第5回東京フィルメックス デイリーニュース



11月20日(土)〜11/28(日)、開催の模様をデイリーでレポート!
※即日更新予定ですが、遅れる場合もありますので御了承ください。


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トークショー「第5回東京フィルメックスの収穫について」
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 ベルリン国際映画祭フォーラム部門の前ディレクター(現在はアドバイザー)、ウルリッヒ・グレゴールと妻のエリカ・グレゴールを迎え、最終日にふさわしいトークイベントを開催。ウルリッヒ・グレゴールといえば、世界3大映画祭、ベルリン映画祭「フォーラム部門」の創設者。また東京フィルメックスにおいては、審査員のほかゲストとして講演を行ったりと、おなじみの顔となっている。今回は国際映画祭を熟知しているグレゴール夫妻が、これまでの東京フィルメックスを振り返り、ご自身が手掛けているベルリンのフォーラムと比較しながら本映画祭の収穫から今後の課題までたっぷりと語ってくれた。東京フィルメックス・ファンには聴き逃せない貴重な話が満載。















ウルリッヒ・グレゴール(以下、ウルリッヒ)「清水宏の仕事を発見できて私たちは大変喜ばしく思っています。というのは東京フィルメックス以前には、1、2本しか作品を見ていませんでした。清水宏の規模の大きさ、スタイルの特有さ、取材の面白さなどについて知らなかったからなんです。東京フィルメックスで多くの作品を拝見し、後にベルリンで回顧上映をすることに決まりましたが、偏に東京フィルメックスの協力がなければ成立しなかったと思います。ベルリンでは映画祭期間中に数本上映しまして、その後、3月に一ヶ月かけて全作品を上映することになりました。さらに引き続き、ケルンという街で国際交流基金の日本センターがあるのですが、こちらでの上映も実現させられました。
 プリントのクオリティが非常に良かったんです。ほとんど全作品35mmのプリントで上映できました。特に私たちの間でも有名な『有りがとうさん』という作品を、そのような良いプリントで拝見できたことは大変素晴らしかったです。観客も「このような作品を発見してくれて有難う」と非常に興奮してくれました。「絶対また見たい」というご意見もたくさん聞きましたし、「非常に感動した」というお話もありました。回顧上映が終わると寂しい気持ちが残るものです。例えば小津安二郎の回顧上映の時も「小津なしの人生なんて」というふうに嘆いてくれましたけれども、清水宏の場合も「ぜひ続けて再上映をしてくれ」という要請を随分いただきました。しかし、残念ながらプリントは香港に旅立たなければいけませんでしたので、再上映はありませんでした。
 特にドイツの観客は日本の戦後直後の様子を映像で見ることができて、大変感慨深かったようです。『蜂の巣の子供たち』という作品は、自分たちドイツの歴史を重ね合わせるように見てもらえたと思います」

市山尚三プログラム・ディレクター(以下、市山)「昨年の東京フィルメックスで『清水宏特集』とともに上映されました『ニワトリはハダシだ』という作品が、ベルリンのフォーラムでも上映されました。監督の森崎東さんはこの作品で初めて海外に紹介されたことになります。この作品はどのように受け入れられていましたか?」

エリカ・グレゴール(以下、エリカ)「ドイツでの観客はこの作品を見て大変感動していました。しかも上映の後に非常に長いディスカッションになりまして、1時間半以上も話し合いが続くような興奮ぶりでした。映画館から追い出された後もロビーに行って議論は続きましたし、森崎監督も質問を受けていました。監督もこの事態に対して、大変喜んでくださったようでした。今後、国際交流基金の支援を得て森崎監督の回顧上映も、私たちの映画館アルザナールでできるといいなと思います」

ウルリッヒ「ドイツの観客が特に面白がっていたのは、森崎監督が発想豊かな監督だという点でした。ファンタジー、色々な観察、それからユーモアも豊か。また社会に対する批評家としても才能を発揮しているのではないかということで、ドイツの観客はこの点について多くの質問をしていました」

市山「それでは今年のフィルメックスの話に移りたいと思います。まず作品のセレクションについてどう思われますか?」

ウルリッヒ「東京フィルメックスの優位点といいますか、得をしているのはまだ大規模になっていないという点です。多くの映画祭では洪水のように作品がありまして、観客はどれを見たらいいのか迷ってしまうような状況です。しかし、こちらでは全てのプログラムの全体像が見えて、全作品を見ようと思えば見られるということです。私たちのフォーラムではあまりにも本数が多すぎて、そういったことは不可能です。そしてラインナップを見てみますと、非常に優れた作品があると同時にバランスのとれたラインナップだと思うんです。映画の方向性、映画作りの方向性というのは色々あるかと思いますが、その多様性がバランスよく提示されていると思います。またそれぞれ見終わった後にディスカッションをしたり、思い返して考える要素をたくさん持っている作品ばかりです。映画というのは、その点が重要だと考えるからです。90分だけ娯楽を楽しんで、映画館を出た後に忘れてしまうような映画ではなくて、見終わった後に自分の中に取り込んで振り返っていく、つまり自分の中に映画が続いていくという体験が映画として重要なのです。今回の映画祭では、そのような作品ばかりみられたと思います。
 具体的に2つの点だけつけ加えますと、ひとつは、それぞれの国でどのような生活状況にあるのか、現在人々はどのように暮らしを成り立たせているのか、そういった情報満載な映画がたくさんありました。そして2つ目には、映画製作の可能性の未来を批評する作品もみられました。現実をどのように表現するのか、映画の可能性を示唆していると思います」

エリカ「私のほうからつけ加えますと、ディスカッションの時間が大変素晴らしく、感心いたしました。ベルリンでも上映後のティ−チインはありますけれど、司会が困難な場合が多いんですね。というのは私たちのお客さんはなかなか手をあげて質問をしてくれないので、司会者がどんどん質問していかないと成立しないんです。しかし、こちらではすぐに手をあげる方がいて、非常に面白い質問をしています。そのうえ若いスタッフの方が非常に素早く手をあげた方のところにマイクを持っていく。そのスピードにも大変感心します。ただ今回の東京フィルメックスでは、もう少し質疑応答に時間を費やせれば良かったかなと思うことが何回かありました」

林加奈子ディレクター(以下、林)「まさに今お2人に指摘していただいたことは、フィルメックスの本当にいい特徴だと思うんですね。“世界に触れる”というキャッチコピーを出していますけど、私たちは今の世界の映画の流れを掴めるものを厳選して、妥協なく選んでいるつもりですので、その辺りをきちんと指摘していただいたことは本当に嬉しく思います。それとQ&Aは、私たちも本当にびっくりしているぐらい観客の皆様がすごく熱心で、皆様がいい質問をくださることが私たちの映画祭を助けてくださっている、ありがたいことだと感謝しております。Q&Aの時間を長くしたいということは確かにあるんですけど、そうしますと上映の本数を減らさないといけないという、また難しいところに行き当たるので、それは課題であるんですけど、真摯に受け止めております。
 では続きまして、東京フィルメックス5回目までの動き、変化などについて、気がついたところがあればお願いします。ずっとこの映画祭を見届けてくださっているお2人なので、教えていただければと思います」

ウルリッヒ「東京フィルメックスは初めから安定していました。いわば映画祭の背骨と言えるところだと思いますが、映画に対する精神、映画作品をセレクションするスタンス、そういったところは始めから変わらないと思います。私が気づいた変化といいますと、広さを持つようになったことでしょうか。例えばオマージュを増やしていったり、特別プログラムを増やしていらっしゃいます。またアジア作品だけではなく、ヨーロッパ作品を上映するところにも広がりを感じます。観客のほうを見てみますと、観客が成熟しているような印象を受けました。つまり東京、そして日本においてこの映画祭がしっかり根付いてきたのではないかと思います。
 もう一つ申し上げますと、質疑応答の時間に映画祭のディレクター自らが司会をするといった姿勢には感動します。実は私たちのフォーラムでも初期からやっていたことなんですが、それがこの地で甦っているように思えるからなんです。私たちの映画祭と東京フィルメックスは家族のようなもので、“同じ共通のゴールに向かっている家族”という印象を受けます」

エリカ「そしてコンペティションの新作だけではなくて、オマージュという点にも力を入れていらっしゃることに大変感心します。第2回東京フィルメックスで、ニルキ・タピオヴァーラにも焦点を当てているのは大変素晴らしい試みだったと思います。そして内田叶夢の回顧上映は私たちにとっては大発見でした。毎回フィルムセンタ−の会場はほとんど満杯。私たちが行くと最前列か2列目しか席が空いていないような状況でした。お客さまは幅広く、当時若い頃に一度見たことのある年輩の方と、今回初めて見るような若い方が混ざるようにいらしたので、非常に嬉しく思いました。旧作を再発見していくということは、新しい世界を広げてくれることだと思いますので、それはとても面白く、素晴らしいことだと思っています」

ウルリッヒ「内田叶夢の回顧上映を目にした私たちは、日本映画史の新しいページを発見することができました。非常に力強いスタイルを持った作家であることに感心しました。特に時代劇の作品の中には非常にスタイリッシュなものもありました。演劇的な要素の多い作品でした。しかも、この監督には演劇的なものを映画に変えていくビジョンがあり、その力に圧倒されました。それは例えば『恋や恋なすな恋』(1962年)などにそのような要素が見られました。社会芸術に近いような作品も非常に面白く拝見しました。サイレント映画の『警察官』(1933年)。これは映画史的にも映像スタイルとしても非常に大きな発見として、私たちを喜ばせてくれました。力強いビジョンのある作家であることを確信しました。照明、撮影、美術にわたって非常に感心することばかりで、できれば今後、世界の他の場所で内田叶夢の作品を紹介していきたいと考えています」

エリカ「内田叶夢は道徳的な作家であるのではないかと驚かされました。社会正義の考えを持っていらっしゃるのではないでしょうか。『花の吉原百人斬り』(1960年)『自分の穴の中で』(1955年)といった作品の中には、それが現われていました。例えば、小津安二郎のような監督は世界に対して厳しい批評を加えるということはなかなか見られませんでしたけど、内田叶夢はおそらく左翼の映画作家だったのではないでしょうか。彼の作品はいずれアルゼナールという私たちの映画館で上映したいと思います」

市山「内田叶夢の作品は色々な事情があって、上映できなかった作品もまだまだたくさんあります。これをきっかけに、今回上映できなかった作品も見られるようになればいいなと思います。それでは時間も残り少なくなってきましたので、グレゴールご夫妻へのご問をお受けいたします」

質問「今回のコンペティション作品と特別招待作品の中で特に印象に残った映画を教えてください」

ウルリッヒ「『Turtles Can Fly(原題)』『トロピカル・マラディ』が印象深かったです。日本の作品では『山中常盤』。私たちは非常に興味深く拝見いたしました。見たことのないタイプの珍しい映画でした。このような映画を見た記憶を胸に帰国しようと思います」

エリカ「『トロピカル・マラディ』は私もグランプリにふさわしいと思います。(*この時点ではまだ受賞結果が発表されていなかったため、エリカさんの思わぬ発言に場内は爆笑)一方で、『アヴァニム』も私は大変素晴らしいと思います。今後この作品が世界で紹介されることを願っています」

市山「あと1時間位したら、グランプリの結果がわかりますので(笑)」

エリカ「最後に一言申し上げなければいけないのは、東京フィルメックスほどスタッフが親しみやすくて温かい映画祭はほかにはありません。皆さんがいつも笑顔を絶やさずに働いていらっしゃるのを見て感心しました。本当にどうもありがとうございました」

(取材・文:北島恭子)




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