11月23日、コンペティションに出品の『PASSION』が、有楽町朝日ホールにて上映された。上映の前に、濱口竜介監督と、出演者の占部房子さん、河井青葉さん、岡本竜汰さん、岡部尚さんによる舞台挨拶がおこなわれ、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターの司会のもと、濱口監督はこの映画への思いを、出演者の皆さんは撮影時に心に残ったエピソードを、それぞれ語った。
『PASSION』は、東京藝術大学大学院映像研究科で学んだ濱口監督が、大学院の修了作品として制作した映画である。「(大学院の)小さな会議室から始まった作品が、こんなに多くの人に観てもらえることになって嬉しい」と、会場を見渡して喜びを語る濱口監督。「役者さんを見てもらう映画です」と、出演者たちに感謝の意を表した。
続いて、出演者が挨拶をした。「濱口監督と初めて会ったとき、(顔合わせの)最後に、『ひとりひとり、アカペラで歌を歌ってください』と言われた」と語ったのは占部さん。監督のその申し出に驚いて、戸惑いながら歌ったそうだが、「よくよく考えると、濱口監督は、こうやって人の心をひらかせてコミュニケーションをとるんだ、と思った」という。「出演者が恥ずかしい部分も見せあうことで、コミュニケーションのよさと、その難しさが表れた作品になった」と結んだ。
河井さんも、「撮影中の秘話というと、最初の顔合わせで歌を歌わされたことを思い出す」と笑顔になった。「撮影前の1週間のリハーサルで、みんなでジェスチャー・ゲームをやったり、過去の恥ずかしい話をしたりもした」と語り、「そのときは、これらが作品にどう反映するのかわからなかったけれど、完成した作品の試写を観て、すごく反映されていると実感できた。この映画は『どんどん、ひとりで先に進んでいく作品』になると思う」と続けた。
「僕自身も、この映画の登場人物と同じ30歳前後の年代で…」と語り始めたのは、岡本さん。「結婚、恋愛、仕事など、『今後、どうやって生きていけばよいのか』と考えていたときに、この映画に出演したことで、30歳代を楽しく生きるよいきっかけをもらえた」と話し、「観客の中に30歳代のかたがいらっしゃるとしたら、なにかを考えるきっかけになるのではないかと思う」としめくくった。
「『PASSION』の現場は、とても楽しかった」と話す岡部さんは、「濱口監督は怒らないし、女優さんも綺麗だし、弁当も美味いし」と続けて、観客の笑いを誘った。「映画の撮影は、もっと苦しいものではないか、と思ったときに、ふと、濱口監督を見ると、とても悩んでいる顔をしていたので、『(出演している)僕たちは楽しいけれど、監督が苦しんでくれているから大丈夫だ』と思った」と、ユーモアをまじえて語った。
『PASSION』は、横浜を舞台に繰り広げられる、30歳代前後の男女による群像劇である。膨大な台詞が応酬する緊張感にあふれたドラマ映画で、その完成度の高さは、学生映画の概念を覆す。今年9月に開催された第56回サンセバスチャン映画祭サバルテギ部門でも上映されている。
(取材・文:川北紀子)
投稿者 FILMeX : 2008年11月23日 17:30