第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
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「Turtles Can Fly」バフマン・ゴバディ監督 単独インタビュー
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 クルド人が置かれた過酷な現実をベースに映画を撮り続けるバフマン・ゴバディ監督。しかしリアリストとしての側面ばかりに目を向けると、彼の映画作家としてのユニークな資質を見落としてしまうのではないか。音楽とユーモアに満ち溢れたロードムービーの前作『わが故郷の歌』は、壮大な山越えに挑む少年の物語『酔っぱらった馬の時間』とは異なるアプローチの作品だった。やはり今回の新作『Turtles Can Fly』(原題)もまた、ゴバディ監督の新境地がうかがえる野心作である。











 イラクのクルディスタン地方の村に、小さな子供を連れてやってきた難民の兄妹。今を生きる子供は目が見えず、その母親である少女はイラク兵に暴行された過去の記憶に囚われている。また、兄は未来に起こる不穏な出来事を予知する。「そう、彼らは現在、過去、未来のすべてが真っ暗という状況にいるのです」と頷く監督に、予知能力のようなスーパーナチュラルな要素を採り入れたのはなぜかと問うと、興味深い答えが返ってきた。

「私はあなたが指摘したような非現実的な要素、または夢のようで現実でもある世界を描いてみたいのです。なぜならクルディスタンにはそのような状況が幾つも生まれているからです。例えば子供が地雷を売ったり、銃を市場で買ったりするのは紛れもない現実ですが、外部の人がそれを映画で見ると非現実的な出来事のように見えるでしょう。私もクルディスタン地方を歩いていると、現実と非現実の間をさまよっているような気持ちになります」

「現在のイラン映画はリアリズム中心ですが、そろそろ観客も飽きてくるだろうし、新しいイラン映画を切り開くべきだと思っています。今後進むべき道は、現実から一歩引いたところから物事を描くことなのかもしれません。もしそうだとしたら、今回の私の映画はその第一歩を踏み出した作品といえるでしょう。最近は私の元で映画作りを学ぶ若者たちがリアリズムに根ざした脚本を持ってくると、“それはやめたほうがいいよ”と言って突き返すこともあります(笑)。イラン映画に新しい血を採り入れたいと思っているから」

 では劇中、池の底に沈んだ子供と入れ替わるようにして水面のほうへ泳いでいく“亀”について。この質問がくるのを待っていたかのように、監督は「いつも、自分の映画のタイトルについてはじっくり考えます」と切り出した。

「世界中で何千本と映画が作られているなかで、自分の映画を印象的なものにするには、特別な設定とストーリー、そして特別なタイトルが必要です。お客さんが亀について、亀と映画の関係について悩んでくれれば、きっとこの映画はその人の思い出になるはずです」

「私たちの概念では、亀は我慢強くも苦労の絶えない生き物です。この映画の子供たちは、そんな亀のような存在だと思いました。両腕をなくした難民兄妹の兄が泳ぐ姿も、どことなく亀に似ていますしね。また、亀という生き物は甲羅を背負っているから、あのように足取りが重い。一方、この映画の少女は幼い子供を背負っています。少女にとっては、まさに子供が甲羅のような重荷になってしまっている。背中の子供を下ろさないと、彼女は飛ぶことができないのです」

(取材・文:高橋諭治)




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