第5回東京フィルメックス デイリーニュース



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「懺悔<ざんげ>」ソン・イルゴン監督 単独インタビュー
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 デジタルカメラで素人の俳優を起用した長編デビュー作『フラワー・アイランド』から一転、35ミリでプロの役者を起用した新作『懺悔』を届けてくれたソン・イルゴン監督。しかし本人にはことさら新たな挑戦という意識はなく、「作る手段は違っても、映画への取り組み方は変わりません。私はテーマやモチーフごとに手段を変えればいいという考え方なのです。いわば画家が作品ごとに画材を換えるのと同じように」と語る。














『懺悔』は極めて作家製の高い作品ではあるが、一般的にミステリー、スリラー、ホラーに分類されるジャンル映画でもある。「メロドラマからアクションまで、さまざまなジャンルの映画に親しみながら育った」と語る監督は、今回「意図的にジャンルを選んだ」という。

「まず私は主人公カン・ミンの生い立ちを年代記のように書き上げたのですが、そのまま漠然と描いたとしたら、観客が2時間我慢できない映画になってしまったでしょう。観客の興味を引きつけるには、案内役としてのジャンルが必要だったのです。また、ジャンルをはっきり打ち出すと製作費を募りやすいという事情もあります。それに映画の中のある真実に近づく物語の構造として、ミステリーは最適なジャンルですから」

「ただし韓国での公開時は、宣伝のポイントをうまく絞りきれなかったようです。『懺悔』はミステリーやホラーの体裁をとっていますが、純粋にジャンル映画というにはドラマ性が高い。実際、私自身ジャンルを採用したものの、ミステリーやホラーの原則には従いませんでした。“ひとりの男の心の旅”を表す都合のいいジャンルがあればいいのですが、そんなものは存在しませんしね(笑)」

『懺悔』は生と死の境界をさまよう主人公の現実、幻想、思い出が複雑怪奇に錯綜する作品である。現実と非現実の曖昧な境界をいかに映像で表現するか。それこそがこの映画の演出上の肝だったに違いない。

「ええ、現実と非現実の境界をどこまで観客に見せ、知らせるべきか腐心しました。そのさじ加減を考えるのは面白くもあり難しい作業でしたね。私が気に入っているのは、カン・ミンの死んだ妻が暗闇から現れ、また暗闇へと消えていくシーンです。ただの過去の逸話にしてはどこか変ですし、現実のようで夢のようでもある。シーン全体がカン・ミンの歪曲された記憶のようにも思えたり、幾層にも重なった要素を含むシーンになりました。ある意味では、この映画のすべてを代弁するシーンかもしれません」

 この映画の重要な舞台となった“森”について尋ねると、監督は「森というものが持つ異なるふたつの顔に引かれたのです」と語る。

「昼間の森には誰もが安らぎを覚えますが、夜の森には幽霊が出没したり、何やら秘密めいたものが隠されているような雰囲気が醸し出されます。そんな“ふたつの顔”は、主人公のカン・ミンが見せる二面性にも通じます。極端に相反するふたつの顔がひとつの世界を形成しているという点で、森という魅力的な空間とカン・ミンの存在を重ねてみたかった。森はこの映画のもうひとりの主人公とも言えるでしょう」

 「ホラーはさほど好きではない」と語るイルゴン監督だが、筆者が「少女の幽霊が蜘蛛さながらに宙を上っていくショットには感動した」と伝えると面白い答えが返ってきた。

「恐怖の実体を映像化したかったのです。人間には誰でも、面と向き合いたくない恐怖というものがありますよね。その人が頑なに避けたいと願う恐怖の実体。そんな通常のホラーとは異質の恐怖を描いてみたつもりです」

(取材・文/高橋諭治)




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