第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「カナリア」塩田明彦監督 単独インタビュー
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主人公は母親に連れられてカルト教団の施設で育った12歳の少年・光一。祖父に引き取 られた妹を奪い還すために児童相談所を抜け出した彼は、孤独な少女・由希と出会い旅を 続けていく……。『カナリア』はオウムのサティアンから保護された子供たちの顔に強烈な印象を受けた塩田監督が、彼らの“その後”を描きだした作品だ。






「オウム事件そのものは、僕だけではなくて日本中が無視できない、考えなければならない事件だったと思います。当時は、実際に起こった出来事にひたすら圧倒されていたという状況だった。でも実は教団幹部たちと僕の年齢が近いということもあって、彼らがああいう方向に走っていったことがリアルに感じられる部分、自分も向こう側に行っていた人間かもしれないという思いが恐怖とともにあったんですね。そう感じた自分がいて、自分が映画を作る人間である以上、映画を通してその世界のほんの片隅でもいいから描けないものかとずっと思っていたんですよ。でも糸口がまったく見つからない。あるとき、あの事件でいちばん印象に残ってることはなんだろうってフラットに考えたときに浮かんできたのが、サティアンから保護された子供たちの顔つきだった。現代日本であんなに攻撃的で闇を感じさせる顔をした子供が存在することに驚きました。それで彼らみたいな境遇におかれた子供がその後どんな暮らしを送っているんだろうということを調べたら、ほとんど資料がなかったんです。そのことは封印されているんだとわかった。真実を知ることができないもどかしさを抱えつつも、資料がないのだから想像力を働かせる余地がある。それに気付いたときに、あんな顔つきをした子供たちについて何か考えてみようと思いました」

 カルト教団の施設で育った子供たちという題材だが、描かれているのは決してセンセーショナルなものでも、どこか遠い場所で起こっている特別な出来事でもない。普遍的な家族をめぐる物語であり、カメラがみずみずしくすくいとるのは12歳の少年と少女のギリギリの躍動感だ。ラストには、絶望の先にほのかに見える再生へと望みをつないでいる。 「最初にアバウトに考えた流れでは、最後は完全な悲劇だったんです。彼らが辿りうるもっとも悲惨な末路はなんだろうと、自分にブレーキをかけずに一度考えてみた。そうすると光一が妹の生首を抱えて終わるような可能性も出てきたんです。でもそれをベースにしてしまうと、本当にこの題材と向き合っていないような気がしました。きっと別の道があるはずだ、別の道を見付けることによって光一という少年は成長できるはずだ。それもリアリティのある道であるならば、そっちを追求しなければならないと思ったんです。光一がどういう人間になっていくのかあれこれ考えているうちに、どんどん光一と由希が好きになって、こいつらは幸せにならなきゃいけないんだって考えるようになって。一度、最悪の結末を考えたからこそ人物のなかに入り込んで、ここに辿り着いたのかなぁと思ってるんですけどね」

 寡黙に世界を歩き続ける光一を演じた石田法嗣は、ほぼあて書き。「なにしろ走る姿が美しいし、後頭部から肩口にかけて異様な哀愁がある。それは西島(秀俊)くんにも水橋( 研二)くんにも共通する魅力ですね」。胸の空洞を埋めるようにオカンなノリで大阪弁を 話し続ける由希には、オーディションで「笑うときと怒鳴るときの落差がいちばん激しかった」という谷村美月を選んだ。これまでの『どこまでもいこう』『害虫』に引き続き、子供たちのハードボイルドとしか呼びようのない存在感を、いかにして引き出しているのだろうか。
「ハードボイルドであることは自分が目指していることなのですが、なぜそういう芝居になるのかはわからないんです。ただ見えない敵を前に必死で戦っている子供が好きなんですね。子供に限らず大人でも、その人のやっていることは善悪の区別がつけにくいけれども、彼らなりに筋が通った戦い方をしている。そういう人に引き付けられて、脚本でもいつもそういう人を書いています。でも演じさせるときに特別なことは何もしていない。それは(『害虫』の)宮崎あおいさんのときもそうでした。今回も我ながら驚いたしスタッフも驚いていたんですが、僕の現場に来ると勝手にいい芝居ができるようになっちゃうんです。これははったりではなく本当にそう。理由を分析すると、できて当然だとこっちが思ってるからかなと、最近思いはじめて。一切子供扱いはしない、できることをこっちが信じているとできちゃうもんなんですね」

(取材・文:細谷美香)




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