11月22日(土)18:45 -朝日
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畑明広(監督)
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フランス、ルクセンブルク / 2025 / 92分 /監督:畑明広(HATA Akihiro)
建設作業員のヴァンサンは、未来的な巨大複合施設「グラン・シエル」の夜間工事現場で働いている。ある日、同僚の作業員が行方不明になり、現場主任が事故を隠蔽していると労働者たちは疑念を抱く。その後も別の作業員が姿を消していく中で、彼らは団結し、仲間の失踪の謎を解明しようとするが...
本作は、フランスの巨大な未来型都市開発現場を舞台に、労働者の過酷な現実を冷徹な視線で描き出す社会派ドラマとして幕を開ける。夜間シフトの現場作業員のヴァンサンは、家族のより良い生活という夢を叶えるため、献身的に働く。しかし、同僚である移民労働者たちの相次ぐ不可解な失踪と、それに対して何も手を打たない上層部を前に、現場の不穏な空気は高まっていく。そして上層部からの昇進の誘いは、ヴァンサンを同僚たちから決定的に引き離してしまう……。労働者たちの間に不安や不信が広がる過程と並行して、リアリズムを基調としたこの作品にジャンル映画の要素が次第に混入されていく。労働者たちが掘り進む薄暗い地下空間は次第に恐怖が潜む場所となり、巨大な建造物はいつしかディストピア的空間へと変貌する。進歩を象徴する都市開発が完成に向かう一方で、その礎となった労働者たちの精神と倫理が静かに崩壊していく様を、恐怖映画の表象と共に描く演出は、観る者に鮮烈な印象を残すだろう。本作はベネチア映画祭オリゾンティ部門にてプレミア上映された。
監督:畑明広(HATA Akihiro)
1984年、兵庫県生まれ。2003年に渡仏し、パリ第1大学(パンテオン・ソルボンヌ大学)で映画学の学士号を取得後、2006年に国立映画学校La Fémisの映画監督科に日本人として初めて入学し、2010年に卒業。監督した中編映画『Les Invisibles』(2015)と『On the Hunt』(2016)がともにクレルモン=フェラン短編映画祭などで上映され、ドキュメンタリー作品SOLITARY BODY (2018)を手掛けた。
雇用不安と社会的圧力は、どのようにして人間の心身を密かに蝕み、連帯感や信頼、仲間意識までも破壊するに至るのか―これが『グラン・シエル』の核心にある問いである。この映画は社会的地位の低下に怯える派遣労働者ヴァンサンを通して、公共善の意識が私利私欲により徐々に取って代わられる様を描いている。その変化は彼の家庭生活にも波及する。失敗への恐怖から、人間関係が綻び、すり減っていくのだ。ヴァンサンは、肌身に感じる切実な脅威に常に晒されて生きている。冷酷な経済システムという「静かな戦場」においては、労働者はひとりひとり、自分の居場所を守るために闘わなくてはならない。さらに、建設現場の奥深くに響くこだまのような、より静かな脅威が潜んでいる。建設現場は、ネオンの光がやつれた顔を照らし、静寂が喉を締めつけ、思考を窒息させる、コンクリートの迷宮である。あまねく広がるコンクリートは冷たく無機的で、舞い上がる粉塵は毒霧のようにあらゆる隙間に忍び込み、すべてを覆いつくそうとする。それでも、巨大建設現場は、あらゆる犠牲を飲み込みながら膨張し続ける。
11月22日(土)18:45 -
有楽町朝日ホール
11月25日(火)16:45 -
ヒューマントラストシネマ有楽町