『贅沢な骨』
ティーチイン

 「皆さんに愛されて育っていけるような、そんな映画になってくれれば」とサキコ役の女優つぐみがはにかむように客席に語りかけ、ティーチ・インは始まった。ウナギの小骨がいつも喉元に刺さっているような異和感を抱えて現実と向き合うホテトル嬢ミヤコと、傷ついた少女期の自我を守り通そうとするサキコの穏やかな共同生活が、逆巻くような情動の波をかぶり、幸福の記憶と澄んだ悲しみを残してまた静かに引いてゆく物語。「人って誰でも汚い側面をもっていて、それを忘れて何かを生み出せる人がいる一方で、“自分は汚い”とそればっかりと抱え込んでしまう人もいる、サキコはそんな人なんだと思って演じました」。役柄への質問につぐみはそう答え、「いつしか悪意に変わることも知らずに純粋さを突きつめてしまうのがミヤコなら、サキコは“私は汚れてる”といいながら自分を防衛してるんじゃかな」と行定監督が引き継ぐ。柔らかな光に包まれたこの映画に影を落とす“死”については、「ぼくの身の回りにいた死んだ人たちが、こういう形で現れてきたみたい」と行定監督。「思いつめたあげくやっと伝わったのに、最後にはいなくなってる」といった監督の記憶が反映されているようだ。「どちらの女の子にも気持ちが重なり、切なくてドキドキしました」と、抑えきれない感動を訴える同世代の女性客もいた。

後藤岳史


監督プロフィール:行定 勲
1968年、熊本県生まれ。テレビ界の巨匠、鴨下信一や大山勝美のもとに助監督としてついた後、フリーとなり、林海象、岩井俊二の諸作やハル・ハートリーの『FLIRT』などにスタッフとして参加。映画『OPEN HOUSE』で初監督。1999年、劇場公開第1作となる『ひまわり』を発表。本作品は第5回釜山国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、国内外で高い評価を得る。その後、『閉じる日』(00)を経て、『贅沢な骨』が4作目となる。


back