『天上の恋歌』
ティーチイン

 「男と女の関係というのではなく、人間と人間の関係。どうやって人と向かい合っていったらいいのか、どのようにして自分を含めた人間を背負っていったらいいのか。 そういう問いかけを私はこの映画でやりたかったのです」。さびしくて悲しい作品ですが、監督の思いはどこにあるのかを教えてくれますかという問いに、一言一言をか みしめるようにユー・リクウァイ監督はこう述べた。優れた撮影の仕事をしてきた彼の、これは監督第一作目。そういう場合、饒舌な映像にドラマの芯が見えないことが 多いのだが、彼の作品では驚くほど人間がよく書き込まれている。「即興のセリフはありません、台本どおりです。撮影期間が18日だったものですから、俳優との議論 やリハーサルに時間をかけられなかったのです」。中国に返還された香港で、生きていくことの幻滅と悲哀を味わいながら逃げ出せずにいる底辺の人たち。彼らの心情がそくそくと迫ってくる。「香港人は水や食料を大陸に依存しているくせに、心情的には大陸の人を排除しようとします。自分たちの位置をどう定めたらいいのか分からな いのです」。
 そういう状況の中で、この町と人を知り尽くした彼がこれからも優れた監督作品を生み出していくに違いないと思わせる、人柄の誠実さが印象付けられたティーチ・イン だった。


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