第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「山中常磐」羽田澄子監督・審査員 単独インタビュー
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●『山中常磐』について

絵師・岩佐又兵衛の作といわれる重要文化財の絵巻『山中常磐』をめぐるドキュメン タリ ーを完成させた羽田澄子監督。30数年前から温め続けていた、監督にとっては 念願の企画だったという。

「我ながら驚いてしまったのですが、30年以上も時間がたっているんですね(笑)。67 年に『風俗画−近世初期−』という作品を撮ったときに、絵巻物を映画に撮ってみた いなと思ったんです。絵巻物ってパッと見ただけではそんなにダイナミックなもの じゃないし、おもしろいものじゃない。でもずーっと寄って見てみると、絵師の筆使 いや意欲がストレートに伝わってくる。それからずっと心がけて映画にできる絵巻物 を探してきました。やっと撮りたいと思えるものに出会ったのが、『山中常磐』だっ たんです。所蔵しているMOA美術館に許可をいただいたのが84年。ついに!という ところで、老人問題に関する作品をたくさん撮りはじめてしまって。絵巻物はなくな らないけれども、老人問題は刻々と変わっていく。ここ数年、その問題を追いけてい たので絵巻物を腰を据えて撮ることができなかったんですよね」

 息子と母の情愛を激しいタッチも交えながら描いた絵巻物「山中常磐」を、カメラ はときに常磐御前の表情にググっと寄りながら映し出していく。編集と浄瑠璃のリズ ムが渾然一体となり、見る者を独特のリズムに酔わせる構成が圧巻だ。

「カット割と音楽のリズムには、本当に苦労しました。ここで使っている古浄瑠璃は すでに廃れてしまったものなんですね。だから私自身も最初はどんなテンポかがわか らなかったんです。まずは私の感覚で絵巻を撮影して、文楽の鶴澤清治さんに作曲を お願いした。それから映像と音楽のテンポを何度も何度も調整していくという、気の 遠くなるような作業でした。常磐の顔にズームすることは、あの絵巻をはじめて見た ときから決めていたことです。数多くの絵巻を見ましたが、あれはかなり特異な表情 といえると思いますね。あそこまでのクローズアップ撮影はライティングの関係で難 しいので、一度スチールに撮ったものを拡大し、投影したものを撮影しています」

 マイケル・ムーア作品などのヒットにより、ドキュメンタリーの持つ影響力が論議 され ているが、羽田監督はここ数年、『痴呆性老人の世界』『安心して老いるため に』『住民が選択した町の福祉』など、老人問題を見据えたドキュメンタリーを精力 的に撮ってきた。一方、フィルモグラフィには、樹齢千三百年の桜の樹を撮った『薄 墨の桜』、『歌舞伎役者片岡仁左衛門』なども並ぶ。

「私が撮った老人問題に関するドキュメンタリーを、本当に多くの方が観て下さっ て、このことについてもっと考えてみようという運動も起こった。今も昔もドキュメ ンタリーにはそういう力があると信じて映画を作っています。そういえば老人問題を 追いかけていたときに、次は何を撮るんですか?と聞かれて絵巻物の話をすると、み なさんあまりの違いにキョトンとしてましたね(笑)。でも私にとっては両方とも興味 のあることで、自分に正直に撮りたいものを撮っているだけ。自分のなかではなんら 矛盾のない行動なんですよ( 笑)」


●審査員として
1957年の『村の婦人学級』を撮って以来、約80本を超えるドキュメンタリーを手がけ てきた羽田澄子監督。最新作の美術ドキュメンタリー『山中常磐』が特別招待作品と して上映された羽田監督に、審査員としてフィルメックス映画祭に期待することを 語ってもらった。

「私は最も古い世代に属している映画監督ですから、若い人たちが作った作品を観 て、びっくりすることもあります。というのも、私たちが若い頃は、映画を作るため に相当厳しい文法があった。お手本として、黒澤、溝口、小津の手法を勉強したんで すね。ところが時代が変わって現代美術が生まれたように、映画の世界でもまったく 新しい表現が出てきたんですね。私から観ると、なるほどこういう作り方もできるの かって、新鮮でおもしろい。文法の破り方がいいなと思えるものもあるし、ちょっ と……というものもあります。ただ勢いがあるものではなくて、芸術としての表現が 達成されてるかどうか。審査員としてはそのあたりを見極めたいなと思っています」

「正直にいうと、自分が映画を作ることのほうが忙しくて、あまりたくさん映画を観 ていないんです」という羽田監督。フィルメックスはアジアの若い才能を発掘し、応 援する映画祭だけに、「東南アジアなどの映画ももっと観てみたい」と語る。

「アジアの文化水準がどんどん高くなっていますので、それにともなって映画芸術が 花開いていくのは当然の流れだと思います。アジアの映画は以前はアメリカやヨー ロッパほど期待されていなかったけれども、その壁を破ったのが日本で、その次が中 国や台湾、韓国。今後はタイの映画などが伸びてくるような気がしますね。フィル メックスはアジアを中心に作家性あふれる監督の作品を見つめている。映画祭の可能 性を感じさせる、パワーに満ちた映画祭だと思います」

(取材・文/細谷美香)




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