第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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トークショー「韓国映画のいま〜女優ムン・ソリ氏を囲んで」
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 毎年立ち見が出るほど人気を呼んでいるトークイベント「韓国映画のいま」。今回のゲストは『ペパーミント・キャンディ』で長編映画デビュー、『オアシス』では重度脳性麻痺を患う女性を熱演し強烈な存在感を放ち、日本でもファンの多い女優のムン・ソリ。第5回東京フィルメックスの審査員も務めている彼女に、韓国映画の現状を語っていただいた。













林加奈子ディレクター(以下、林)「女優のムン・ソリさんをお迎えして韓国映画のお話をうかがっていきたいと思います。今年の第5回東京フィルメックスではムン・ソリさんに審査員をお願いしています。今は撮影もあって、お忙しい時だとうかがっていますが…」

ムン・ソリ「今現在撮影中です。本来でしたらすべて終えて東京フィルメックスに来たかったのですが、帰ってから後5回くらい撮影して終了になる予定です」

「韓国の映画というのは、撮影の時間とか期間とか、予定通りにいかないことが多いのでしょうか?」

ムン・ソリ「そうですね、変わるということは当たり前のことです。キム・ギドク監督のように半月で撮ってしまう監督もいれば、一年かけて撮る監督さんもいらっしゃいます。ちなみにイ・チャンドン監督は平均6ケ月かかります。監督のスタイルですとか、天気、それから周りの状況によって撮影日数は大幅に変わってきます」

「キム・ギドクさんの『3-Iron』は17日、18日とか、そんな撮影期間とうかがいましたけど、本当びっくりしました」

ムン・ソリ「私はまだキム・ギドク監督の新作は見ていないんですけれど、そのぐらいの日数とうかがってびっくりしました」

「東京フィルメックスでは韓国の審査員の方々には恵まれていて、本当にもったいないぐらいです。1回目は釜山国際映画祭アジアン部門のプログラマーをしていますキム・ジソクさん、2回目は『キノ』という映画雑誌の編集長をしていらしたイ・ヨンホさん、3回目はなんと国民的な俳優、世界的なスターでいらっしゃるアン・ソンギさん、4回目の昨年はキム・ギドクさん、そして今年はムン・ソリさんと、本当にゴージャスなことをさせていただいているのですが…。ムン・ソリさんは国際映画祭の審査員は初めてですか?」

ムン・ソリ「はい」

「まず東京フィルメックスの印象を教えていただければと思いますが、いかがでしょうか?」

ムン・ソリ「私は韓国にいる時から東京フィルメックスについては国内の『シネ21』といった映画週刊誌の記事を見て知っていました。アジアの若い監督に注目している映画祭だということを聞いていましたが、今まで参加したことはありませんでした。今回審査員のご依頼をいただきまして、実は最初驚いたんですね。例えばアン・ソンギ先輩やキム・ジソク先生、イ・ヨンホ編集長のように映画のことをたくさん知っているわけではなくて、その先輩たちは10年、20年という経験がありますが、私はまだ経験が浅い新人だと思っています。東京フィルメックスが新しくてチャレンジ精神にあふれた作品を応援しているのと同じように、審査員もまた新しく挑戦的な方向で選んでいるのかな、なんて思いましたけど(笑)。今日までに私は7本の映画を見ています。もちろん審査員として見なければならないのですが、観客としての目で映画を見ています。そして非常に刺激を受けて勇気をいただいています。
 今5本目の映画に出演していまして、次に6本目の長編を撮る予定なんですけれども、俳優というのは1本、1本、未来が不安な仕事で、未来の保障がないだけに“自分は安定した道を歩もうとしているのではないか”“非常に楽な道を行こうとしているのではないか”ということを、いい意味で叱っていただいているような気がします。『ペパーミント・キャンディ』『オアシス』をやっていた頃の初心に帰って、“もう一度チャレンジ精神を持って頑張れ”というメッセージをいただいているような気がして、本当に多くの刺激を受けています。今のところとても楽しく嬉しい気持ちで映画祭に参加しています」

「なんかもう美しいだけではなくて、こんなにも知的で。ムン・ソリさんのように美しく知性も兼ね備えていらっしゃる女優さんというのは、日本人では誰が相当するんだろうと考えてしまいますね…」

ムン・ソリ「林さんは日本にいる私の唯一のファンなのかもしれませんね」

「そんなことないですよね。もうとんでもない話ですよ(笑)。私たち東京フィルメックスというのは出会いの場をつくろうと思っていまして、作り手と観客の距離を少しでも近付けるために、こういったトークイベントも毎日できるだけ企画しています。今日もたくさんの方々に集まっていただきましたが、“生ムン・ソリ様”をこういった形で、こんなに近くでご覧になれるチャンスを作らせていただきましたので、後半は皆様の質問もお受けしたいと思っています」

ムン・ソリ「最近韓国の俳優さんを“●●様”って呼びますけど、“生●●”と呼ばれるほうが嬉しいですね」

「ちょっと舌が滑りましたね、すみません。実は『オアシス』も東京フィルメックスで上映させていただきまして、あの時私の記憶では、ムン・ソリさんは“いらっしゃりたい”ということでスケジュールを調整してくださってたんですよね。
そのムン・ソリさんなんですが、『オアシス』の後に『浮気な家族』を選ぶ、これはやっぱりただ者ではないと私は思いました。そして『大統領の理髪師』も先日東京国際映画祭で上映されましたが、あちらもまた味わい深いムン・ソンリさんだったんですけれど。まず役選びについてうかがっていきます。『ペパーミント・キャンディ』から『大統領の理髪師』まで、ご自身の意思で選んでいるのですか?」

ムン・ソリ「韓国で俳優になる道は色々あるんですけど、だいたいがマネージメント会社に所属して育ててもらうというケースが多いです。大学の映画・演劇学科を卒業した学生がとても多いんですけど、そういう人たちが会社に入って、そこで教育を受けて、オーディションを受けに行ったり、他の仕事を紹介してもらったりしながら俳優になっていきます。私の場合はそういうケースとはまた違いまして、今年の6月まで所属会社がなく、ひとりで活動していました。私は大学の頃から演劇が好きで最初は演劇をやっていたんですけど、大学を卒業してたまたま『ペパーミント・キャンディ』のオーディションを受けまして、役をいただくことができました。その後は作品が来るのをじっと待っていて、お話があればシナリオを読ませていただくという形をとっていました。私のようなスタート、私のようなケースは非常に珍しいと言われているんですけど、気がついたらこういう道を歩んでいました。今までイ・チャンドン監督、イム・サンス監督などに出会い、作品に出させていただいたんですけれども、もちろん出演作は100%私の意思で決めたのですが、私の意思だけではなくて何か他の力に導かれてここまで来たように思います。あと参考までに、韓国の俳優は基本的に自分で脚本を読んで最終的には自分の意思で作品を決めています」

ムン・ソリ「もう少しつけ加えて正直に言いますと、当時私が選べる作品があまり多くなかったんです。限られた中から選ばなければいけなくて『オアシス』の場合はイ・チャンドン監督が“この役はお前にしかできない”と言ったんですね。でも言い換えれば“ほかに女優さんがいない”という意味だったのではないか思います。『浮気な家族』についても、私が演じた役は肌の露出度が高い役柄でして、実は別の女優さんに決まっていたのですが、その女優さんがキャンセルしたために私のところにまわってきたんです。他の女優さんたちがタブー視するような、やりたがらないようなものを私があえてやってきた(笑)。でもこれも一つの幸運だと思っています」

「『オアシス』は本当に素晴らしい映画ですが、ムン・ソリさんから見たイ・チャンドン監督を語っていただけますか?」

ムン・ソリ「私を1973年に産んでくれた両親がいたとすれば、私にはもうひとり親がいることになります。1999年に私を女優として生まれ変わらせてくれたのが、イ・チャンドン監督です。私にとっては、演技、映画の作り方、女優の心構えなど、すべてを教えてくれたといっても過言ではないほど素晴らしく、尊敬している大好きな方です。今はこういう気持ちでお話できるんですけれど、『オアシス』の撮影の時には派手に喧嘩をしました。お互い憎みあったり、嫌いあったりしたんですね。イ・チャンドン監督は映画作りになると本当に頑固でして、完璧主義者。私がワンシーン撮り終えると必ず質問してきます。「今の演技にお前の真実が何%入っているのか?」と。韓国では電気のボルトが220ボルトなんですけど、“220ボルトで例えるとお前は今何ボルトだ?”って聞いてくるんです(笑)。演技が終わった後も決して“OK!”と言わないんですね。“OK”とも言わなければ、“NG”とも言わないので、こちらとしては困ってしまう。女優泣かせの監督なんですが、言い換えればそれは、最後まで簡単に答えを出さないということ。だからこそ力のある監督なのだと思いました。イ・チャンドン監督は政府の大臣を務めていらっしゃったんですけど、最近そのお仕事も終えられて、今は少し休んでいる期間だと聞いています」

「韓国ってすごいですよね。映画監督が文化大臣になるなんて、なかなか日本では考えられないことですが…。新作のご予定もあるようで楽しみですね。では皆様の質問をお受けいたします」

質問「今日本では韓流ブームで沸き立っていて、韓国のテレビドラマが評判になっています。演技者としてドラマと映画の違いについて、どう思われますか?」

ムン・ソリ「実は私はテレビドラマに一度も出演したことがないので簡単には言えません。私の考えでお話しますと、テレビドラマと映画では作るシステムが違います。 テレビドラマは短期間で企画されてキャスティングもあっという間に決まってしまう。そしてすぐに撮影に入って、短期間で終わってしまうんですね。視聴者の反応も早く返ってくるんですけど、その分、すぐに消えてしまうデメリットもあります。映画のほうは長い準備を経て、撮影にも長い時間を費やします。そういった準備期間の差ですとか、撮影する速度が違いますので、作品のクォリティも違ってくるのではないかと思います。韓国でもドラマにたくさん出演すると顔を覚えてもらえるので、CMの話がたくさん来ますし、そういったことは日本と同じです。でも映画に出ている人のほうが、テレビに出ている人よりも役者として認められる傾向にあります。韓流ブームというのは、ドラマのブームのように思えます。韓流ブームを風に例えると、熱風が吹いている感じ。でも風というのは通り過ぎてしまうものです。ただこの風を皆さんに大いに感じていただいて、韓国の俳優、文化や芸術を知るきっかけになってくれればと思います」

(場内拍手)

質問「イ・チャンドン監督のほかに組んでみたい監督はいますか?」

ムン・ソリ「私がこの職業に就けて幸せと思えるのは、自分が成長していることを実感できるからです。1作品終えると以前とは変わっている自分に気づかされるんですね。本当にいい作品にめぐり会えると階段をひとつ上にあがれたような気持ちになります。女優は素晴らしい職業ですが、その中でも一番影響を与えてくれるのはやはり監督です。作品の内容と同じくらい、監督は重要です。あえて今この監督とやりたいという考えはありませんが、良いシナリオにめぐりあって、そのシナリオに対して監督がきちんとした考えを持っていれば、誰とでもやってみたいと思いますし、そういう機会がたくさん増えてほしいと思います。そして女性監督といつか一度やってみたいという気持ちもあります」

質問「次回作について教えてください」

ムン・ソリ「メロドラマです。愛が中心に描かれています。しかも遠い国の話だったり、夢の世界の話ではなく、現実的な愛の物語になっています。今回の新作は普段に近い、そのままの姿で映っています。愛することはどういうことなのか非常に丁寧に描いていまして、愛することの意味を感じられる予定です。早くこの映画が完成して、また日本を訪れたいと思っています」

(取材・文:北島恭子)




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