11月29日、特別招待作品として有楽町朝日ホールにて上映された『愛のむきだし』上映終了後、監督の園子温氏を迎えてQ&Aが行われた。上映後も会場内は、4時間にわたる興奮の余韻を残す観客たちの熱気で満ち溢れていた。
まず、園監督からは「長丁場、どうも皆さんお疲れ様でした」と観客に向けたねぎらい(?)の言葉が。監督への熱い視線が集まるなか、早速、質問者の手が挙がった。主演の西島隆弘さんと満島ひかりさんについて、2人の演技で感じたことは、という質問には「2人ともこれだけのスケールの映画に出演するのは初めてのことで、そのことは良い意味で成功していると思っています。というのは、2人とも若くて新人で、(演技をする上で)こういうことをしちゃいけない、これがルールだ、という型が出来ていなくて何にも染まっていない純白さがある。だから思いきり羽を伸ばして表現できたと思う」と監督。また、本作にみられる性描写やバイオレンス描写は若い俳優にとってリスクがあるのでは、という質問には「たしかに今は純粋培養の俳優が多くてNGとされることが多すぎる。かつての浅野ゆう子や原田美枝子の演技を観てすごい、と思うことがあったが、それに比べて今の俳優は…特に日本の俳優はダメだと思う。最近の恋愛映画をひとつとってみても、日常の泥臭さを描けていないし、表現できていない。その点本作の3人(西島さん・満島さん・安藤サクラさん)の勇気、表現に対する貪欲さ、真面目さーを僕はとても評価しているし、他の俳優もそうあってほしいと思っている。3人ともが勇気をもってこの映画に挑んでくれたお陰でこの作品があります」と答えた。
本作は映画の冒頭にも提示されている通り、実話がベースになっているというが、その点についていくつか質問が及んだ。「この作品は、ほとんど全て自身の経験と、知人の経験から出てきたものです。自身の実話がシナリオのベースとなっているが、それ以外の部分も別の人の実話から作り上げたものです。他人の目から見ると、僕の人生は相当変な人生らしいです。僕自身としてはごく真っ当に生きてきたんですけど…自分が体験してきた「現実」は奇妙なことが多かった」と監督。ちなみに本作は20年前の実話を基にしているが、20年近い蓄積を経たのち、今から3年ほど前にこの話を映画にすることを思い立ったのだという。
つづいて寄せられた質問は「監督の作品には『自殺サークル』(02)をはじめ、制服の女子に対するこだわりがあるように感じられるが…」というもので、会場に笑いが起こった。監督は「えーと、どう答えようか…」と戸惑いを見せながらも、もともとセーラー服には全く興味がなかったにもかかわらず、あるとき映画を通じて、興味を抱くようになったのだと語った。映画の中では、魔法に掛かったようにセーラー服が美しく見える瞬間があるのだという。それはあくまで映画の中での話であって、現実の世界では起こりえないことだとか。
次に、上映時間について。はじめから4時間の構想だったのか、編集の段階で、これだけの時間がないと観客に伝えたいことが伝えられない、と判断してのことだったのか、という問いには、「脚本がタウンページ並みの厚みでして。脚本が立つんです(笑)」と監督。「これをやるのに一体何時間掛かるのか見当もつかず、覚悟を決めて取り掛かりました。でも長さにこだわるとかギネス記録を狙うとかそんなつもりはなくて、長さなんてどうでも良かった。人が面白いと思えるものを作りたくて、始めに6時間あったものをギリギリまでカットして4時間にしました」とのこと。
物語の前半と後半との展開の違いを指摘した質問に対しては、「前半にコミカルな要素を入れた意図は、盗撮や盗みといった引っ掛かるテーマがふんだんに出てくる前半ではそういった負の要素をそのまま描くのではなく、どこかさわやかに、明るくそして…可愛く(笑)描きたいと思ったからです。実際リアルな盗撮現場なんて観るほうがひいてしまうけど、本作の盗撮シーンは香港アクションを織り交ぜた、僕自身が考案したものです。でも実際あんなやり方で盗撮しているヤツなんかいないですよ」と会場の笑いを誘った。また、作品には監督自身が好きな映画の記憶を、オマージュの意味もこめて反映させているとのこと。盗撮シーンでの香港アクション風の演出をはじめ、東映『女囚さそり』シリーズなども本作にエッセンスとして投影されているという。
最後に市山東京フィルメックスプログラム・ディレクターより、『愛のむきだし』原作本の紹介がされた。「映画でしか表現できないことは映画で、こちらは小説で表現したら面白い、と思う部分を集めた」(監督)作品とのことで、映画とはまた違った面白さが期待できそうだ。なお、小説版『愛のむきだし』は12月10日に小学館より発売される。お値段も「そんなに高くない」(監督)1,365円(税込)とのことなので、書店で見かけた際にはぜひ、お手にとってみて頂きたい。
会場は終始、若々しいパワーで溢れていた。上映後にはひときわ大きな拍手と歓声が響きわたり、質疑応答の場で「園監督、大好きです!! 映画、最高です!!」と叫ぶ観客もいたほど。これぞ映画祭の醍醐味!といえる、充実した4時間であった。
(取材・文:大坪加奈)
投稿者 FILMeX : 2008年11月29日 22:00