レバノン映画『戦場の中で』、イラン映画『Turtles Can Fly(原題)』の上映の間に行われたトークイベント「中近東映画の現在」。『戦場〜』が初長編作品となるダニエル・アルビッド監督、日本でも人気の高い『Turtles Can Fly(原題)』のバフマン・コバディ監督、『終わらない物語』を引っさげて2度目の来日を果たしたハッサン・イェクタパナー監督の3人を迎え、中近東での映画製作について、その現状を語っていただいた。
市山「それでは3人の監督をお迎えしてトークイベントを始めたいと思います。
まず『戦場の中で』のQ&Aを終えられたダニエル・アルビッドさんは、この作品が劇映画としては初めての長編監督作品ですが、ドキュメンタリーやビデオ作品を撮られていまして、今年のロカルノ映画祭では(ビデオ作品が)ビデオコンペティションで金賞を獲得したという経歴の持ち主です。中央のバフマン・コバディさんは日本でも2本の映画が公開されていますのでお馴染だと思いますが、『酔っぱらった馬の時間』は1回目のフィルメックスで上映いたしました。2作目の『わが故郷の歌』は今年になって公開され、今日上映される『Turtles Can Fly(原題)』は長編3作目になります。そして『終わらない物語』のハッサン・イェクタパナー監督は、第1回目のフィルメックスでは『ジョメー』という作品が上映され、それからしばらく間があいて、この『終わらない物語』が長編2作目となります。
今年のフィルメックスは中近東の地域の作品が例年より多く選ばれました。それは中近東を特に注目したというわけではなくて、たまたま面白い映画を選んでいったら中近東の映画だったといいますか…、非常に素晴らしい映画が作られていましたので、結果的にこうなったということです。今日は中近東で映画を作ることについて、社会状況を含めお話をお聞きしていきたいと思います」
ゴバディ「映画祭に招待していただいてありがとうございます。私自身はクルド人でありまして、クルド人は厳しい生活を送っています。16〜17年前に映画を作ろうと思ったんですけど、私たちは厳しい生活をしているので厳しい状況を味わいながら映画を作るべきだと思っていたんです。私たちが作っているこのような映画は、イランの国のサポートはいただいていません。自分が作っていた短編は資金集めは無理だったので、母や妹、妹の子供を使って映画を作っていました。いわゆるファミリー映画です。『酔っぱらった馬の時間』も同じような作り方です。お金がないわけですから、ひとりで全部やらなければいけない。パッションがないと映画は作れないですし、映画を作るとエネルギーをたくさん使います。私たちは1年かけて映画を作ると5年分の年をとってしまいます。自分自身は感覚を大事に映画を作っています。映画祭で賞をもらうために映画を作っているのではありません。私たちの映画も配給会社がついていれば、もっとうまく宣伝できれば、ヒットするはずだとは思うのですが、残念ながらそういった状況ではないのです。私は最近『Turtles Can Fly(原題)』を作りました。国境を渡ってイラクに入り、そこでロケを行いました。本当は6館ぐらいで公開したかったのですが、2館で上映されることが決まり、その2館は“3か月上映する”と約束してくれましたが、1か月で打ち切られてしまいました。実は今、怒りを持ったまま日本に来てしまったんですけど、イランに戻ったら再映をお願いして、もしそれが実現しなければ二度とイランの中では映画を作らない。自分をリスペクトしてくれる国でしか映画は作りたくないと思っています。日本でも素晴らしい配給会社がついているので映画が作れるなと思ったんですけど、日本にはクルド人いないですよね(笑)?」