第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


DATES NAVI


シンポジウム「国際映画祭を語る」
TOP LINE INDEX



 東京フィルメックスの第5回記念イベントとして〈国際映画祭を語る〉をテーマに開催されたシンポジウム。イギリスのプロデューサーで前ロッテルダム国際映画祭ディレクターのサイモン・フィールド氏、東京フィルメックスの運営にも携わるプロデューサーの森昌行氏、そして日本を代表する映画作家である北野武、是枝裕和、塚本晋也の三氏という豪華パネラーの顔ぶれゆえに、会場の朝日ホールは超満員となった。





















 司会進行はイギリスの映画評論家トニー・レインズ氏。「勤労感謝の日にようこそいらっしゃいました」というレインズ氏のユーモラスな呼びかけに続き、国際映画祭の常連で東京フィルメックスにもなじみ深い黒沢清監督、SABU監督、浅野忠信氏、寺島進氏への10分間のインタビュー・ビデオを上映。そして国際映画祭の理想と現実、映画祭に参加するメリットや問題点などに関する議論が繰り広げられていった。

 まず司会のトニー・レインズ氏が提起したのは、国際映画祭の二面性について。映画会社の利権が幅を利かせる商業映画と、なかなか一般公開されない非商業映画が存在している現実をパネラーに問いかけた。

サイモン・フィールド「映画祭というのは複雑で曖昧です。まず映画祭には、観客に新しい世界を開くという役目がある。私自身もロッテルダム映画祭で“知られざる映画”を紹介してきました。また映画祭はプロモーション・ツールである、すなわち上映される映画を世界に宣伝する場という側面もあります。このように参加者によって目的が異なり、映画祭は映画業界のためのイベントにもなりえてしまうのです。映画祭が商業的になりすぎると、ただのサーカスになってしまう。それとは対照的にロッテルダムや東京フィルメックスは、冒険的な新しい映画作家を発見する場になっています。これらの映画祭は商業的なプレッシャーがないため、そこに映画への熱意が生まれているのです」

是枝裕和「映画祭に参加する立場から捉えると、映画祭の賞というのは公開に役立つという面があります。もちろん、賞にばかり固執するのはよくないことですが……。僕が初めて映画祭に参加したときは、とにかく何もわからない状態でした。やがて3本、4本と映画を作るうちに、映画祭というものを戦略的にどう位置づけるかということを考えるようになったのです。なるべく優秀なエージェントや通訳を雇ったほうがいい、ということなどを少しずつ学んでいきました。また、自分がどの映画祭に参加するかという問題もあります。自作の公開がすでに決定している国の映画祭をビジネス的に優先したほうがいいのではないかという考え方があれば、好きな映画祭だからそこに行くという部分もあります」

塚本晋也「僕が作る映画は商業的ではなく完全にアート的、しかもとても小さなアート作品です。12年前の1992年に『鉄男2』で参加したのが、僕にとっての初めての映画祭体験でした。これはとてもいい体験でしたね。まったくの手探り状態で参加したのですが、映画祭での熱狂を目の当たりにすることができました。それまでは日本の観客のことだけが頭にあったわけですが、外国のお客さんが自分の映画で熱狂しているのを見ると“次も映画を撮るぞ!”と元気になれるわけです。また、映画祭ではギャスパー・ノエ、ジュネ&キャロのように無茶苦茶に好きだった人たちに会えて友人になれたのが嬉しいですね。そして3つめは映画祭で何らかの評価を得て、それを日本での宣伝活動にフィードバックできるということ。そして最後にもうひとつ、これが一番重要かもしれないのですが、僕の小さな映画を海外で公開するということです。以前は海外での収益は思いがけない臨時収入だったわけですが、今ではそのことも前提に予算を組んで映画を作っています。つまり海外での公開がないと映画製作が成立しないという状況ですね。ただし僕の場合は、宮崎駿さんのように大きな映画ではないので、日本でいうミニシアターのようなところでコツコツと地道にやっているわけですが」

北野武「監督をやらないかと言われて、いつの間にかプロデューサーと組むようになって、いつの間にかヨーロッパで紹介されちゃった。自分が映画監督だと自覚する前にヨーロッパで有名になっちゃったわけ。未だにそのギャップを埋めようとしたり、ギャップを埋めたっていい映画はできないとか思ったりね。映画祭でいいことは、ああ、北野は監督もやるのかと知ってもらえたことだね。自分の映画は興行的に成功したためしがないし、映画は人の金で撮るもんだと思ってるから。映画というのは人を騙すもの。映画祭には詐欺師みたいのがたくさんいるから、カンヌなんかに緊張して出かけていくと根こそぎやられちゃうんじゃないかって(笑)」

森昌行「誤解を招きたくないのですが、僕が東京フィルメックスをやりたいと思ったのは、東京に国際映画祭と名付けるべき映画祭が存在していなかったからです。ちゃんとプログラミングをして、参加する監督や審査員の顔がきちんと見える映画祭。作品を選ぶのはディレクターの責任で、それらがつまらければディレクターが観客に批判されるべきなんです。つまり映画祭に主張があるかどうかですよね。権威主義まみれの映画祭ではなく、規模は小さくとも映画文化が根づく映画祭でなくては。映画の中には商業的成功だけが価値ではない映画もあるはずですし、映画祭はそうしたクオリティの高い作品をサポートしていくべきです。もちろんヒットする映画にも価値はあるが、映画祭は新しい価値や創造性を求めていく場でもあるはずですから。北野監督には商売と関係なく映画を撮ってほしいと思っています。彼はゴールデンタイムのTV番組で、大衆に十分迎合しているわけだから」

 続いてレインズ氏は「外国人は映画を通して日本を見る。日本映画によって日本を知る」と語り、パネラーの監督たちに「映画祭に参加するときに、自作の映画で“日本を海外に持っていっている”という気持ちはありますか?」という質問を投げかけた。

塚本「日本を代表して、自分の映画を海外に持っていっているという自覚はまったくないです。ただ、海外で自作を評論されたりすると、逆に映画のテーマがわかってくることがあります。正直、僕がよく言っている都市や東京というテーマは、実は海外で教えられたことなんですよ。海外に出て自分が日本人なんだと改めて発見したりするわけです」

是枝「日本を代表しているつもりはないし、そういう気持ちを持ちたいとも思いません。しかし今の日本で起こっている事実を根っこにした映画を持っていくと、ヨーロッパの人々は僕の映画を日本という大きな枠で見ようとする。映画以上の大きなテーマを見ようとするわけです。そういう意味では、僕も海外で日本人であることを意識するはめになりますね。ただしインタビューなどでは“日本はですね……、日本人はですね……”というような答え方はしないように心がけています」

 「映画祭の審査員の中には、映画のことを知らず、人生についても無知な人も少なくない」と内幕を痛烈に暴露するレインズ氏。「東スポ映画祭の審査委員長ならやったことがあるけどなぁ」との北野監督の爆笑ユーモアに場内が沸いたのち、森プロデューサーとフィールド氏が発言した。

「北野映画の評価を決定づけたのは日本ではありません。どうしても当初はビートたけしが作った映画、という色眼鏡で見られていました。ロッテルダムではフィールドさんに監督として迎えてもらいましたよね。しかし日本ではそうではなかった。北野武が監督として認められた、という点において海外の映画祭の意義を認めざるをえません」

フィールド「映画祭にはいろいろな審査員がいるものです。なかには映画と関係のない仕事をしている人物も存在します。本来は、より映画に近い人物が審査員をするべきなのですが……。東京フィルメックスのような映画祭の賞は、若い映画作家にハクをつけるというメリットがあります。またロッテルダムで賞を獲ると、その映画が他の映画祭に呼ばれたりすることもあります。それにインディペンデント作家にとって、映画祭は配給の可能性を広げる数少ない場となります。監督のプロフィールが確立するというメリットもあるでしょうね」

 そのほかには、なかなか相容れない芸術と興行という映画の二面性をめぐって「映画作家は映画を作る立場と、作品を商業的に成立させることの両方を求められている。ひとりの作家がそのふたつを成立させることもできるのではないか」(是枝監督)、「僕は自作にカルト・エンターテインメントという看板を掲げている。1本の映画がリクープされることで、次の映画を作ることができる。そこで何かに迎合しているわけではない。自分なりの娯楽と芸術のさじ加減を持って作っている」という発言も。

 また、北野監督は「ハリウッドから『呪怨』のように自作のリメイク話を持ちかけられたら?」との質問に、「ぜひ『みんな〜やってるか!』をやらせてほしいね」と言い放つなど、終始ユーモアたっぷりの受け答えを披露。そして国内で最も興行的に成功した『座頭市』を引き合いに出し、「この先、自分の映画がコケたときのために『座頭市2』を保険にしようかなと」と笑わせる一方、「日本の映画評論家ほど馬鹿はいない。金もらって映画の宣伝をして、自分が評論家だと言っているヤツはおかしい」と毒舌を炸裂させていた。

(取材・文:高橋諭治)




BACK




フィルメックス事務局から、最新のトピックスをお届けします。「フィルメックス瓦版」