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2009年11月23日 『フローズン・リバー』Q&A

frqa_1.jpg 3連休最終日の11月23日。有楽町朝日ホールにて特別招待作品「フローズン・リバー」が上映された。コートニー・ハント監督が自ら脚本も担当し、アカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされた注目の話題作として、多くの観客がつめかけた。カナダ国境、先住民モホーク族の保留地で起きた実話がモデルである同作品は、白人のレイ、モホーク族のライラ、2人の女性の「母性」「貧困」「家族の情景」を丁寧に描き出し、ハント監督を迎えてのQ&Aは、作品の終了と共に沸き起こった拍手の余韻を残しつつスタートした。

まず、林 加奈子東京フィルメックスディレクターから、「脚本を執筆するために、リサーチにかけた時間や、実話とは別に脚色したエピソード」について質問がされた。
ハント監督は「実際に背景となる状況があり、アイデアはそこから生まれてきた。保留地を媒介にして起きる様々な出来事がアイデアとなっている。その地域に住んでいる人々のドキュメンタリーとしての要素もある」と語った。
また、凍りついた川を車で渡るシーンが多く登場するが、撮影実現に至った経緯については
「近くの大学に氷の専門家がいて、氷の厚さと安全性について、きちんとレクチャーを受けた。また、技術スタッフ自身も研究してくれた。私自身が母親であるからこそ、キャストのリスクには最大限の注意を払った」とアイデア実現のためには、入念な準備を要したことも明かした。
 
frqa_2.jpg Q&Aでは、上映後に沸き起こった拍手の余韻からか、客席からの挙手が相次いだ。
まずは作品のキーワードである『母性』に絡めて「なぜ父性ではなく、母性を強く打ち出したのか?」との質問がされた。脚本を書き始めた段階では、母性ありきではなかったと前置きし「元々のテーマは、境遇の違う2人の女性が、ひとつのことに連帯できるかが重要だった。でも仕上がった脚本を読み返してみて、2人の連帯の要が『母性』であると気づいた」と、脚本完成までのプロセスを語った。
 
次に、主人公2人が追い詰められた状況を脱してからの展開について質問が及ぶと、ハント監督は「あの土地での実際の状況を活かしたかった。2人が行っている不法移民の密入国手引きは、確かに犯罪だけど、特定の誰かが傷つく犯罪ではない。この曖昧さを残したのは、彼女達ならどう考えて行動するだろうか…キャラクターの個性に正直でありたかったから」と語った。また、その個性から生まれるレイとライラの関係性の変化にも触れ「当初は白人・先住民と異なる立場で、お互いを嫌悪していた2人が、逃れられない状況で行動を共にするうちに、最後には「繋がり」が生まれていった」と、登場人物たちに身を任せて書いたことを強調した。
 
frqa_3.jpg また、「失踪したレイの夫が、なぜ一度も作品中に登場しなかったのか?」と家族の情景についても鋭い質問がされると、一般的なハリウッド映画のセオリーとして「女性が危機に瀕している時に、どんな男性であれスクリーンに登場すると『男性が女性を助けるだろう』と、観客を惑わす結果になる」と指摘。「夫が何度も所在不明になる経験をしていることを踏まえれば、夫の長期間不在に信憑性がある」また、「もし5分遡って、夫がいなくなった予感や、探す状況を描いていたら、全く違うタイプの映画になっただろう」と語った。
 
最後にキャスティングへのこだわりについても質問がされた。「実際のモホーク族をキャスティングすることは不可能だったので、ライラ役には容姿の似ていたミスティ・アップハムを起用した。レイ役のメリッサ・レオは、『21グラム』(2003年、アレハンドロ=ゴンサレス・イニャリトゥ監督)でレイ同様に力強い女性を演じており、実際に会ったときも、人間的な存在感に満ち溢れていた。コミュニケーション能力にも優れており、何より主役を張る素晴らしい才能の持ち主」と絶賛。
ここで時間となりQ&Aは終了となったが、2010年お正月映画 第2弾として、シネマライズ(東京都渋谷区)にて公開決定が発表となった。日本語版パンフレットの特別販売が告げられると、急遽ハント監督のサイン会が催され、50名近い観客のサインに、気さくに笑顔で応じたハント監督には、再度大きな拍手が送られた。

 
(取材・文:阿部由美子/写真:米村智絵)

 
 
 
 

投稿者 FILMeX : 2009年11月23日 18:00



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