『ジョメー』
ティーチイン

  「ここにいる皆さんと日本語で会話したくてたまらないのですが、私にはできません。うまく言葉では表現できないからこそ映画を作っている、とも言えるわけですが」。上映終了後、観客の拍手を浴びながら壇上に姿を見せた監督は、柔らかい口調で観客への挨拶を行った。アッバス・キアロスタミ作品の助監督などを経て、この『ジョメー』がデビュー作。イランの牧場で働くアフガニスタン人の若者が村の娘に片思いしたことから始まる、ささやかな事件の顛末を淡々と語り明かす。「ラブ・ストーリーを作るつもりはなかった」と断りつつも、「若者が恋する女の子の名前はセタレと言いますが、これは“星”を意味します。星にたどり着くには、とにかく動かなくては始まらない。だから若者は車で移動しながら恋について語るのです」と、イラン特有の哲学的な意味合いがこめられていることを説明。そして黒澤明作品のスクリプターとして活躍した野上照代さんがマイクを握り、映画に配されたブルーの美しさを指摘すると、黒澤監督の大ファンだという監督は「ブルーには空のイメージを託しました」とコメント。よほど感激したのか、インテリジェンス溢れるイラン人紳士の顔が、このときばかりは紅潮しているように見えた。


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