上映前の舞台挨拶では、イ・ヨンウ監督が「みなさん、こんばんは」とまず一言、日本語で挨拶。その後、客席へ感謝の言葉を述べると、長く待たせては申し訳ないというイ監督の配慮により、早速上映に移った。

上映終了後に再び姿を現したイ監督は、大満足した客席からの拍手で迎えられると、「みなさん、本当にお疲れ様でした。お手洗いに行きたい方がいたら、行って来てください」と気遣い、「こちらに来てくださった一人一人みなさんに感謝しています。生まれて初めて海外の方に作品を見ていただくことになり、本当に嬉しいです」と喜びを表した。

地方の農村を舞台に、二人の子持ちだが仕事はパッとせず、日々の生活にも苦労するダメオヤジの中年刑事が、武道の達人である犯罪者を追うという一風変わった刑事ものの本作。作品に込めた思いを尋ねられるとイ監督は、「今回の映画では、刑事が犯人を捕まえるところを中心にしようとは考えませんでした。あくまでも、40代の家庭の大黒柱の男性の話を撮ろうと思いました。ですから、犯人を捕まえるところには、家族を守るためという意味が込められています。そして、自分自身が田舎で生まれたので、田舎で映画を撮りたいという気持ちもありました」と回答。

また、キム・ユンソクとチョン・ギョンホ、対照的な2人の熱演が光る本作だが、彼らを起用した理由については、「キム・ユンソクさんには娘が2人いるので、父親の気持ちがわかるのではないかと思いました。あと、お腹も丁度いい具合に出ていましたので、私の考えている“亀”のイメージにも合うかなと思いました（笑）。そして、亀が追うのはやはり“ウサギ”です。チョン・ギョンホさんには、ウサギの素早さのイメージがあると考えてお願いしました」と語った。

随所に盛り込まれた笑いで場内が沸いたことについて、女性客からの「私たちが笑ったところは、監督が笑わせたいと考えたところだったのでしょうか？」という質問には、「私が笑いのポイントとして考えていたところは、皆さん一緒に笑ってくださったので、とても気持ちがよかったです」と満足そうに答えてくれた。

続いて、撮影の裏話として、夏場の暑さの中で大変だったことに加え、「苦労したのは農村での夜間撮影です。稲作をしている農村で撮っていたのですが、本当は夜に照明を焚いてしまうと、なかなか稲が育たないということで、ご迷惑をお掛けしてしまうのですが、暖かい方が多くて、理解を示して助けていただきました」と明かした。

さらに、今後の予定について尋ねられると、「私は現実に有り得ないような荒唐無稽な作品よりも、現実にありそうだと思える作品の方が好きです。今の時代はデジタル化に向かっていますが、私はアナログの方が好きなので、アナログな印象の作品をこれからも撮っていきます」と抱負を述べてくれた。

やがて終了時間が来るとイ監督がカメラを手に取り、客席を記念撮影。その後、「もう少し話を聞きたい、私と一緒に写真を撮りたいという方がいたら、外で待っているので、ぜひ来てください。」と呼びかけると、劇場の外には50人以上の行列が。寒空の下、22時近くまでファン一人一人にサインや記念撮影を行って、交流を楽しんでいた。

「韓国映画ショーケース2009」は11月30日まで有楽町スバル座で開催。「亀、走る」は24日16時から再び上映される。

（取材・文：井上健一）