11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
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「Turtles Can Fly」バフマン・ゴバディ監督 Q&A
長編デビュー作『酔っぱらった馬の時間』と第2作『わが故郷の歌』が、日本でも好評を博したクルド人のバフマン・ゴバディ監督。彼の新作『Turtles Can Fly』(原題)の舞台は、アメリカ軍のイラク攻撃が始まろうとしている頃のイラク側クルディスタン地方。戦争に関する情報を得ようとする村人たちのために衛星放送の設置を請け負う少年、悲しい過去を持つ難民の兄妹らの姿を描いている。
「撮影中は何か事件が起きないようにという理由で、15人ほどのクルド人兵士が私たちにつけられました。ですから私は、50%くらいはカメラの外側にも注意を向けなくてはならなかったのです」
そんな撮影時の苦労を明かしたゴバディ監督に最初の質問を投げかけたのは、「『酔っぱらった馬の時間』はこれまで見た何千本もの映画の中で、最も素晴らしい作品のひとつ」と語る男性観客。「あなたはクルディスタンを代表しているという気持ちで映画を作っているのか。それとももっと普遍的な作品をめざしているのか」との質問に、監督は「クルド人の代表だとは思っていません」と答えた。
「現在3500万人のクルド人は4つの国でバラバラに生活しており、苦しい生活を強いられています。私はそれに抵抗して声を上げていきたい。私は映画という表現手段を通して、クルド人の平和を求めているのです」
「今後は必ずしもクルド人についての映画ばかり作るつもりはなく、そのとき自分の心に引っかかったことを題材にしていきたい。また、私は自分の映画の製作中に若い後輩に映画作りを教えています。現在クルド人の監督は私だけですが、近い将来には新しい監督が登場して活躍するかもしれません」
次の質問者は「開戦直前に友人がイラクで撮影した映像の中の子供たちと比べると、この映画は一様に暗すぎる気がする」と感想を述べた男性だった。
「ここで初めて映画を見た皆さんには、暗い現実だと思えるかもしれません。しかし本当の現実はもっと厳しい。今回私はそうした現実を描くうえで、脚本にさまざまな手を加えて工夫しました。そうでないと皆さんが最後まで映画を見てくれなかったかもしれない。本当の現実は理解できないほど苦しいのです」
そして劇中の衛星放送をめぐるエピソードにも触れ、「CNNの映像では現地の子供たちはエキストラに過ぎません。この映画を通して、子供たちの痛みを少しでも感じてほしい」と語った。
さらにゴバディ監督は「残念ながらそろそろ時間が……」という市山尚三プログラム・ディレクターの言葉をさえぎり、「ホールの外で質問を受けたいと思います」と観客に呼びかける。かくして会場の外では、またたく間に笑顔の監督を囲む人だかりができていた。
(取材・文:高橋諭治)