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2007年11月22日 11/22 トークイベント「究極の恋愛映画」万田邦敏×蓮實重彦

IMGP3223s.jpg 11月22日、有楽町朝日ホール・スクエアにてトークイベントが行われ、第8回東京フィルメックスコンペティション作品『接吻』の万田邦敏監督と映画評論家の蓮實重彦さんが「究極の恋愛映画」について語った。『接吻』制作エピソードなども飛び出し、会場は大いに盛り上がった。平日にも関らず、開場前から長蛇の列ができるほどの盛況ぶりで、『接吻』への注目度の高さがうかがえた。

 林 加奈子東京フィルメックスディレクターの「『接吻』鑑賞前のウォーミングアップを楽しみましょう」という挨拶から始まったトークイベント。
「“恋愛後進国”ともいえる日本で、「究極の恋愛映画」について話すというのは少しこそばゆい気もする」という蓮實さんだが、早速、万田監督の新作『接吻』について話が始まった。当初は「ノートブック」という仮題だったが、いまひとつインパクトに欠けるということで現在のタイトルになったという。「本当に素晴らしい」と2人が絶賛する主演の小池栄子さんをキャスティング時に最初に挙げたのは、万田監督の奥様で脚本を書かれた珠実さん。「『犬猫』(04公開・井口奈己監督)を見て、すごい女優さんだ、と。僕も、『犬猫』で印象的だと思っていたので、小池さんでいこうかということになりました」(万田)ここから段々と万田監督の奥様の話題に。
「万田さんのところは奥様が長編第1作目『UNLOVED』(02)と今回、脚本を書いておられるんですよね。専業主婦と専業監督で家庭的な不和はないですか?」と蓮實さんが質問すると、
IMGP3221s.jpg 「そうですね、彼女は素人ではあるんですが、本当に書くのが早いんです。だけど僕から見ると映画の脚本ではではないんですよ。ずーっと(場面が)同じ部屋から動かないとか。だからそれを僕が直して、彼女に見せて…の繰り返しです。今回は9割がた彼女が書きました。とはいえ、今回も意見を交換するというのはやはりありますから、(衝突することもあって)僕はひやひやしてたんですが、向こうは全く不和と思ってないんですよ。僕はもうヘトヘトなんですけどね。だから、『ありがとう』(06)での仙頭(武則)さん(脚本)とのキャッチボールはすごく楽しかった(笑)」(万田)
「奥様が脚本を書かれているといえば、市川箟さん。彼は全面的に奥様(和田夏十さん)を信頼していましたよね。万田さんのところは、出来上がるまでに闘いがある感じですね(笑)」(蓮實)

 蓮實さんが「『UNLOVED』と『接吻』では全てがうまくいかない女性、2作目『ありがとう』では全てがうまくいく、まさにハッピーエンド。この落差は一体何なのか。また、(奥様や仙頭さんとのキャッチボールというのも)僕が万田さんに持っていたイメージとも違ったんですよ。万田さんは、好きなものを観客も関係なくひとりで撮る人だというイメージを持っていたので」と言うと「まず落差についてですが、本当にこういう全く違うものを撮りたかったというのがあります。妻との共同作業については出来上がったものを見て、「一緒にやるっておもしろい」って思いましたね」と語る万田監督。
「まさに奥様ありきの映画だと思いますが、『接吻』は一体何映画と呼ぶのかな?」(蓮實)
「最初は恋愛映画とは考えていませんでした。それよりも(小池さん演じる)京子と(豊川さん演じる)坂口の奇妙な結びつきや狂った思い入れを描きたかった。でも、小池さんが恋愛ムードを持ち込んだんです。現場での演技を見て、「あぁ、この人は恋愛映画として京子を演じてる。それもいいかな」って思ったんです。それくらい小池さんの演技は素晴らしい。恋愛映画としてのボルテージは高いと思いますね」と万田監督。

IMGP3220s.jpg 「鑑賞前の皆さんに話すのはどうかと思うんですが、『接吻』の接吻シーンはほとんど活劇なんですよ。世界映画史的にも稀です。皆さんも見る前には禊ぎを済ませておかないと(笑)あのシーンは、俳優さんたちにどういう指示をしたんでしょうか?」(蓮實)
「最初に妻がああいうシーンを書いてきて、僕もプロデューサーも本当にびっくりしました。だから役者さんもよく理解していないのでは、と思います。僕も動きをつけていっただけで。本当にああいう活劇のような接吻シーンしか撮れないので、次回こそはちゃんとした接吻シーンを撮ります」と万田監督が言うと、
「ちゃんとした接吻シーンとは?」とすかさず突っ込む蓮實さん。会場では笑いが巻き起こった。ちなみに万田監督の言う“ちゃんとした接吻シーン”というのは、気分も盛り上がるし、胸も締めつけられるようなシーンだそう。

「接吻映画といえば、最近ちゃんとした接吻はアメリカでも撮られていないね。僕はアメリカ映画から接吻を絶滅させたのはアクターズ・スタジオだと思っています。かつては接吻の上手な二大俳優として、ゲイリー・クーパーがソフト、クラーク・ゲーブルがハードなんて言われていて、共演した女優たちは生涯その接吻の甘美さを忘れなかったといいます。ということは、接吻というものは映画においてフィクションではないってことですよね。そんな接吻を本当に撮れますか?」という蓮實さんに、
「昔の接吻シーンを撮っていた人たちは、「これから撮るぞ」という感じではなく、俳優もスタッフも自然と心得ていて、その中で撮れてしまったという感じがあったと思います。今の現場にはそういう雰囲気がないですね。蓮實先生のおっしゃっていた、フィクションじゃないリアルなものを撮るっていうのは難しいです」と謙虚に答える万田監督。
「30年代だったらもっと簡単だったと思うんですよ、照明を変えたりして。でも今は本当に難しい。そういえば『人のセックスを笑うな』(08年1月公開予定・井口奈己監督)は最近珍しい本物の接吻映画なんですよ。どうしてあんなにキョトンとした監督があんなに濃厚な接吻が撮れるのか…これは私考え込みましたね。さまざまなところに俳優を寝転ばせたりして、これはまさに俳優が“接吻を享受している”映画です」(蓮實)
この後も、接吻がうまいと思う日本人俳優について盛り上がり、まさに“接吻談義”に花が咲く2人。

時間はあっという間に過ぎ、最後にこれからご覧になる観客の皆さんにメッセージが述べられた。
「今日初めての一般公開で、何より小池さんを見てもらいたいです。仲村トオルさん、豊川さんも見え方が違う芝居をやってくれています。本当にメインの3人の役者さんが素晴らしい。是非楽しんでください」(万田)
「ぜひ、皆さんご覧になったら10人には「小池さんを見て」と言ってください。本当にそれぐらい女優・小池栄子が素晴らしいんです!」(蓮實)

 2人の共同作業を楽しそうに語る様子に、万田監督と奥様との関係こそが究極の恋愛映画のように感じられた40分だった。外の寒さに負けない熱気のこもったトークイベントは、まさに『接吻』鑑賞前の良きウォーミングアップになったのではないだろうか。

『接吻』は2008年3月、ユーロスペース他にて公開予定。


(取材・文/今坂 千尋)

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投稿者 FILMeX : 2007年11月22日 20:00



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