2006年11月19日
『地獄の饗宴』トークショー
第7回東京フィルメックスの特集上映「岡本喜八 日本映画のダンディズム」。東京国立近代美術館フィルムセンターでの『地獄の饗宴』上映の後、製作現場での岡本監督について、寺田農さんと寺島進さんのおふたりに語って頂きました。
林加奈子ディレクター(以下、林)
「まずはお二人の岡本監督との出会いをお聞きします」
寺島進(以下、寺島)
「出会いは約20年前になりますが、それは僕がこの世界に入ったきっかけでもあります。僕が運転手としてついていた殺陣師の宇仁貫三さんが『ジャズ大名』に参加されたんですが、僕もいろんな役者さん達と殺陣の稽古を一緒にさせていただいて。そういう繋がりで『ジャズ大名』の現場に入れて頂きました」
寺田農(以下寺田)
「私は『肉弾』が最初ですが、その前年に『日本のいちばん長い日』に出演が決まっていました。扮装テストの時、監督にやたら体を触られて。この業界、そちらの方も多いのでこの人もそうなのかな、と。その時は結局スケジュールが合わなくて参加しませんでしたが、翌年『肉弾』をやることが決まりました。その時「『日本のいちばん長い日』の時に触ったの覚えてる?」って聞かれて、「覚えてますよ、監督もそっちかなって思った」って答えたら、「いやいや、痩せ具合とかを確かめてたんだよ」と言ってました」
林
「今回の特集に「日本映画のダンディズム」というタイトルをつけましたが、監督のダンディさを物語る逸話は本当に沢山聞きますね。いつも真っ黒い服装でいらっしゃったとか」
寺田
「当時から下着まで黒でした。今なら黒い下着だってありますが、これはママ(岡本みね子夫人)も大変ご苦労されて、浅草の問屋さんまでわざわざ買いに行ってました。常にいろんな種類の帽子をかぶっていて、また格好いいんですよ。それに細身の黒いジーパンでね。東宝の撮影所なんかで遠くから歩いてくる姿を見かけるだけで、みんなワアッとなって、おー岡本喜八だ、と。本当にスターの監督でした」
林
「さて、今回の特集には三船敏郎さんの出演作品も入っていますが、黒澤明作品とは違った味わいの三船さんを皆さんにも楽しんで頂けると思います。岡本作品ではリラックスして、しゃれた感じがでてますよね」
寺田
「岡本監督は、三船さんとは若いときに一緒にアパートで住んでまして、喜八ちゃん、三船ちゃんって感じで、長いこと一緒にいたので気心が知れていたんですよね。『赤毛』なんかでは、三船さんは非常にリラックスしてのびのびと楽しげに演技してて、わがまましてましたね。例えばロケで音がなかなか録りにくい所で、「こりゃアフレコにしろ」って三船さんが言うと、当然アフレコになるのですが、アフレコの時になって、「何でこんなの現場で録らないんだ」って、自分がアフレコ合わなくなってそう言ったりね。そういうのを監督がニコニコしながらこたえてましたね」
林
「現場での演出の時の厳しさとか、指示の細やかさなどはいかがでしたか」
寺田
「監督ご自身から聞いた話ですが、コンテはクランクインの前に大体70~80%は出来上がっていて、現場では、コンテ通りで絶対に変えないんですよ。その代わり、それだけの腕がないとその時間内に終わらないわけです。現場では芝居のことよりも、リズムについてよく言われましたね。自分の編集のリズムとそれぞれのカットのポイントがあるので、そこが合わないと後で編集の時にうまくいかないんです。『肉弾』で大谷直子さんと雨の中でぶつかるシーンがあるんですが、ポンポンポーンというのがうまくいかず、一日で28回ぶつかりました。相撲部屋の当り稽古のような感じで。帰ったら片方の肩だけが大アザになっていました」
林
「昨日の雪村いづみさん、岡本みね子さんとのトークショーでも監督の平等主義についてのお話がでましたが、その辺のエピソードは何かありますか」
寺田
「『肉弾』の大谷さんの役は最初は別の人が決まっていました。その方が事情があって出られなくなってしまい、急遽探すというので、毎日、撮影が終わってから監督が面接をしてました。その時に監督が「寺田君が気に入らなければだめなんだから君も付き合いなさい」というので、僕もメインスタッフと一緒に面接をしました。最終的に候補を二人に絞ったところで、それこそ全員、ボランティアも含めて、無記名投票して決定したんです。監督は、(出演者は)みんなに気に入られて愛されないとだめだっていう方でした」
寺島
「『ジャズ大名』の撮影の時、夜遅くまでかかった時に、奥様から手作りのおにぎりとお惣菜の差し入れがきたんです。僕らなんて、その頃は大部屋でも一番下っ端だったのに、食べて下さいって来てくださいましてね。おにぎりの暖かさと手作り感のある現場の雰囲気を映画にも感じまして、映画はみんなで作るものなんだって思いましたね。映画が本当に好きになった瞬間でした」
林
「寺島さんは岡本監督の作品に似合う役者さんだなって思いますね。特に時代劇とか」
寺田
「岡本監督は寺島さんみたいなトッポイ役者が好きなんですよね。なんか不良っぽくて格好いいっていうか、ドンピシャリだと思うんですよね。そのまんまで」
寺島
「撮影の待ち時間があるじゃないですか。寺田さんはその時の立ち姿がとても格好良かったですね。芝居はもちろん素晴らしいんですけど、たたずまいがとても良くて、こういうオッサンになりたいなあって思ったんですよ(会場、笑)」
林
「寺田さんの格好良さやダンディズムが岡本監督のダンディズムに重なる部分があるんですね。だからこそ、何度も起用されているのだと思います」
(取材・文:大津留汐子)
投稿者 FILMeX : 2006年11月19日 14:00