第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「柔道龍虎袴」ジョニー・トー監督 単独インタビュー
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 「ザ・ミッション/非情の掟」などの男っぽい作品で知られるジョニー・トー監督。この日のトークイベントでは、香港でも人気を博していた1970年代の和製熱血青春映画やTVドラマに夢中になっていた…とコメントしていたが、はたして「柔道龍虎榜」はそれを反映した快作となった。柔道という題材は当時のTVや映画で何度となく取り上げられているが、その精神こそトー監督が伝えたかったものだという。





「“柔道”というタイトルをつけておきながら、柔道着を最後の最後にやっと主人公に身につけさせたのは、自分の人生が見えていなかった彼が、ようやく柔道の精神に目覚めたということの表われです。中国語では柔道の教えを“精力善用、自他共栄”と言いますが、これは“力を善のために使い、相手も自分も共に勝てる”という意味です。こういう精神の在り方を、私はとても美しいと感じています」
 ともすれば暑苦しくなりそうなテーマだが、トー監督はどこかドライなユーモアを盛り込み、ウェットになりすぎないよう心がけているようだ。実際、今日の上映では笑いが随所で起こっていた。
「全体のトーンとして哀しい物語にはしたくない、という思いはありました。明るい目で主人公の積極的な生を観て欲しかった。もちろん誰でも挫折はあります。この映画の最後では主人公に、ある悲劇的なことが起こります。しかし、それでも彼は笑顔で戦う。つまり、喜びの対象も悲しみの対象も、その人の人生の理解の仕方で変わってくる、ということです。他のキャラクターも同様に、本来なら笑えないような問題を抱えていて、それをコミカルに描写していますが、彼らはそれを悲劇と思わせぬほど力強く生きています。観客には、そんな明るさを受け止めてもらえれば幸いです」

 「ヒーロー・ネバー・ダイ」「ザ・ミッション」と、トー監督の映画はとにかく音楽が情感にあふれていて、いつも強い印象を残す。今回の「柔道龍虎榜」でも、主人公がバクチですった大金を、その場で胴元から奪い逃げる、スローモーションのシーンをはじめ、随所で音楽が印象的な効果を上げている。
「実を言うと、映画の撮影時には音楽を何より最優先しています。まず音楽を考え、それから撮り方を考える。ストップモーションもスローモーションも、音楽によって決まるのだから、結果的に映像にフィットするわけです。リズムは、とくに重視しています。面白いのは、ヒロインが大金を持ち逃げして走るシーンは、ストーリー的には危険でスリリングですが、音楽によってロマンチックな雰囲気が加わっていること。映像として見えているものとは違う感触をあたえる力が、音楽にはあると思います」

 ここ数年、ハイペースで映画を撮り続けているトー監督。トーク・ショーやQ&Aでは、その理由を“映画の奥深さがまだわかっていないので、体力があるうちにそれを探り続けたいから”と語っているが、あえて自作のなかで好きな作品を尋ねてみた。「これまで一度も満足した作品を撮ったことがない」との断りつきでトー監督が挙げたのは、まず「柔道龍虎榜」、そして昨年の東京フィルメックスで上映され、来年日本公開される「P.T.U.」、そして代表作「ザ・ミッション」。葉巻をくゆらせ、笑顔を絶やさない監督は、やはりポジティブで硬派な作品がお気に入りのようである。

(取材・文/相馬学)




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