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2008年11月30日 『ティトフ・ヴェレスに生まれて』Q&A

titov_1.jpg 11月30日、特別招待作品『ティトフ・ヴェレスに生まれて』が有楽町朝日ホールにて上映された。ティトフ・ヴェレス(ヴェレスの旧称)という、ユーゴスラビアの歴史的指導者であったチトーの名前がつけられた産業都市を舞台に、3姉妹の心情や生活を色彩豊かに描いた映画である。上映終了後、テオナ・ストゥルガー・ミテフスカ監督が登壇しQ&Aが行われた。映画のなかでの印象的な色使い、ミテフスカ監督の出身国であるマケドニアやチトーについての質問が観客から相次ぎ、ひとつひとつ丁寧に答えるミテフスカ監督の真摯な姿勢が印象的だった。

ミテフスカ監督は「日曜日の朝早い時間に関わらず、来場いただいた皆さんに感謝します」と挨拶。「皆さんチェーホフの「三人姉妹」を想像されたと思うのですが、チェーホフの映画化ではなく、オリジナリティーにあふれている」と林加奈子東京フィルメックスディレクターが述べ、特に映画のなかで色彩を効果的に使った独特のビジュアルイメージについて、ミテフスカ監督に質問した。
「私は映画が大好きで、映画と共に育ったと思います。この映画では、視覚性が題材、内容やストーリーと深く結びついているものを作りたかった」とミテフスカ監督。演出、照明やコスチュームが映画の視覚性の要素であり、色彩は特に人物の感情描写を表しているという。画面のひとつのフレームがそれぞれ独立した存在として要素を持ち、そのためにも視覚芸術としての意味を考えながら作っていったと話した。
「シネマスコープサイズを選んだ理由は」という会場からの質問に、ミテフスカ監督は「迷ったが、撮影監督のヴィルジニー・サン=マルタンがシネスコを強く支持しました。シネスコでは一枚一枚の構図をしっかり考えないと撮れない」と語り、「フィルムで制作される映画がハイビジョンに代わりつつあります。フィルム、特にシネスコが消えてしまうかもしれない危機的な状況だからこそ、大好きなフィルムにこだわりました。フィルムが現実をいちばん表現できるメディアだと思う」と述べた。

titov_2.jpg 舞台にティトフ・ヴェレスを選んだ理由について問われると、「マケドニアは非常に小さくて、車で2時間半も走れば通り過ぎてしまう国です。ティトフ・ヴェレスは私の住んでいるスコーピエから30分ほどの距離ですが、この街を選んだのは、二つの理由があります」と答え、「ひとつは、中心に工場があることです。怪物のような工場が、そこに住む人々に糧を与えると同時に彼らを殺してしまうモンスターでもあるという二面性があったのです」。映画監督として、社会問題について語り続ける責任があり、公害がマケドニアだけでなく世界で重要な問題と考えたと語った。
二つめの理由として、ミテフスカ監督が生まれ育った時代は、ユーゴスラビアの父であり、偉大なリーダーであったチトーの時代に大きく関わっている。ユーゴスラビアは6つの共和国で成り立ち、それぞれの共和国には工場が中心にある、チトーの名前がついた街があった。それは近代化、工業化を推し進めたチトーの方針だったが、工業化は、同時に人々に死をもたらすような進歩でもあったと話し、映画の背景とテーマに、ティトフ・ヴェレスという街の持つ歴史と現状を重ねたことを伝えた。
次に、会場の女性観客が「赤と緑といった色彩の使い方、光と影、演出も好きで、ヒロインの心情にも共感できました」と感想を語った後、チトーという過去の人物についての印象と、国外に出る場合のビザ状況など、マケドニアの社会状況について質問した。
ミテフスカ監督は、これに対して「産業化、近代化をもたらしたチトーに対しては、ある種のノスタルジアがあり、複合的で愛と憎しみ、どちらともいえない複雑な感情があります。公害は偶然に起こったことです」「私はビザなしで日本に来ることができましたが、マケドニアは閉鎖的な国で、ビザを取るのは非常に困難」と説明した。「私たちは持っていませんが、世界を自由に動きまわることは基本的な権利であると思う」と熱く語った。
マケドニアとギリシャの関係について質問が及ぶと、今日、ギリシャとマケドニアの間には歴史的に複雑な関係があり、ギリシャがマケドニアという呼び名を使用する権利を行使させないと主張していること、ミテフスカ監督自身は、歴史は誰のものでもなく、皆のものと考えていることを説明した。

好きな監督として、小津安二郎、ミケランジェロ・アントニオーニ、イングマル・ベルイマンの3人を挙げ、「小津監督の映像のテクスチャー、演出の方法や動かないカメラ構図に影響を受けた」と語った。時間を延長して観客からの熱心な質問に応じてくださったミテフスカ監督に、映画の後と同様に観客からは惜しみない拍手がおくられた。


(取材・文:宝鏡千晶)


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投稿者 FILMeX : 2008年11月30日 14:00


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