デイリーニュース

TOP<>BACK

2009年11月23日 『意外』Q&A

igai_6.jpg 11月23日、コンペティションに出品の『意外』が有楽町朝日ホールにて上映された後、ソイ・チェン監督を迎えてQ&Aがおこなわれた。香港でロケ撮影をおこなった『意外』は、ルイス・クーさんが演じる用心深い殺し屋の心理を追ったサスペンスである。

市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターに紹介されてチェン監督が登場すると、盛大な拍手が沸き起こった。満員の場内を見渡したチェン監督が、「『意外』をご覧になったかたからは、『ストーリーの展開についていけなかった』というご感想を聞くことが多いのですが、皆さんは楽しんでいただけましたでしょうか」とメッセージを贈ると、観客は更に大きな拍手で賞賛の気持ちを伝えた。

続いて、観客からの質問を受けつけた。「豪雨のシーンがありましたが、撮影をしていて危険はなかったですか?」という質問に、チェン監督は、「天気の悪い日が続いて、台風が5回も到来しました。そのため、あのシーンの一部は実際の景色ですが、危険を伴うほど悪天候の日は避けて撮ったので、編集をした結果、雨の多くは消防車で人工的に降らせたものとなりました」と答えた。印象的なシーンに関する質問は、ほかにもあがった。作中で日食が効果的に用いられるシーンについては、「なにが真実かを暗示するために日食を使いました。日食を見ることで、主人公が真実を悟るきっかけになる、という意味があります」とチェン監督は答えた。

igai_1.jpg 香港の街でロケをした際の苦労話について訊ねられると、チェン監督は当時を回想して、「ロケ現場の周辺でお店を営む人々は、当初、映画の撮影をおもしろがってくれましたが、撮影期間が長くなるにつれて、『ロケが商売の邪魔になっている』という顔をする人も出てきました。しかし、最終的には信頼関係を結べて、ランチ・タイムに交流することもありました。また、街全体を封鎖して一般人を(映像に)入れないようにしてはどうか、という提案がスタッフから出ましたが、私は自然な街の風景で俳優に演じてほしいと考えました。完成した作品を観て、(街を封鎖しないで)よかったと思いました」と答えた。

キャスティングに関しても、観客の興味が集まった。「主演のクーさんは、とても美形なので、殺し屋としては目立ってしまうと思いましたが、彼を起用した理由を教えてください」という場内の笑いを誘った質問に、チェン監督は、「主人公は『いかに自分を守れば生き残れるか』と常に考えているキャラクターです。そういう用心深い部分が、実際のクーさんの性格に通じると考えました。クーさんはマスコミやパパラッチに厳しく対応していて、一緒に仕事をしている我々にも、プライベートの話をほとんどしません。油断をしないタイプの俳優なのです」とユーモアを交えて答えた。
『意外』の制作期間は、構想の段階も含めると3年、実際の撮影期間は約1年半である。主人公の内面的な部分を描くことに集中し、彼を演じるクーさんの心の変遷に沿って撮影したという。
キャスティングに関する質問は続いた。主人公が疑惑をいだくサラリーマン役に、リッチー・レンさんを起用した理由について、「レンさんも、キャラクターの性格にぴったりなのです。彼は穏やかな性格で、ご家族を大切にしています。(レンさんの家庭的な)そのイメージは、香港でとても浸透しています。『いかにも普通のサラリーマン』を演技で見せてほしいと考えて、彼を選びました」と答えた。
女性の質問者が、「チェン監督ご自身が二枚目で驚きました」と言って会場を沸かせたあと、「チェン監督は俳優の経験があるのですか?」と訊ねた。「実はあります。助監督をしていた頃、出演する予定の俳優に監督がオーケーを出さなかったときに、私が代わりに演じて、そのまま出演しました」と、チェン監督は、はにかみながら答えた。

igai_3.jpg 『意外』のプロデューサーは、香港を代表する映画監督のひとり、ジョニー・トー監督である。「トー監督からアドバイスはありましたか?」という質問に、チェン監督は、「映画の基本に関して、いろいろと議論をしました。特に、登場人物の性格設定と、ストーリーやタイトルについて話し合いました。また、トー監督は私を育てる意味で、多数の古い映画を見せてくれて、その中には、日本の黒澤明監督の作品も含まれていました」と語った。
チェン監督の今後の展望に関する質問もあがった。「『意外』は主人公の生きざまを暗い雰囲気で描いていますが、今後もこのようなタッチの作品を撮りたいのか、あるいは、コメディ等にも挑戦したいと考えていますか?」という質問に、チェン監督は、「私はユーモアの要素が少ない性格なので、コメディは最も苦手なジャンルですが、トライしたい気持ちはあります。また、アクションや、『意外』のような裏社会を扱った映画を、今後も撮りたいと考えています」と答えた。

 チェン監督の2006年の作品『軍鶏 Shamo』を観たという観客は、「『軍鶏Shamo』は脚本家を起用した映画でしたが、今後の作品は、オリジナルのアイディアで撮りたいと考えていますか?」と訊ねた。チェン監督は、「脚本を自ら全て執筆した経験はまだありませんが、どの作品にも自分のアイディアは反映されています。監督が(脚本から)ある程度の距離を置いて映画を撮影することも大切だと考えています」と語った。

 約20分間のQ&Aは、あっという間に終了の時間を迎えた。観客は名残惜しさを感じながら、退場するチェン監督を盛大な拍手で見送った。『意外』は、11月26日(木)の21:20より、シネカノン有楽町1丁目にて、2回目の上映がおこなわれる。


(取材・文:川北紀子/写真:米村智絵)

igai_2.jpg igai_4.jpg igai_5.jpg

投稿者 FILMeX : 2009年11月23日 16:00



up
back

(c) TOKYO FILMeX 2009