第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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「アヴァニム」フレッド・ベライシュ(プロデューサー) 単独インタビュー
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 ユダヤ教の伝統的な生活のなかでプレッシャーを感じ、出口を模索するイスラエルの女性の心の旅を見つめた「アヴァニム」。監督ラファエル・ナジャリは、フランスを中心に世界の映画祭で名を広めている俊英だが、そんな彼と10年来のパートナーシップで結ばれているのがプロデューサーのフレッド・ベライシュ。東京フィルメックスでの上映ではナジャリ監督に代わって来日を果たし、力作誕生の秘密を語ってくれた。









 「ナジャリとは彼の最初の作品から組んでいて、私は製作とともに第一助監督も兼任しています。ナジャリ監督の作品のスタッフは家族のような間柄で、いつも同じクルーで一緒に仕事をしているんですよ」舞台裏ではプロデューサーとして、また撮影現場では頼れる右腕として、ナジャリ監督と共同作業を続けているベライシュは、クリエイティブな面で監督をサポートすることもあるという。「フランス独特のやり方ですが、プロデューサーは必ず創造的な関わりを持っています。脚本の段階からそうですね。もちろん、脚本そのものを書くのはナジャリですが、その世界を話し合いによって一緒に仕上げていくのも私たちの仕事です」

 彼らが目指したのはリアリズムの徹底。Q&Aでも“メッセージ性を持たせず、あくまで現実を見せることにこだわった”と語ったナジャリだが、手持ちカメラで撮影された映像はイスラエルの人々の生活を、呼吸音が聞こえるほどの生々しさでとらえている。
「病院、保育園、シナゴーグ(ユダヤ教会)、すべての場所で許可をとり、現地で撮影しました。保育園では実際にそこに通っている子どもたちのなかで撮っています。そういう方法でしか、真実味を出すことができないと判断したからです。アパートの内部だけは作り物ですが、それもリサーチを重ねたうえでのセット。手持ちカメラに関しては、ドキュメンタリー風の効果を狙ったのはもちろん、ヒロインの今にも壊れそうな内面を表現する必要があったのです。すべての映像に彼女の存在が映し出されており、時には内面が表われていますが、これはメッセージ性を押し付けないという点でも監督の賢い選択でした」
リアリティを生む手段としては、俳優とのコラボレーションも大切だった。
「実は、脚本の段階ではそこにセリフが書き込まれていません。そのシーンごとに役者と話し合い、彼ら自身の父、娘、妻、夫としての経験を取り込んで、シーンを再構築していくのです。最終的には監督が意見を統合して、各キャラクターの目的や内面を見つめてセリフを入れるので、決して役者の即興任せではありません。それでも役者自身の経験から出た言葉だから、それが映画にリアリティをあたえる要素になっていると思います」

 ヒロインは自由な生き方を模索しているが、その大きな障害としてユダヤ教の伝統が立ちはだかる。しかし、この映画は宗教の善し悪しを決定づけるものではない、とベライシュは断言する。
「「アヴァニム」は宗教を人生の一部として暮らしている人々の物語です。ヒロインの父親は信仰に寄っていますが、それは年齢を重ねた者には自然なことなのです。そんな点も含めて、やはり現実を写したかった。儀式のシーンとそれに続く道での祈りのシーンは、コミュニティに住んでいる人々と役者たちが一緒に作ったものです。あの祈りを捧げるシーンはとても美しい。宗教というものは確かに問題もありますが、一方でとても美しいものなのです」

 「アヴァニム」はすでに世界中の映画祭で高い評価を獲得し、ジュネーブ、セビリアでの国際映画祭では最優秀作品賞の栄冠を射止めている。12月にはイスラエル、来年3月にフランスでの劇場公開が決定し、今後、一般観客の目にもふれることになる。現実と真摯に向き合った、この秀作がどんな評価を得るのか興味深いところである。

(取材・文/相馬学)




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