11月24日、コンペティション作品である『ノン子36歳(家事手伝い)』が有楽町朝日ホールにて上映された。上映終了後に熊切監督、出演の坂井真紀さん、星野源さんを迎えてQ&Aが行われた。30代半ばにしてバツイチ、出戻り、家事手伝いのダメ女をリアルにそして暖かく描くこの作品は、しばしば笑いが起きる和やかな上映となった。Q&Aでは、ノン子のキャラクターに対する質問を中心に活発に質問が投げかけられていた。
満場の拍手の中、熊切監督、坂井さん、星野さんが登場。林 加奈子東京フィルメックスディレクターの司会でQ&Aがスタートした。
主演の坂井さんへ「ラディカルでモダンな女性で、ユニークな役柄だと思うですが、この役を演じた個人的な思いをお聞かせください」との質問が英語で寄せられた。
「映画の主役(というイメージ)とはちょっと違うかもしれないけれど、どこにでもいる人というよりは、どこかにいる人を演じれられたらと思った。共感はできないけれど、こういう人っているな、と思っていただければ」。ともすれば負け犬キャラクターとも取られかねないノン子のキャラクターを、気負わずに冷静に取り組む坂井さんの姿勢が見えてくる。
ノン子を慕うマサルの役を演じた星野さんは「坂井さんとの共演、またはひよこ(マサルが育てる縁日のひよこ)との思い出」について語った。
「撮影をしている時には真剣なんですけど、撮影以外で(坂井さんと)二人でムダ話をするのが楽しかった。そのやり取りが実際のノン子とマサルの不思議な距離を作っていたのではないだろうか。普通だったら、くっつかないような二人なんですけど、惹かれあうっていうところが伝わっているんじゃないかな」と坂井さんとの何気ない会話の積み重ねが演技に影響を与えているとコメントした。また、ひよことの思い出については「主演男優賞か主演女優賞か、どっちか分からないですけど、ひよこが一番がんばってた。この作品はバカな人たちが、バカなことをして、バカな人しかできない奇跡を起こすんですけど、この奇跡のシーンにひよこは重要な役割を果たしています。すごく、ひよこ、かわいくて、すごく臭かったです」淡々と語る口調に会場からも笑いがこぼれる。主演男優賞(もしくは女優賞)のひよこの演技も見もののひとつである。
次に、作品に使用されている音に関するこだわりについて質問が寄せられた。本作品で効果的に使用されている音がいくつかあるが、その中でも熊切監督はノン子の履いているこのカランコロンと音がなるサンダルについて「完全に狙って、音で選んだ」とうれしそうに答えた。「個人的な話なんですけど、うちの母親が同じサンダルを履いていて、なついている猫が散歩の時に、そのサンダルの音についてきていたんです。マサルが捨て猫化していて、ノン子のサンダルの音についていけばいいなと」とサンダルに対する思いを語る。映画の随所に響く、ノン子のサンダルの音は猫でなく、年下の男をひきつけるアイテム?ぜひサンダルの音にも耳を傾けていただきたい。
ノン子のキャラクターに関する質問も多く寄せられていた。ノン子はがさつな性格なのか、それとも几帳面な性格なのかとの問いに、「ノン子は基本的にはサバサバしていて、細かいことにはこだわらない。でもしっかりした人」と熊切監督。また、20代の男性から「これからの一緒にがんばろうという夢の話の後で、元夫に体を許してしまうというキャラクター設定でいいのか?ここでは体を許さないでほしかったのに」とのユニークな問いに会場に一斉に笑いが起きた。ここで熊切監督が「僕も大学生位だったらそう思うかもしれないけど、大人になると分かる。ああこういうもんなんだって」と言えば、坂井さんは「私も大人なので、体を許す、この感覚は分かります。でも、ピュアな気持ちを思い起こさせていただいてありがとうございました。」とのコメントに会場は再び爆笑。
活発な質疑応答からは、見た人々がノン子の見た目、行動、しぐさ、からキャラクターに深く入り込み、自分の中でそれぞれの形で消化している様子がうかがえた。36歳、家事手伝いという状況を卑下することなく、自然体で生きているノン子の姿は魅力的で、年齢や性別を超えて人々をひきつけてやまないのだろう。
この作品は12月20日より銀座シネパトス、渋谷シネ・アミューズ(12/20よりヒューマントラストシネマ文化村通りと改称)、千葉劇場他、全国公開が決定している。
(取材・文:安藤文江)
投稿者 FILMeX : 2008年11月24日 21:30