第8回東京フィルメックス初日、特別招待作品としてジャ・ジャンクー監督の最新作『無用』が上映された。『長江哀歌』のヒットなどで日本にもファンの多いジャ・ジャンクー監督の最新作には多くの観客が集まった。この作品は今年のベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞している。上映後には監督と『長江哀歌』の主演女優でもあり、この作品のプロデュースも務めたチャオ・タオさんを迎えてのQ&Aが行われた。
上映後、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターの紹介で舞台に登場したジャ・ジャンクー監督とチャオ・タオさん。まずは、市山Pディレクターが今回の作品を撮ろうと思ったきっかけについて訊ねると、ジャ監督は「チャオ・タオから友人であるデザイナーの馬可(マー・クー)さんを紹介され、彼女が新しく立ち上げようとしているブランド「無用」のコンセプトに興味を持ち、そこから作品が誕生した」と答えた。
次に、後半に馬可さんが山西省を訪れるシーンがあるが、これは彼女が山西省の出身だという意味かという質問が観客から飛んだ。「彼女は山西省の出身ではなく、あのシーンは彼女はいろいろな場所に旅をしてそこからデザインのインスピレーションを得ているという意味。山西省のシーンについては最初から予定していた展開ではなく、馬可を取材しているうちにファッションを通して中国の現実を見たいという想いが生まれ、撮影したものです」と答え、主人公が移り変わっていく作品の展開について説明した。
さらに、前半はドキュメンタリーで、後半には演出も感じられる作りこんだ形になっていることについての質問には「私の作品はよく、劇映画なのにドキュメンタリーのようだと評されたり、ドキュメンタリーなのに劇映画の要素が強いといわれる。こうした評価は別として、真実を撮ることは大切だと思っている。そして映画はもっと自由な手法で作られていい。そうした意味ではドキュメンタリーにも演出は必要だと思う。映画のラストシーンでバイクに乗った少年が服を旗のように振り回すシーンがあるが、あれは演出。自分の少年時代に経験したような雰囲気を表現したかった。今の中国には盲目的で野蛮な雰囲気、強烈な力が出現し始めている。そんな目に見えない力を、服を振り回す少年の姿として描いた。これからも自由な手法にチャレンジしていきたい」と語った。
最後に、劇中に流れる音楽についての質問には『僕の映画の登場人物は、話すことが苦手で、話すチャンスもあまり持たないことが多い。歌を通して彼らの豊な内面が表現できたらと思っている』と話した。
さらに、劇中で流れるビヨンドの曲についての質問には「広州のシーンを撮影中、広東語のビヨンドの曲が頭を離れず、いつも口ずさんでいた」と撮影中のエピソードを交えて答えた。
観客からの質問はどれも本質を捉えたもので、話は監督の映画観についても及び、短い時間ではあったが密度の濃いインタビューとなった。
(取材・文:清水園子)
投稿者 FILMeX : 2007年11月17日 21:30