第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


DATES NAVI


トークショー「香港映画最前線〜鬼才ジョニー・トーの映画術」
TOP LINE INDEX



昨年の「P.T.U.」に続いて、「柔道龍虎榜」が東京フィルメックスで上映されるジョニー・トー監督。今年は香港のアカデミー賞と呼ばれる香港電影金像奨で「マッスル・モンク」が作品賞を受賞。さらにベルリン映画祭に同作を、カンヌ映画祭に「ブレイクング・ニュース」を、そしてベネチア映画祭に、この「柔道龍虎榜」を出品するなど、今や香港一多忙な鬼才と呼ぶべき活躍ぶりである。そんなトー監督を迎えてのトークイベント。東京フィルメックスの市山プログラム・ディレクターを進行役、香港映画に詳しい映画評論家の宇田川幸洋が案内役を務めた。









宇田川幸洋「今年は多くの作品を監督され、しかも一作一作がまったく異なる企画ですが、そういう多産の秘密はどこにあるのでしょう?」

ジョニー・トー「よく訊かれます。確かに今年は多い方かもしれません。私は現在49歳で来年は50歳になりますが、体力的にも精神的にも充実しているうちに、たくさんの作品を作りたいからです。というのも、20数年、監督の仕事をしてきましたが、自分の映画の世界をまだつかんでいない気がするからです。限られた時間のうちに方向性をつかんでいきたいと考えています」

宇田川「今のところ、方向性はどこまで見えてきているのでしょう?」

トー「どの作品でも、いろいろトライして自分の得意な部分に気づいたりすることはありますが、いまだに結論にはたどりついていません。結論が見えたら、こんなにたくさん撮らなくなるでしょう(笑)。ただ、タイムリミットは考えています。具体的には2007年ぐらいまで、密度の高い創作活動を続けていくつもりで、その後はペースを落としていくかもしれません」

宇田川「「マッスル・モンク」にはビックリしたんですけれど、とてもアイデアに富んでいますね。その他の映画にしても、また違うアイデアが出てくる。これは脚本のチームと話し合うのですか?」

トー「どの題材も、普通の生活の流れからヒントを得る。それが私の一貫した姿勢です。人々の生活で起こることから何かを感じ取り、それを脚本家と話し合う。脚本家は私のアイデアを整理してくれるわけです。ただ、ひとつ言っておきたいのは、アイデアはどんどん更新されるので、脚本を完全に仕上げてから撮影に入るということは一度もありません。私がもし俳優で、完璧な脚本を渡されたとしたら、その場で関心がなくなってしまうでしょう。脚本が完璧に仕上げられているということは、すでに一度、映画が撮られてしまったような気がする。だから私は現場を大事にしたいし、そこでの新鮮な空気を映画に活かしたいと考えています。だからストーリーも撮影中にどんどん変わるし、場合によっては一度撮影を終えても全部撮り直すこともある。そういうやり方を7〜8年続けてきましたが、若いスタッフには批判もあるようで、やりにくいという声も聞こえてきます。それでも、こういう映画の作り方は自分に向いていると考えています。もちろん、ある程度の流れを考えて現場に行きますよ。流れ自体をその場で考えることはありません」

宇田川「それは香港映画では、伝統的な作り方とも言えますね」

トー「そうですね。他にもそういう監督は多いと思う。香港の映画界では監督の立場が比較的自由で、多くの権限をあたえられていると感じています。一本の映画に携わる人々のなかでは魂というべき存在ですし、もちろん後には出資者がいて、前には役者、スターがいるわけですが、監督の発言権は大きいですね」

宇田川「最近は香港映画も予算が限られ、撮影期間も短く、最初に脚本をきちんと決めて撮っていかないと、期日に間に合わないという話を耳にしたこともありますけど」

トー「確かにそういう面もありますが、どの監督も映画作りの手法が習慣として身についているので、すぐに直すのは難しいでしょう。ただ、裏を返せば、予算さえ守っていれば投資会社から文句を言われることはありません。それを守らず、脚本も何も準備しないで続けていく監督であれば、次の作品を撮る際には制作が難航するでしょう。私の経験からいえば、すべて計画どおりに進めていかなければならないという状況では、自分の手腕を発揮できなくなる。結局は、予算とのバランスをとりながら続けていくしかない、と考えています」

宇田川「これから上映される「柔道龍虎榜」は柔道を題材にしていますが、そもそも柔道を題材にしようと思ったのはなぜですか?」

トー「二つ理由があります。1970年代の日本映画やドラマを観て育ってきた世代なので、それらに影響を受けたことです。当時は若くて将来に自信が持てず、方向を見出すことのできず右往左往していた時代でした。そういうことに対する郷愁もありますが、それを今の若い世代にもぜひ観てほしいと思ったのが、理由のひとつです。もうひとつは柔道というのは、倒されたら必ず立ち上がらなければならないスポーツです。つまり、人生のなかでいろんな失敗を経験しますが、早く立ち上がることができる人ほど、その後の成功に繋がっていくということを、柔道をとおして伝えたかったのです」

宇田川「それはトー監督自身のアイデアだったのですか」

トー「(日本語で)ハイ」

宇田川「昔の香港映画に比べると、最近はアイデアが豊富で、それを緻密に描くようになっていると思います」

トー「香港映画のマーケットにとって、今は明るい時代ではないと考えています。以前ほど俳優も新人が出てこなくなり、出てきてもそれほどヒットを出せなくなってきている。監督にしてもそうですが、次の世代が出てこないということが香港映画界の最大の問題になっています。次の世代が出てくるまでの間、マーケットを維持するためには、映画内のアイデアが必要になってくる。監督のカラーが強い映画も、こういう時代では大事なものかもしれません。確かに売り上げは重要視されているわけですが、今の香港映画界に必要なのは人材だと思いますし、一時の絶頂期のような状態に戻していきたいという希望はあります。そうなると、現在のような映画作りも自然と変わってくるでしょう」

宇田川「今後も多くの企画を抱えていらっしゃると思いますが、差し支えない程度に教えていただければ」

内山「昨日まで新作を撮っていたと聞いています」

トー「今撮っている作品から言うと「黒社会」を手がけています。これが4時間くらいの大作になるので、前編と後編に分けての公開になります。これは来年の1月ぐらいまで撮影が続くでしょう。その後はスリを題材にした映画を撮る予定です」

内山「「黒社会」のキャスティングは「柔道龍虎榜」とほぼ同じと、うかがっていますが」

トー「そうです。「柔道龍虎榜」の役者たちとはたいへん意気投合したので、今回も出演してもらっています。ぜひ、違うジャンルの作品にも出演してほしいと思っていますし、彼らにもそれによって新しいイメージを作ってもらえるといいな、と考えています」

(取材・文/相馬学)




BACK




フィルメックス事務局から、最新のトピックスをお届けします。「フィルメックス瓦版」