第8回東京フィルメックスが初日を迎え、なごやかな雰囲気のなか、オープニングセレモニーと特別招待作品『それぞれのシネマ』の上映が行われた。同映画祭の林 加奈子ディレクターによる開幕宣言から、審査員代表の山崎裕さんの言葉、そして『それぞれのシネマ』上映にあたってのカンヌ映画祭代表からのメッセージなど、映画への深い愛情と強い想いを感じさせるフィルメックスらしい幕開けとなった。
開幕宣言に立った林ディレクターはまず、映画祭への支援と協力、そして観客に感謝を述べ、「37本のすばらしい映画に支えていただいて今日この日を迎えることができました」と、今年のフィルメックスで上映される全作品の概要を紹介した。コンペティションに特別招待作品、山本薩夫監督特集、リッティク・ゴトク監督特集と、観る機会の少ない貴重な作品を含む盛りだくさんのラインアップ。「映画祭の命は充実したプログラムです。体調を整えて一本でも多くご覧ください」と熱く呼びかけた。
次に市山尚三プログラム・ディレクターの紹介を受けて審査員が登場、あたたかい拍手で迎えられた。この日登壇したベルリン国際映画祭〈タレント・キャンパス〉ディレクターのドロテー・ヴェナーさん、カンヌ国際映画祭代表補佐のクリスチャン・ジュンヌさん、行定勲監督、撮影監督の山崎裕さんの4人に加えて、韓国のイ・チャンドン監督が審査委員長を務める。
残念ながらイ監督はセレモニーに出席できなかったため、山崎さんが審査員を代表して挨拶した。テレビドキュメンタリーの世界でキャリアを積んできた山崎さんは「まさか自分が映画祭の審査員をやるとは思ってもいませんでした」とのこと。しかし、是枝和裕監督の『ワンダフルライフ』から映画も多く手がけるようになり、海外の映画祭を回った経験から、「この東京フィルメックス映画祭はディレクターの明確な視点を感じさせてくれる映画祭だと考えています。しかもアジアを後押ししています。アジアの映画には作り手がどうしても伝えたい思いが素直にストレートに表現されているものが多く、そうした映画作りの姿勢に私は共感しています。そんなコンペ作品を国も年齢も性別も違う5人が審査する、そんな場に立ち会えることに責任と同時に大きな喜びを感じています」と、期待をふくらませていた。
セレモニーに続くオープニング作品『それぞれのシネマ』は、カンヌ国際映画祭60周年を記念して作られたオムニバスで、日本からも北野武監督が参加している。今回の上映にあたり、メッセージを寄せたカンヌ映画祭代表のジル・ジャコブさんは「第七の芸術である映画に対する愛の告白のようなすばらしい作品」と、参加した世界の巨匠たちを絶賛し、「世界五大陸25か国からの35人が“映画館”にインスパイアされた思いを3分間に詰め込んだ作品です。それぞれの美学、感受性を見せてくれる豊かな個性をご覧ください。世界の一部を切り取ってまったく違うものに変貌させてしまう詩的な表現力にご注目ください」と見どころをアピールした。
ほとんどの短編において監督名が明らかになるのは最後の場面なので、誰の作品かを予想しながら見るという楽しみ方もでき、フェリーニやゴダールなどが引用されていたりと、とくに映画ファンには見応えのある作品となっている。3分ごとに切り替わりながら次々と繰り広げられる独特の世界に、笑ったり、じっと見入ったり、思わず感嘆の声を上げたりと、観客は引き込まれていた。
第8回東京フィルメックスは11月17日から25日まで、有楽町朝日ホールとフィルムセンター大ホール、シネカノン有楽町1丁目の3会場で合計37作品の上映に加えて、MARUNOUCH CAFEや有楽町朝日スクエアにてトークショーなどの関連イベントも行われる。
(取材・文:古田智佳子)
投稿者 FILMeX : 2007年11月17日 16:00