第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


DATES NAVI


「ドラキュラ 乙女の日記より」ガイ・マディン監督 Q&A
TOP LINE INDEX



『世界で一番悲しい音楽』『臆病者はひざまずく』の上映が盛況のうちに終了したガ イ・ マディン監督。今年のクロージング作品に選ばれた『ドラキュラ 乙女の日記よ り』の上映にも、カナダの奇才が手がけたバレエ映画を観ようと、多くの観客が詰め かけた。

















まずは、市山プログラム・ディレクターが製作の経緯について聞いた。

「『ドラキュラ』は1897年に書かれたブラム・ストーカーの古典を、ロイヤル・ ウィニペグ・バレエが脚色したバレエです。北米やヨーロッパをツアーし、主演の チャン・ウェイチャンが北京出身であることから、中国でも公演したと聞いていま す。あるプロデューサーが私に、そのバレエをテレビ番組として製作してくれないか と依頼してきました。当初私はNOと答えていたんです。なぜならバレエを題材にし た映画はつまらないものが多いし、自分とはかけ離れている題材のように感じたから です。それにプロデューサーはせっかく舞台を気に入っているのに、その夢を壊して しまうような気がしたんです。でもその頃の私はとても貧乏だったので、結局は引き 受けることにしました(笑)。マーラーの音楽は舞台の演出家が好きで使っていたもの で、公演のときのオーケストラの演奏が録音されたものの権利をもらい、この作品に 使うことになりました。テレビ番組よりも舞台のほうが45分ほど長いので、スピード を変えたりカットしたりして使っています。マーラーは墓のなかでイライラして怒っ ているかもしれませんね(笑)。しかも最終的には音楽を差し替えたりしたシーンもあ るので、ダンサーたちが完成作を観て、“こんな音楽で踊ってたっけ?”と驚くほど でした。またドラキュラが死ぬ場面ではマーラーの音楽をふたつ重ねてミックスする という、ひどいことさえもしてしまいました(笑)」

 監督の少々自虐的なトークに笑いがもれるなか、観客からはさっそく「場面ごとに 色が変わったり、白黒の映像のなかに血だけが真っ赤だったり、色の使い方が独特で 黒澤明の『天国の地獄』を思わせる場面もあった。色に対するこだわりは?」という 質問が飛んだ。

「最初、プロデューサーからはハイビジョンのカラー作品で撮って欲しいというリク エストがあったんです。でも舞台を観た私は、ドラキュラという外国人に対する差 別、性的に目覚めた女性に対する男たちの排他的な態度、そのようなところにどこか プロパガンダ的なものを感じました。プロパガンダ映画の多くはモノクロですし、ド ラキュラのゴシックな雰囲気はモノクロにぴったりだと思ったんです。それでベース は白黒にして、あとは血の赤、禁欲的なものも感じたので金の色も入れました。章だ てにしたほうがいいとも思ったので、章ごとにフィルムに彩色する染色版サイレント 映画のスタイルをとっています。簡単な方法なのですが、そのお陰でシーンごとに観 客がリフレッシュされるような効果があったと思います」

バレエ好きだという観客からは「バレエは自分からは遠い題材だと思ったそうだが、 群舞の素晴らしさなどがとても美しく撮られていた。撮影の苦労は?」という質問 も。

「はじめはバレエを映像化する側が悪者で、ダンサーたちは被害者なのではないか、 という思いにとらわれていました。ダンサーたちも、自分たちの経験をイキイキとと らえたおもしろいバレエ映画はない、といっていましたしね。でも一度、私のために 舞台を上演してもらい、振付家に誘導してもらいながら撮影をしてみたんです。アッ プで撮っているうちにダンサーたちの足が飛んできたりして、大怪我をしかねないと ても危険な体験でした(笑)。でも舞台のうえでダンサーたちの息遣いなどを直接聞い ているうちに、バレエを近くで見るのと遠くから見るのとでは、まったく違うことに 気が付いたんです。そこで踊りの渦中で撮影をしたいということを告げたら、ダン サーたちも賛成してくれました。はじめは自分が悪者だと思っていましたが、だんだ んそういう思いがなくなってきた。こうして全身を見られることに慣れているダン サーたちを、体を切り刻むようにして撮影することができました。すべてダンサーの 支援がなければできなかったことです」

擬似サイレント映画の手法や予算について、「美術や衣裳が素晴らしいが、この映像 では細かいテクスチュアまではわからない。お金がかかっているように見えるが実は ?」という鋭い質問も投げかけられた。

「私はセットを作るのも好きですし、モノクロ映画は闇が主役なので、そんなに苦労 はないですよ。サイレント映画が好きな理由のひとつに、撮影中に俳優に指示が出せ るからという理由もあります。ときどき、俳優がびっくりするような指示を出すこと もありますよ(笑)」

(取材・文/細谷美香)




BACK




フィルメックス事務局から、最新のトピックスをお届けします。「フィルメックス瓦版」