよりも、それぞれのシーンを考えることに時間をかけます。何年もかけてシーンのアイデアを固めたあとに、脚本を二週間ほどで書きあげました」

jaya_2.jpg 海へ飛び込んだ主人公の青年が、岸へ辿り着き、崖を登って街へ、そこから様々な経験を経てゆく…。というのがおおまかなストーリーだが、何よりも印象に残るのは、深い森や海などイマジネーションを掻き立てる美しい自然。その美しさに圧倒されたという女性から撮影に関する質問が挙がると、1日1シーンの撮影で撮影期間は60日と説明した後、独自の世界を作り上げる過程の一部を明かした。「まず1人でロケ現場に出向き、撮影のイメージを考えます。自然の中では謙虚でなければならないと考えているので、自然を抑圧するのではなく、風景の中から出てくる映画であって欲しいと思っています。次に撮影スタッフと一緒に出向き、実際にどう撮影したらいいかを相談し、自分のイメージに近づけていきます」

さらに、映像と並んで作品世界を支えているものが、画面から聞こえてくる様々な音。この音へのこだわりを尋ねられると、「常々、映画の基本的な要素は映像と音だと考えているので、嬉しい質問ですね」と前置きし、「多くの映画では物語を語ったり、説明したりする音を“聞かされ”がちですが、私は音を通じて、みなさんに色々なことを想像して楽しんで欲しいと考えています」と語ってくれた。

jaya_3.jpg 長い間、反政府組織と政府軍の間で内戦が続いてきたスリランカ。監督のカンヌ受賞作を見たという男性からは、内戦が終結したスリランカの現状と監督の映画制作との関係について質問が寄せられた。過去2作ではスリランカの内戦を扱ったが、「今回は、スリランカだけでなく世界中で起こっている内戦や戦争をなくすために、“なぜ戦争は繰り返されるのか”という問題提起をしたかったのです。暴力は人間の本質であり、暴力がなくなるとは思えません。しかし、倫理観を持つ人間であるからこそ、暴力の繰り返しを止めることはできるのではないでしょうか」と自身の考えを述べた。

また、スリランカの映画でありながら、東アジア系の女性が登場する理由について聞かれると、「面白い質問ですね」と答え、次のように説明。「冒頭、主人公が異星人のように空から落ちてきて、続くシーンではここがインドなのかスリランカなのか迷うと思います。ここでさらに、観客が場所や時間にとらわれないようにしたかったので、“わからなくする要素”として、東アジア系の女性を登場させました」ちなみに、この女優は2005年のフィルメックスで上映されたチャン・ミン監督の『結果』に出演していたホアン・ルー。彼女には3年前のカンヌ映画祭で出演作を見て、冗談半分で出演を持ちかけたという。スリランカ映画ということもあり、無理だろうと思っていたところ、“yes”の即答で本作出演に至ったとのこと。カンヌとフィルメックス、映画祭の取り持つ縁を感じるエピソードが披露された。

日本は初めてと語っていたジャヤスンダラ監督。やや緊張した面持ちながら、質問の一つ一つに丁寧に答えてくれた。最後に、映画制作において作品の一貫性を保つことの重要さと難しさを語ってQ&Aは終了。去り際に「またいつか、日本に戻って来たいと思います」との言葉を残してくれたジャヤスンダラ監督。その言葉通り、再びフィルメックスで作品が上映される日が来ることを期待したい。


(取材・文:井上健一)

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投稿者 FILMeX : 2009年11月27日 23:50



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