第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


DATES NAVI


「カナリア」塩田明彦監督 Q&A
TOP LINE INDEX



オープニング作品として上映されたのは、林ディレクターが「どの家庭にも起こりえることを描いた親子三代の話」と評する塩田明彦監督の『カナリア』。オウム真理教に対するアプローチから出発した作品だけに、上映後にもうけられた監督とのティーチ・インでは 、客席から「脚本を書く段階でリサーチとしてオウムの家族と会ったのか。もしくは会わなかったのか」という質問が投げかけられた。






「保護された子供にも肉親にも会っていません。その理由は単純に不可能だったからです。オウムの人たちに関わったカウンセラーに会ったりもしましたが、取材に答えようとする信者はいないだろうということであきらめました。公的機関による調査も行なわれていません。この映画は現実に起こったことではなくて、起こりえたかもしれないリアリティを探って僕が作り出したフィクションです」

終盤、主人公の光一がとてつもない絶望を体験する場面に関して、「光一の母親に対する心情がどのように変化して、ある種のハッピーエンドが訪れたのか」という質問も。 「人間の認識や思考というものが根本的に変化しうるのは、物凄い絶望を体験したときだと思っているんです。そのときに、癒しとは違う救済が訪れる。決して癒されないものに出会ったときに救いが起きる。そういう僕のものの見方が、ラストに反映されています。とても興味深い質問ですが、最後がハッピーエンドとは言い切れない部分もあるんですね。子供たち3人で生きてはいけないだろうし。実はその後どうなるか成人するまでのストーリーも作ってみたら、とても陰惨なものになりました。でも20歳過ぎてからの彼らは全然違う道を歩いて救われるという話になりましたね」

 また子役ふたりの好演について、「監督はどのように世界観を説明し、子役たちを導いていったのか」という声もあがった。
「子役に関しては、台本を読ませたところ、理解しているような気がしました。言葉で説明を求めたら説明できないかもしれない。でも直感的に分かっている気がしたんです。子供たちは僕らが考えるよりもはるかに理解力と表現力を持っている。自意識が芝居の邪魔をする大人よりも、子供に芝居をさせるほうがはるかに楽です」

 この日は客席に来場していた、『誰も知らない』なども手がけた撮影の山崎裕に「あれだけの手持ちの長回しを撮れたのは、山崎さんがいたからこそ。信頼があったからこそ、冒険できました」と感謝の言葉を捧げる一幕も。また「昨年のフィルメックスで開催された清水宏の特集上映に井上雪子さんがゲストとして招かれていることから、林さんに連絡をとってもらった。その映画がこうやってフィルメックスのオープニングで上映されて、縁というものは本当にあるんだなと感慨に浸りました」と、68年ぶりの銀幕登場となった井上雪子を監督に引き合わせたのは林ディレクターだという秘話も明かされた。

(取材・文:細谷美香)




BACK




フィルメックス事務局から、最新のトピックスをお届けします。「フィルメックス瓦版」