第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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トークショー「中東映画のいま〜ニュースでは伝えられていない映画事情」
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レバノン映画『戦場の中で』、イラン映画『Turtles Can Fly(原題)』の上映の間に行われたトークイベント「中近東映画の現在」。『戦場〜』が初長編作品となるダニエル・アルビッド監督、日本でも人気の高い『Turtles Can Fly(原題)』のバフマン・コバディ監督、『終わらない物語』を引っさげて2度目の来日を果たしたハッサン・イェクタパナー監督の3人を迎え、中近東での映画製作について、その現状を語っていただいた。









市山「それでは3人の監督をお迎えしてトークイベントを始めたいと思います。
 まず『戦場の中で』のQ&Aを終えられたダニエル・アルビッドさんは、この作品が劇映画としては初めての長編監督作品ですが、ドキュメンタリーやビデオ作品を撮られていまして、今年のロカルノ映画祭では(ビデオ作品が)ビデオコンペティションで金賞を獲得したという経歴の持ち主です。中央のバフマン・コバディさんは日本でも2本の映画が公開されていますのでお馴染だと思いますが、『酔っぱらった馬の時間』は1回目のフィルメックスで上映いたしました。2作目の『わが故郷の歌』は今年になって公開され、今日上映される『Turtles Can Fly(原題)』は長編3作目になります。そして『終わらない物語』のハッサン・イェクタパナー監督は、第1回目のフィルメックスでは『ジョメー』という作品が上映され、それからしばらく間があいて、この『終わらない物語』が長編2作目となります。
 今年のフィルメックスは中近東の地域の作品が例年より多く選ばれました。それは中近東を特に注目したというわけではなくて、たまたま面白い映画を選んでいったら中近東の映画だったといいますか…、非常に素晴らしい映画が作られていましたので、結果的にこうなったということです。今日は中近東で映画を作ることについて、社会状況を含めお話をお聞きしていきたいと思います」

市山「ではダニエル・アルビッドさん、レバノンの映画製作の状況についてお話をお願いします」

アルビッド「レバノンがイランや日本のような状況にあればいいのですが、そうではありません。作られる映画がまだ数少ないんです。というのは政府が映画制作を支援していないからなんです。非常にリベラルな政府ではあるのですが、民間主導型なので市民生活に政府は介入しませんし、文化的にも関わりがないからなんです。一方でレバノンではビデオ作品を作っている監督が多くいます。つまりお金をあまりかけずに作れるからなんですけど、短編が多く、非常に才能のある監督がたくさんいます。私は友人と3人で2年前に、こういったビデオ作品を上映するフェスティバルを始めました。毎年8月の末に開催しているんですけど、ここではビデオ作品や8mmなど特に短編を多く上映しています。毎年50本ほどの短編作品が応募されまして、その中から15本ほどの作品を上映する映画祭です。今後は作品数はもっと増えてくると思いますし、長編も作られると思います」

市山「アルビッドさんは長編映画を初めて作られていますが、製作費はどのように調達されたんですか?」

ダニエル「私は16歳からフランスに住んでいます。フランス国籍も持っています。脚本などもフランス語で書いています。フランスという国には美しいと思える文化的な政策があります。世界の映画を支援しようという非常に重要で貴重な政策です。つまりフランスという国が世界の映画を支援することによって自らが豊かになっていくという考え方で非常に寛容だと思います」

市山「日本ではレバノン映画を見る機会が少ないんですが、レバノン映画はフランスや他の国からの出資で作られると考えてよいのでしょうか?」

ダニエル「レバノンで映画を作っているのは少数で5,6人の仲間なんです。ほとんど私たち全員がヨーロッパから資金を得て映画を作っていまして、フランス、ベルギー、スイスなどからお金をもらっています。中にはレバノンからの出資もわずかですがありますし、アラブ世界からは全くありません。ひとりレバノンで資金集めをして映画を製作している監督がいます。ミシェル・ガモンという監督で、6万ドルという低予算で長編を作りました。彼はヨーロッパの出資者を知らなかったために国内で資金を集めたわけなんですけど、今後は長編の劇映画を低予算で作っていくということが私たちのステップになるのではないかと思います」

市山「イランの監督お2人に、イランでどのような映画製作をしているのかお聞きしたいと思います」

ゴバディ「映画祭に招待していただいてありがとうございます。私自身はクルド人でありまして、クルド人は厳しい生活を送っています。16〜17年前に映画を作ろうと思ったんですけど、私たちは厳しい生活をしているので厳しい状況を味わいながら映画を作るべきだと思っていたんです。私たちが作っているこのような映画は、イランの国のサポートはいただいていません。自分が作っていた短編は資金集めは無理だったので、母や妹、妹の子供を使って映画を作っていました。いわゆるファミリー映画です。『酔っぱらった馬の時間』も同じような作り方です。お金がないわけですから、ひとりで全部やらなければいけない。パッションがないと映画は作れないですし、映画を作るとエネルギーをたくさん使います。私たちは1年かけて映画を作ると5年分の年をとってしまいます。自分自身は感覚を大事に映画を作っています。映画祭で賞をもらうために映画を作っているのではありません。私たちの映画も配給会社がついていれば、もっとうまく宣伝できれば、ヒットするはずだとは思うのですが、残念ながらそういった状況ではないのです。私は最近『Turtles Can Fly(原題)』を作りました。国境を渡ってイラクに入り、そこでロケを行いました。本当は6館ぐらいで公開したかったのですが、2館で上映されることが決まり、その2館は“3か月上映する”と約束してくれましたが、1か月で打ち切られてしまいました。実は今、怒りを持ったまま日本に来てしまったんですけど、イランに戻ったら再映をお願いして、もしそれが実現しなければ二度とイランの中では映画を作らない。自分をリスペクトしてくれる国でしか映画は作りたくないと思っています。日本でも素晴らしい配給会社がついているので映画が作れるなと思ったんですけど、日本にはクルド人いないですよね(笑)?」

イェクタパナー「アジアという文化が大好きでとても大事にしています。アジアというのはとても豊かな文化を持っていてアジア人は心豊かで一生懸命なんです。アジア人は苦労が多いと思います。特に映画作りには苦労しているのではないでしょうか。それは全アジアの国々、同じ状況です。
 自分は貧しい家庭で育ちましたが、すごく写真を撮るのが好きでした。自分で現像までして、自分の家を小さな映画祭にして、近所の子供たちを呼んで見せていました。1本目の映画は4年前に作って、それから2本目の映画を撮るまで色々なことがあり、途中で止めたいなと思ったら小さい時に撮った写真を見ると勇気がわいてきます。私が映画制作に関わるようになった頃は大変な状況でした。ちょうど高校卒業した時にイラン革命が起きました。映画作るのは大変なことでしたが、それでも色々な監督の現場にもぐりこんで助監督をやってきました。それは20年間続けていましたね。1本目の映画『ジョメー』をキアロスタミさんに手伝ってもらったんですけど、キアロスタミさんは父親のように守ってくれますし、私たちが信じている映画を作っています。イランの政府というのは映画作りに援助してくれますし、私たちのような映画にも援助してくれます。しかし私たちがいただいている援助というのは、前向きな援助ではなくて、私たちの映画製作を止めるような援助なんです。例えばイラン映画祭では私たちの映画も参加させてはくれるのですが、ふさわしい分野には入れてくれないのです。『終わらない物語』は外国人が見れるセクションには入れてくれなかったので、自分の車や友達の車を借りて、みなさんに見せていました。
 イランにはファラビ映画財団というものがありまして、そこではA、B、Cと映画が分けられて、Aクラスの映画には60%のローンが保証されます。これは商業的な映画のため。本当なら私たちのような映画を守るべきだと思うのですが、商業的な映画をサポートしているのです。商業的な映画のためならファラビ映画財団の扉は開っきっぱなしなんですが、私たちはそれほど援助をいただいていないので、この映画を作るために車を売ったり、すべての貯金を使ってしまいました」

市山「補足しますと、ファジル映画祭(イラン映画祭)にコンペティションという部門がありまして、イランのアカデミー賞みたいなものなんですけど、なぜか『終わらない物語』は対象にならず、海外のゲストが見る外国ゲスト用の試写にも何故か入っていないという不当な扱いを受けていました」

(取材・文:北島恭子)




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