デイリーニュース
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2005年11月23日

11.23. トークイベント『日本映画のいま 廣木隆一監督の映画術』

東京フィルメックス5日目。特別招待作品として上映される『やわらかい生活』の廣木隆一監督を迎えてトークイベントが開催されました。『ヴァイブレータ』の監督と主演コンビによる2作目ということで早くも話題を呼んでいる同作。司会進行は監督とは旧知の映画評論家・塩田時敏さん。廣木監督が助監督時代から面識があるというだけに、楽しいトークが展開されました。また終盤近くに寺島しのぶさんが乱入!? 『ヴァイブレータ』『やわらかい生活』と廣木作品に2度主演した寺島さんから思わぬ本音が飛び出すなど、映画祭でなければ聞くことができない撮影秘話に会場は興奮。笑いが絶えない一時となりました。

塩田「こんな格好ですみません。披露宴帰りなもので(笑)。廣木監督は結婚しないの?」
廣木「結婚したいんだけどね、許してくれないみたいで」
塩田「誰が?」
廣木「誰がだろう(笑)」
塩田「披露宴帰りでこんなことを言うのも何ですけど、今どきね、結婚なんかする人は気がしれないと僕も思うんですけど」
廣木「塩田さんは何で結婚しないんですか?」
塩田「いやー、ハハハハハ。これから皆さんがご覧になる『やわらかい生活』のヒロインは30半ばで結婚せずに精神科に通いながら色んな男たちとつき合う話ですよね?」
廣木「そうですね」
塩田「今までの廣木映画には結婚しているヒロインって出てこないですよね?」
廣木「何でしょうね。僕の周りにはいっぱいいるんですけど、僕自身があまり結婚生活には憧れていないというか…」
塩田「そのほうが今という時代を描けるという考えですか?」
廣木「人間関係を描く場合はシングルのほうが描きやすい。決まった関係性がある家庭生活よりも、出会いがあったり、別れがあったり、シングルで色んな選択があるほうが映画として面白いかなと思って」
塩田「日本映画の伝統的なものとしては、ちゃんとした夫婦生活があって家庭生活があるというのが昔からの基本だと思いますけれど。でも最近は、結婚している設定では面白い映画にならないのかな」
廣木「いや、ホームドラマはそのうちやりたいと思っているんですよ。親と子、夫婦という関係性にも興味はありますけどね」
塩田「この『やわらかい生活』は前の『ヴァイブレータ』の大好評を得て、同じ監督と同じ脚本家、同じ主演女優から話が始まっているんですよね?」
廣木「そうですね。『ヴァイブレータ』がいい感じだったので、また違う女性像をという」
塩田「『ヴァイブレータ』は日本のみならず世界的にも、はっきりぶっちゃけて、今までの廣木映画ではいちばん評価が高かったんじゃないかと」
廣木「そう。今まで代表作は『性虐!女を暴く』だったのが、『ヴァイブレータ』の…って言われますよね」
塩田「それは自分としてどうなんですか?」
廣木「いや、どれが代表作かと言われるとちょっと違うと思うんですよ。常に動いて前に行こうとしているんで、どれがと言われてもないんですよね」
塩田「もちろん『ヴァイブレータ』は廣木映画と観なくても映画としてものすごい傑作だと思いますけど、今度の『やわらかい生活』はそれに比べると廣木さんらしいなと感じて。それは一つに舞台となっている蒲田という町。その町を生き生きと捉えているというか、町そのものがキャラクターを語っていく映画になっているので、それこそ今までの廣木映画に通じますよね」
廣木「塩田さんはずっと観てくれていますからね。いつもうちの組はロケハンがしっかりしていると仰ってくださいますが、本当に舞台となる場所とストーリーのかみ合わせが自分の中でしっくりこないと撮れないので、そこは気にするところではありますけど」
塩田「『性虐!女を暴く』は廣木監督のデビュー作なんですが、舞台は横浜で、撮った場所は新宿でした」
廣木「そうそう(笑)」
塩田「廣木さんが助監督の頃から面識があったんですが、僕がたまたま新宿のゴールデン街で飲んでいた帰りに通りかかったら『性虐!女を暴く』の撮影をやっていて、ちょっと出ることになったんですよ。で、新宿三丁目を歩いている僕たちに廣木さんは“横浜を歩いているように歩け”と言うわけ。それがどう違うのかよく分からないんですけど(笑)」
廣木「今でもそれを言われると“横浜を歩いているように”と言ったのは失敗だったなと思って(笑)」
塩田「都内を歩いているのに横浜の雰囲気を出したいという。ま、ピンク映画だから横浜まで行けないんだろうけど、予算がない中で微妙にこだわっているのが印象に残っているんですよね」
廣瀬「今回は原作が蒲田を舞台にしていて、それがやりたいと思った理由の一つでもあるんですけど。蒲田って行ってみるとすごく猥雑というのかな、蒲田に住んでいる方がいましたらごめんなさい(笑)。何かすごく面白い街だなと思って。東急と京急とJRの3つの駅があって、それぞれに商店街があって、それぞれの特徴があって、一貫性というのがないんですよね。横丁を曲がるとすぐに全然違う雰囲気になったりするところが、惹かれた部分でもありますね」
塩田「この作品は予算があったと思いますが、ピンクの頃は予算がないので本当は遠くに行きたいけれど都内で撮らざるを得ない。その時に監督が良く言っていたのは小洒落た? 僕は“シティピンク”と名付けましたけど。都会の風景を絶妙に切り取って、都内のどこにこんな風景があるんだろうと思うようなロケセットとか…。もちろんセットは建てられませんから、実際にある物を見つけてきて、そこに役者を立たせてドラマの核心が語られていくわけですけどね」
廣木「あの頃、4日間か5日間で撮ってたじゃないですか。意外と僕は天候に恵まれなくて雨があって雪があって曇りがあるぐらい全然つながらないんですけど、結果的にいいシーンになったりして、逆に自然を味方にできましたね。雪が降ったから止めようとは思わなくて、雪が降ったら降ったで内容にプラスにしていこうというね、そのライブ感はピンク映画がいちばん面白い」
塩田「撮影期間がたった4日か5日しかないのに天候がそんなに変わるというのは運に恵まれていないのかもしれないですけど、雪の中のシーンにポツンと赤いコカコーラのベンチがあったりするようなショットは降らそうと思って仕込めるものじゃないし…」
廣木「そうそう。ロケハンに行ったら普通の河原じゃないですか。ま、ベンチを置こうかなというのはあるけど、真っ白になるのはすごいでしょう」
塩田「ある意味、悪運が強いというか(笑)。そういうものをちゃんと昇華してやっていくのは今の恵まれない日本の映画監督にとっては重要な才能だと思います。今回の蒲田は小洒落たという感じよりはもっと広い感じの色んなニオイが出ていて、その分、廣木映画の厚みというか幅も出てきて巨匠になったかなと」
廣木「まだまだ駆け出し者ですから(笑)。いや、最初は蒲田のどこをいちばん捉えたらいいのか分かんなくて。川が流れているんですけど、その川とヒロインの家の設定であるお風呂屋さんの前の道がすごく蒲田っぽくて良かったなと思います」
塩田「蒲田の映画館には行ったことないですけど、行ってみようかなという気にはさせられますよね。それはまぁ、寺島しのぶさんみたいな人が住んでいるんだったら(笑)」
廣木「いや、住んでいないと思いますけど(笑)」
塩田「この後も監督は色々撮っていますが、近々観れるのはBSi祭り?」
廣木「『女スパイ道』という4分50秒の作品とBSで撮った『終わらない歌を歌おう』。『終わらない歌?』は2つのドラマをくっつけて前編/後編とした40分位の作品ですけど雰囲気も全然違いますね」
塩田「雰囲気も違いますが、他の監督は20代30代の若手ばかりで、その中に50代の廣木隆一の名前が入っていていいのかと。『やらわかい生活』を撮った後もまたそういうのをやっちゃうみたいな? そんなに軽くていいのかと思うんですけど(笑)。もうそろそろ重鎮というか巨匠にならないと」
廣木「まだ20代後半なので、まだまだです(笑)」
塩田「どっちを撮るにしても自分のスタンスは変わらないわけでしょう?」
廣木「そうですね。『女スパイ道』はただ走っているだけですし、『終わらない歌?』はブルーハーツの曲が主題歌で25、6の女の子の話ですね」
塩田「『4TEEN』は少年たちの自転車を追いかけて渋谷まで行く話でしたよね?」
廣木「あれも原作が月島を舞台にした小説で、月島にこだわってスタッフが頑張ってロケーションをして、それがうまく出ていたなと思いますね」
塩田「同じようなこだわりで、『機関車先生』の時は田舎の風景にこだわっていた」
廣木「いい所だったですよ、一ヶ月位いましたけど。でも船で島へ行って撮影するのはすごく大変でしたね。それに昭和の時代を、CGじゃなくてそのまま撮るというのも初めての経験だったので新鮮でしたね」
塩田「そういう所まで行くと映画を撮っている感じはしますよね?」
廣木「そうですね。俺が『二十四の瞳』やってるのかー、みたいな(笑)」
塩田「『機関車先生』は男性が主人公でしたけど、どちらかと言うとロマンポルノの時代から女優さんが中心にいるんだけど、どちらかと言えば周りの男達に気持ちがいってますよね」
廣木「男の気持ちは男なのですごく分かる。女の気持ちはやっぱり難しいなと思いますね」
塩田「そういう流れの中で『ヴァイブレータ』から『やわらかい生活』につながり、女性の心情にピタッと寄り添う廣木映画が出来たかなと感じているんですが、監督はどうですか?」
廣木「それはもう素晴らしいヒロイン、女優さんがいてくれたから。ここで呼びますか?」
塩田「そうですね、お呼びしましょうか。では寺島さんどうぞ!」
寺島「こんにちは、寺島です。また廣木さんに呼ばれて2本目を撮ることができました。廣木組って組ですけど、戦いのような現場なので、組って言われてもなぁーという感じです。でもまぁ、雇われる限りは3本4本と戦い続けたいなと思います」
廣木「そんな体力持たないよ」
塩田「今日初めて『やわらかい生活』のポスター見たんですけど、ヒロインが風呂につかっているポスターというのはどうなんでしょうか?」
寺島「これは本当のポスターですか?」
廣木「そうですね、これがメインビジュアルです」
塩田「悪い感じはしないんですけど、不思議だなと思って」
寺島「うん…」
廣木「一応シャボン玉みたいな感じで泡なんですけどね」
寺島「でも丸っこく小ちゃくいる人達、豪華ですよね。何か申し訳ないですよね」
塩田「男なんてみんなシャボン玉みたいな感じでいいじゃないですか(笑)」
廣木「お風呂にいる優子ちゃんが金魚で、金魚の泡という様に観てもらえれば」
塩田「なるほど。映画のほうも同世代の女性が観ても共感できるし、男性が観ても頷いちゃうし」
寺島「ご覧になって下さったんですか?」
塩田「観たじゃない、初号の時に。あの時はまだタイトルが『晴れ時々ユーウツ』?」
廣木「『雨のち晴れ、時々ユーウツ』」
塩田「それは寺島さんがつけたの?」
寺島「いや、つけてないですよ」
廣木「僕がつけたんですけどあまりにも評判悪いので」
塩田「長いし、覚えられないですよ」
寺島「題名が長いとね」
塩田「『やわらかい生活』はなかなかいいんじゃないですか?」
廣木「何かしっくり来たんで」
塩田「原作は『イッツ・オンリー・トーク』ですが…」
寺島「本当は『イッツ・オンリー・トーク』がいいですよね」
廣木「(苦笑)」
塩田「確かにそのニュアンスは日本語でも分かると思うし、カッコイイですけど、ちょっと蒲田には似合わないかな(笑)」
寺島「蒲田は本当に治安が悪かったですね」
廣木「蒲田に住んでいる人が若干いるよ。だから発言には気をつけて」
寺島「ごめんなさい。でも私すごい絡まれたんですよ。お昼間から真っ赤なオジちゃんが自転車でふら?っと来て、みんな全然知らない顔して、私だけ一人絡まれて…」
廣木「準備が忙しかったので…」
寺島「廣木組ってこんな感じなんですよ」
塩田「いいじゃないですか、ファンとスターの距離が近い街ということで」
寺島「餃子は美味しかったよね」
塩田「ファンじゃないのか」
廣木「ただの酔っ払い」
塩田「そういう街のニオイもこの映画のアクセントになっていますよね。ところで、この後もお2人での3作目は考えているんですか?」
廣木「考えている企画はあるんですけど、まだ発表できる段階ではないかな」
塩田「廣木組はやりたくないという気持ちはないでしょう?」
寺島「毎回撮影中はずっと思っています」
塩田「でも終わったら、やりたいと?」
寺島「終わったら普通になるんですけど。本当に撮影中は喋らないですね、全く。私も喋らないし」
廣木「『機関車先生』になってしまうので…」
塩田「現場でベラベラベラベラ喋っている監督さんもいますけど、女優さんとしてはどっちがいいんですか?」
寺島「監督と仲良くして円滑に運んで楽しい現場というのも廣木組以外だったらいっぱいありますけど」
廣木・塩田「(笑)」
寺島「でもこういうね、ツライなーと感じる現場も少ないんじゃないかと思って。それは大切にしていかないといけないのかなーって」
廣木「ちょっと反論しとく。準備の時は和気あいあいとやっているんだけど、寺島さんが現場に入るとみんな黙るんですよ」
寺島「えー、そんなことないですよね(笑)」
塩田「監督も色んなタイプの方がいますからね。結果オーライということで」
寺島「そうですね。でも『ヴァイブレータ』が終わった時は本当にもう二度とないだろうなと思いました。で、ラッシュを観て…、本当はラッシュにも行きたくなかったんですよ。納得いかなくて。だけどラッシュを観て、“すごい素敵な映画だな”と思ってから何となく逆転していったというか。だから監督の作品が好きなんでしょうね」
塩田「監督じゃなくてね」
寺島「うん」
廣木「そんな突っ込み入れるのか、微妙だな」
寺島「監督を好きな女優さん、いっぱいいるんですよー」
塩田「色々アプローチはありますよね? だから結婚できないのかもしれないけど(笑)」
寺島「結婚したら出るのやめようと思って」
塩田「監督が結婚したら?」
寺島「そう」
塩田「ああ、なるほどね。何となく分かります。じゃあ結婚できないですね、いい映画を撮るためには」
廣木「いい映画を撮るために結婚を犠牲にするぐらい僕は…」
塩田「じゃあ僕は廣木さんの披露宴には行かなくていいのか。葬式だけに出席します」
廣木「恐れ入ります」
塩田「これから益々いい映画を撮っていただきたいと思います。皆さんはこの後、上映がありますのでお楽しみ下さい。どうもありがとうございました」
廣木・寺島「ありがとうございました」

(取材・文:北島恭子)

投稿者 FILMeX : 2005年11月23日 14:45


 
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