第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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受賞会見
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多くのマスコミが詰めかけるなか、ドナルド・リチー審査委員長、サイモン・フィールド氏、ジェームズ・クワント氏、ムン・ソリ氏、羽田澄子氏という全5名の審査員が出席して行われた第5回東京フィルメックス・コンペティションの受賞結果会見。まず、リチー氏がコンペティションの総論を述べるとともに受賞作品を発表した。





















リチー「東京フィルメックスの驚くべき高水準のセレクションに魅了されました。これらの作品は私たちの審査を楽しくさせると同時に、困難なものにしました。オリジナリティと創造性に満ちた映画という形を通して、アジア諸国が直面している現代の諸問題を反映した作品が数多く含まれていたことを重要視したいと思います。選考にあたっては東京フィルメックスが重んじる想像力と新鮮さを考慮した結果、次の作品を受賞作品と選定しました」

「まず最優秀作品賞はアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『トロピカル・マラディ』です。主な受賞理由は、斬新な構成と大胆な映像詩のミステリーで、未来の巨匠の誕生を予感させる強力なインパクトの作品だったからです。監督には副賞として賞金100万円が贈られます」

「審査員特別賞<コダック VISION アワード>はバフマン・ゴバディ監督の『Turtles Can Fly』です。力強く緊迫した映像を通して、戦争とその渦中にいる人々、そして最も無力な子供たちの姿を描いています。監督には副賞としてコダック株式会社より賞金50万円が贈られます」

 続いて、司会の市山プログラム・ディレクターが「アピチャッポン・ウィーラセタクン監督は仕事の都合で、すでにタイに帰国しています」と述べ、ウィーラセタクン監督から寄せられた受賞コメントを読み上げた。

「私のキャリアの中でも特別な瞬間を与えてくれた審査員の皆さんに感謝します。また、映画メディアの存続に貢献している東京フィルメックス関係者の皆さんにも感謝します。私は、映画とは審査することのできない芸術だと考えています。だからこそこの賞を、このユニークな映画祭に参加したすべての映画作家に捧げたいと思います。私は映画にはまだ進化を遂げる余地があると信じており、それを証明するための試みを続けています。私たちが、ほとんど病気といっても過言ではないそのような情熱を抱き続けていられることに感謝します」(ウィーラセタクン監督)

 そして拍手に迎えられ、バフマン・ゴバディ監督が会見場に登場した。「まず審査員の皆さんにお礼を述べたいと思います。この映画を好きになり、選んでくださったことを嬉しく思います。また、東京フィルメックスのおかげで、大好きな日本の皆さんに映画を見せることができてとても嬉しい。私はいつも日本に愛情を抱いているのです。イラクの現実、子供たちの生活はとても厳しい状況です。私は『Turtles Can Fly』の撮影中に何度も泣き出しましたが、編集段階では涙を誘うようなシーンをなるべくカットし、その代わりにユーモアを入れるようにしました」

 ここから記者との質疑応答に移り、まずゴバディ監督に、賞金の使い道やユーモアを重んじた理由などに関する質問が投げかけられた。

ゴバディ「映画の撮影が終わっても、一緒に仕事をした子供たちのことは忘れません。映画祭での賞金や上映で得たお金は、必ず子供たちに還元するようにしています。アグリン(映画に出演した難民の少女)や目が見えなくて大変な生活をしている人たちに家を造ってあげたい。また、現在イラクにはボロボロの映画館しかないのですが、イラク政府はモスクを優先してお金を注ぎ込んでいるという状況です。ですから私は映画館のスピーカーやスクリーンを直したいと思います。私は自分の映画を見てくれた観客が泣くことを望んでいません。泣いて感情をすっきりさせるよりも、涙を堪えてさらに深く考えてくれることを願っているのです」

 審査会議の経過に関する質問にはリチー審査委員長が答え、続いてサイモン・フィールド氏が『トロピカル・マラディ』の優れていた点を補足した。

リチー「受賞作品を選ぶプロセスは大変困難でしたが、それは我々の意見が割れたからではなく、広範囲に渡って異なるタイプの作品が揃っていたからです。投票や議論を重ねるうちに数作品に絞られ、やがてその中から2作品を選出するに至りました。我々の審査は、ごく平和的でした。このような審査では意見がぶつかり合って、時として怒りが沸き起こることもありますが、昨日の審査会議ではそのようなことはありませんでした」

フィールド「『トロピカル・マラディ』は映像とサウンドの使い方がオリジナリティに満ちていて、とても新鮮な作品でした。それゆえに『トロピカル“メロディ”』と呼ぶこともできる作品なのではないでしょうか。今回の審査では、改めて映画はとてもパワフルな形で新しい芸術を切り開いていくことができるメディアだと感じました。そのことを最も強く感じさせてくれたのが『トロピカル・マラディ』だったのです」

 記者からは韓国の女優ムン・ソリ氏に、「今回の審査員としての経験が、今後の女優としての活動にどのような影響をもたらすと思うか」との質問も。

ムン・ソリ「私は3本目、4本目くらいまでの出演作で、韓国ではタブー視されているような役柄をこなしたため“勇敢な女優”と見なされていました。しかしその後はコマーシャルな映画に出演していることもあり、自分の中で安定志向が強くなっているのかなと思わされました。今回、東京フィルメックスの審査に参加し、驚くべき作品を数多く目のあたりにしたことで、今後自分がどのような作品に出るべきかということを改めて考えさせられるようになりました。今後は刺激的でチャレンジ精神に溢れた、新しいタイプの作品に出演したい。そんな欲求が出てきたところです」

 会見は、予定の時間をややオーバーして終了。審査員や記者たちがゴバディ監督を囲み、温かい祝福の言葉を贈っていた。

(取材・文/高橋諭治)




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