第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
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「おそいひと」柴田剛監督 単独インタビュー
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「観客席から矢を射ってくる人がいるんじゃないか。上映前はそういう思いにさいなまれましたね。でもこれは暴力を助長する映画じゃない。むしろその逆のことを描いた映画です」。映画『おそいひと』は重度の障害を持つ男性・住田雅清さんを主演 男優に起用した異色作。それだけに、柴田剛監督は公式上映後の気持ちをこのように語った。









住田さんのヘルパーをしている大阪芸術大学の先輩に「おもしろい人がいるから、彼を主演に映画を撮ってみないか」と口説かれたとき、あまりにもリスキーな題材だと判断した監督は「絶対にイヤだ」と即答。しかし実際に住田さんを交えて話をするうちに、自然と脚本の構想がまとまっていった。“障害者の犯罪”というモチーフを盛り込むことは、早い段階で決まったという。

「普通、障害者は非力な存在で殺人なんてできるわけはないとみんなが思っている。でもそういう存在の人が暴力を行使する姿を、単純に見てみたいと思ったんです。たとえば横断歩道で赤信号を待っているときに、向こう側に障害者がいる。それは正視できると思うんです。でも信号が青に変わって近付いたときガン見する人はいないですよね。遠くにいるときと近くにいるとき、そこでテンションの違いが生まれることを映画で表現できないかと思ったんです」

資金難に陥って製作期間が大幅に伸びるという危機にも直面したが、長期間に渡った撮影は住田さんと監督との距離を縮めることになった。酔っ払った住田さんの弾けるような笑顔など一瞬の表情をとらえることができたのも、「だんだんヘルパーなのか監督なのかわからない状態になった(笑)」というふたりの関係性あればこそなのだ。

「住田さんの名前をそのまま主人公の名前にしたのは、彼のパーソナリティがそのまま映画に出ているから。ビールが好きで女の子が好きで、というのもそのまま(笑)。 だから自然に、性のことにも触れる内容になったんです。これまではビデオの絵の力に偏見があったのですが、今回は彼のベストショットを撮りたいという思いから3カメで撮影しました。なによりも住田という人物の輪郭をはっきりさせたかったから、白黒を選んだんです」

目まぐるしい編集とノイジーな音楽を駆使しながら、健常者と障害者の境界線をまざまざと見せつけた『おそいひと』。けれども監督にはタブーに挑戦したという気負いはまったくない。

「実は障害者の方が観ても飽きないエンターテイメントにしたかったんです。観たことのないものを観せたかったし、それを理解してくれる住田さんと福永さん(住田さんの上司 であり、今回ボス役として出演もしている)がいたからこそ撮ることができた。福永さん もすごくおもしろい人で、はじめて会ったときにいきなり“監督はフリークスは好きか?”って言い出して。こっちがドギマギしていると“僕は『エレファントマン』より『フリークス』が好きだ”って。映画の話だったんですね(笑)。

映画が好きな福永さんは、完成作をとても喜んでくれました。ほかの障害者の方々からも“元気が出る”とか“バツが悪い”とかいろいろな意見が出ました。住田さんは“俺が主演だからナンパの材料に使える”って喜んでいて、実際に使ったみたいですよ。“やはり僕は笑いあり涙ありの寅さんのような映画がいいなぁ。次はそういうのを撮ったら?”ともいってましたね(笑)」

(取材・文/細谷美香)




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