第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「トロピカル・マラディ」アピチャッポン・ウィーラセタクン監督 
単独インタビュー
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「『トロピカル・マラディ』はあまり映画祭に持っていかないようにしているので、今のところ先頃審査員を務めた釜山映画祭と東京フィルメックスだけです。非商業的な映画を紹介する東京フィルメックスは好きな映画祭なので、新作を携えて参加したいと思いました」











 前作『ブリスフリー・ユアーズ』に続き、映画の舞台となるのは“森”である。監督がジャングルに執着した理由は主に3つあるという。
「まず森で撮影すれば、嫌いなバンコクの外に出る言い訳になると思ったのです(笑)。ふたつめはある種の開放感をもたらしてくれるユニークな空間だから。森の音に耳を傾けると、人間の原始に立ち帰ったような気にさせられるものです。そして3つめは登場人物を風景の影響下に置きたかったから。『ブリスフリー・ユアーズ』では登場人物が森という環境の犠牲になっていましたが、今回の登場人物はむしろプラスの影響を受けています」
 姿なき獣の気配を感じ、若い兵士が夜の森をさまよう後半部。昼の森を舞台にした『ブリスフリー・ユアーズ』とは異なり、漆黒の闇が広がるスクリーンには異様なサスペンスがみなぎっている。
「昼間は視覚的に周囲を見渡すことができますが、夜は目が見えないのと同じです。そんな状況に陥った人間は、想像力を働かせるしかない。この後半部は、いわば主人公の兵士が自分について思考する映画になっています。ひとりの悩める青年が頭のひだを分け入っていく様を、サスペンスを通して描こうとしたのです」
「サスペンスは極めて強く意識した重要な要素です。実はホラー映画が好きなんですよ。私は子供の頃、多くの映画を見て育ちましたが、特にビデオで見た作品はホラーが多かったですね。先日もアメリカに行ったとき、スチュアート・ゴードン監督の『ZOMBIO/死霊のしたたり』のDVDを買ってきました(笑)。また、ジャック・ターナー監督の『私はゾンビと歩いた!(I WALKED WITH A ZOMBIE)』は素晴らしい恐怖映画だと思います。私はかつて見たこうした作品の記憶をたどりながら映画を作っているのです。昨今はモンスターが出てくるホラーが主流ですが、昔のホラーは影や闇によって恐怖を表現していました。今回、私は虎のSFX映像をかなり作りましたが、最終的にはいっそうサスペンスや想像力をかき立てる古典的手法のほうがいいと決断し、そうしたSFX映像を使いませんでした」
 では、ふたりの青年の愛おしい時間を綴った前半部について。こちらも起承転結のあるドラマからはほど遠く、青年たちの日常を無作為にスケッチしたかのようなユニークなパートになっている。
「ポスト・プロダクションの編集でもいろいろ遊んでみました。いったん脚本通りに撮影を終わらせたのですが、それでは登場人物に動きがありすぎると思い、各シークエンスをごちゃ混ぜにしてみたのです。この前半部は、幸福というものの小さな逸話が組み合わさったような“記憶”についての映画にしたかった。そして前半と後半のどちらのほうがリアルなのか、わからない作品になりました。1本の作品中にふたつの映画が共存していて、ひょっとすると前半部は後半部の記憶といえるかもしれません。前半は記憶の旅、後半は想像力の旅という考え方もできる。私はそんな自由な映画を作ってみたかったのです」

(取材・文:高橋諭治)




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