11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。
「トロピカル・マラディ」アピチャッポン・ウィーラセタクン監督 Q&A
闇に閉ざされたジャングルでひとりの兵士がたどる運命を描き上げた『トロピカル・マロディ』の神秘的なラスト・シーン。それを半ば呆然と見届けた観客の前に現れたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督は、前作『ブリスフリー・ユアーズ』で2002年の東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞したタイの俊英である。すでに日本でもその特異な映像世界の魅力が浸透しつつあるのか、会場はほぼ満員の入りとなった。
まず最初にマイクを手にした女性観客は、作品の前半と後半のつながりが明確ではなく、映像のスタイルもまったく異なる構成について尋ねた。「なぜ、あえて1本の映画にまとめたのか」との問いかけに、「明日になればわかるかもしれませんよ」と笑顔で応じた監督の答えは次の通り。
「この映画の前半と後半はいわばお互いを写す鏡のようなもので、ふたつが合わさることで意味をなすのです。スタイルこそまったく違いますが、前半も後半もハンティング(狩猟)についての映画です。またどちらのパートも、現実や非現実とはいったいどのようなことなのか、ということを問いかけています。前半の映像はまるでドキュメンタリーのようですが、実はファンタジーなのかもしれない。また、後半部の記憶というものが前半で映し出されている、という解釈も可能なのです」
映画冒頭で引用した中島敦の「山月記」は、「実は脚本が完成した後で日本の友人にその書物の存在を教えてもらい、共通点の多さに驚いた」という裏話を披露。そして最後に立った女性観客は「映画に夢中になった」と賛辞を述べ、ジャングルのシーンの見事な音響効果について質問した。
「私には森の音についての一種のオブセッションがあります。この映画では特定のアンビエンスを生み出すため、まるで作曲を行うかのようにさまざまなサウンド・デザインをしました。特に後半部は森の音がより活発になるので、まるで登場人物のひとりのように存在してほしかったのです。また、森では自然のものとは思えないような電子音に似た音が聞こえることもあるので、それをシンセサイザーで再現しました。この後半部では、主人公の兵士が自分の想像力のルーツにさかのぼっていくように心の旅に出ていきます。その旅に観客を導くためにも、音にこだわる必要があったのです」
(取材・文:高橋諭治)