11月26日有楽町朝日ホールにて、コンペティション作品の『天国の七分間』が上映された。本作はオムリ・ギヴォン監督の監督デビュー作となる。イスラエルから来日した主演女優のレイモンド・アンセルムさんは、舞台挨拶でオムリ監督のメッセージを代読し、上映後の質疑応答では、観客から寄せられた数々の質問に応じた。外国人プレスからも質問が挙がるなど、本作品への注目度の高さが窺えた。
上映前の舞台挨拶で、レイモンドさんは来場の喜びと感謝の気持ちを述べ、来日できなかったオムリ監督からのメッセージを次のように読み上げた。「本日は行けなくて、とても残念です。東京フィルメックスに招かれて大変光栄に思います。映画作家として、新しい観客に披露できたことを大変嬉しく思います。興味深く観ていただけることを祈っています。『天国の七分間』の監督、オムリ・ギヴォン」。
そして上映後の質疑応答で、まずレイモンドさんは、「最初に監督が思い立ったのは、ホラー映画の企画でした。ある女性が交通事故でボーイフレンドを亡くしてしまい、罪悪感に苛まれるというものでした。しばらくして、エルサレムでバスのテロ事件が起こり、大々的に報道されました。バスの残骸がまるでバスの墓地のようで、監督はその様子に圧倒されてしまいましたが、映画のキャラクターとバスの墓場というイメージが重なって、今回の映画の骨格が決まりました」と、7年間という長い制作期間をかけた、映画の構想の成り立ちについて語った。
客席から、最後のシーンについて、「実際に起こっていることではなくて、主人公の女性(ガリア)の願望や希望が、あのような形で描かれているのですか」と質問が挙がると、「この映画でリアルな場面というのは、最後の二つのシーンだけなんです。その他のシーンの全ては、彼女の七分間の仮死状態の時間なんです。監督いわく、この映画はファンタジーです」と、レイモンドさんは解説した。
続いて、外国人男性の、「イスラエルにホラー映画はあるのか、またこの作品の本国イスラエルにおいての反応はどうか」という質問に、レイモンドさんは、「たしかに、ホラー映画はイスラエルにかつて1本もありません。今回ホラー映画にはなりませんでしたが、監督はいずれ作るだろうと思います(笑)。イスラエルでの反応は、信じられないぐらい良かったのですが、いままでのところ、ハイファ映画祭や学術的な上映しかされていません。12月24日に一般公開される予定です」と答えた。
また別の人からの、テロを起こした側に対する憎しみが描かれていなかったのは意識的であったのかという質問にたいし、レイモンドさんは、「この映画の制作にあたり、何度もリサーチを重ね、多くのテロの被害者と話をしたのですが、一度も憎しみや復讐を語る人はいませんでした。彼らはみな人生を続けること、新しい人生をどのように生きるかということを話してくれました。大きなトラウマにあった人間というのは、世界観の規模がすっかり変わってしまうのではないかと思いました」と語り、憎しみや復讐については、何度も「never」という言葉を繰り返して否定していたのが、とても印象的だった。
最後にイギリス人の女性から、トラウマを抱えた女性を演じる上で困難だったことについて訊ねられると、「感情的に、そして肉体的に困難だったシーンはたくさんあります。リサーチをしていて、99パーセント火傷に覆われてしまった女性と出会いました。その痛みは考えられないほどの苦しみで、痛みに襲われた時に、どのような動きをするかをやってみせてくれました。映画の中では彼女が説明してくれたままにやらなければならないと思ったし、彼女の痛みに忠誠を誓う気持ちで演じました。あとラストシーンは、ガリアが愛や希望を手放すシーンだと思うんですけど、私個人としては理解できなかったので、それをどのように解釈するかということで苦しみました。そして、このように考えたんです。ガリアに他に選択肢はない。もし彼女がボアズを選んでしまうと、恋人が死んだということを認めることになります。人間の人生というのは、一つの愛よりも大きいはずだ。人生と愛は等しくない、それは、自分にとって心が爆発するほどの衝撃でしたが、そう考えることでこのシーンを演じることができました。また長い期間、ガリアという喜びの瞬間があまりない役柄を抱えて、演じ続けるのは苦しかったです」と、レイモンドさん。
撮影は20日間だったそうだが、レイモンドさんは準備期間も含めた7年間、最初から監督と一緒にリサーチから作り上げていったという。林加奈子東京フィルメックスディレクターは、「テロによって壊された人生を立て直すという内容で、リアリズムとファンタジーが融合した素晴らしい作品」と評し締めくくった。
(取材・文:鈴木自子)
投稿者 FILMeX : 2009年11月26日 20:00