第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「ナルシスとプシュケ」ウド・キアー(俳優) Q&A
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70〜80年代、意欲的かつ革新的な活動を行ったハンガリーのボーディ・ガーボル監督。第5回東京フィルメックスの目玉のひとつであるガーボル特集から、1980年に製作された愛とロマンの大作ドラマ『ナルシスとプシュケ』が上映された。そして主役のナルシスを演じたウド・キアーがゲストで登場。上映前にも予定外の舞台挨拶を行い、会場を沸かせた。











「私も多くの映画に出演してきましたが、その中でも私にとってこれは重要な作品です。撮影に1年間かかっており、俳優としてはおそらく最初で最後の、夢のような体験でした」そして上映後、大きな拍手に包まれ再び登場したウド・キアー。まず来場していた故ボーディ・ガーボル監督の妻、ベラ夫人に敬意を評した後、24年前の作品をこの東京で、久しぶりに見ることができたということを大変喜び、作品の素晴らしさについて熱く語った。

「この作品は24年前に撮影されましたが、素晴らしいのは、デジタルで加工された部分がひとつもないということです。技術的なことはよくわかりませんが、ご覧頂いた、山の上を漂っている雲や、移り変わる花、それを1時間おきに撮影するとか、そういった特殊撮影をしたんだと思います。そのような映像を撮影するのに、監督は1年間を費やしました。私はラース・フォン・トリアーやそのほかたくさんの監督と組んで、アメリカやドイツで多くの映画を作っていますが、その中でもこの映画は私の1番好きな映画のひとつです。それはひとえに愛がある映画だからです。私も大変若いですしね(笑)」

そして「実験的で本当にゴージャスな素晴らしい作品」と感嘆の意を評した林加奈子ディレクターの言葉に続き、ボーディ・ガーボル監督との出会い、出演への経緯などウド・キアーの口から、映画誕生秘話が次々と飛び出した。

「ガーボルと私は(1976年の)マンハイム映画祭で出会いました。初めて会ったのに、私たちの間には何かエネルギー、気が流れるというか、言葉を交わさなくても通じ合うものがあったんです。授賞式で、大賞が発表される数時間前に、彼はいきなり私のところに来て、あなたと一緒に1本作りたい、という風に言ってくれました。私も同じ気持ちです、と答えました」

映画祭に一緒に来ていたウド・キアーの友人・ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーは、彼のことを知らなかったので、その話をしたところ首をかしげていたらしい。だがその直後の映画祭授賞式で、ガーボル監督の『アメリカン・ポストカード』が大賞を取ったので、ファスビンダーはもちろん、ウド・キアーも大変驚いたのだとか。

「2ヵ月後に私は初めてブタベストの地を踏みました。私は西ドイツの出身ですが、当時は、まだ東西の壁があり、社会主義国に入るのは全く初めての経験でした。多少は不安もありましたが、いざ行ってみると、素晴らしい毎日を過すことが出来ました。ハンガリーの人々は、私の知っている西側の人々より、濃い生き方、すなわち大地にしっかり根付いた生活をしていました。加えて好奇心が旺盛でした」

そしてまた、共産主義政権下にあった当時のハンガリーの厳しい状況も目の当たりに。

「皆さんには想像もつかないかもしれませんが、当時のハンガリーのインテリの人たちは、西側、すなわちアメリカやドイツの新聞さえも買うことを許されていなかったんです。そこでホテル住まいの私が新聞を(ホテルで)買って、彼らに渡してあげる、ということもありました。

随分後になってロシアに行く機会もあり、私は思いました。ロシアやハンガリーのように制約、プレッシャーがある方が、創作意欲やいろんな発想が生まれてくるんじゃないかと。まるで困難がひとつのチャレンジのようになって、表現したいという情熱、表現力を彼らにもたらしている、そんな気がします」

元々彼は主役の詩人・ナルシス役ではなかったのだとか。女優探しの段階で、ある女優の演技テストの相手役をウド・キアーが務め、その時の彼の演技が良かったため主役に決定した、というエピソードも明かされた。その饒舌すぎるトークにより、本来のQ&Aには、ほとんど時間がとれなかった。そこで「もっと皆さんと話がしたい。この後私はロビーにおりますので、どんどん声を掛けてください」と観客に呼びかけたウド・キアー。彼の人柄の良さが感じられる気さくなトークに、場内は終始温かい空気に包まれていた。

(取材・文/上原千都世)




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