2005年11月20日
「マジシャンズ」 Q&A
前作の「スパイダー・フォレスト」に引き続き、2年連続の参加、通算で3度目の参加となるソン・イルゴン監督の「マジシャンズ」の舞台挨拶には監督のソン・イルゴンさん、プロデューサーのキム・ジョンオクさん、撮影監督のパク・ヨンジュンさんの3名が来られました。監督からは以下のような、映画の特徴、見所などを含む充実したご挨拶をいただきました。
お会い出来てうれしいです。今日一緒に来ました私の仲間であるプロデューサーのキム・ジョンオクさん、そして、撮影監督のパク・ヨンジュンさんを紹介します。
この映画は、私たちが一生懸命に作った映画であり、皆さんが気に入ってくださり、楽しく見ていただければ嬉しいです。私はこの場を1年間待ち望んでいました。多くの感動をお持ち帰りいただければと思います。実はこの映画は今日ここで皆様に公開するのが、世界で初めてとなります。というのは、DVという小さなカメラで撮ったものをフィルムに移すという作業をしていまして、今日日本の観客の皆様にご覧頂くのが初めてとなります。非常に期待しております。
この映画は、一言で言いますととても哀しいコメディといえると思います。言葉の違いはありますが、笑いのシーンは盛りだくさんですので、皆さんがここが笑いどころだなと思ったら思い切り笑ってください。そして、特にお坊さんが出てくるシーンでは大きく笑ってほしいと思います。そして、この映画にはカットがありません。つまり、ワンテイクで取った映画なんですが、なぜそのような撮り方をしたかというと、95分という限られた時間の中で、見ている人たちも主人公と共に過去と現在と未来を一緒に楽しんでほしいと思ったからです。どうか楽しんでご覧ください。
「マジシャンズ」のQ&Aは監督のソン・イルゴンさんと撮影監督のパク・ヨンジュンさんの2名に参加いただき、進められました。
Q&A
Q: 釜山国際映画祭で本作のショートバージョンを拝見しましたが、明らかに前後がカットされているだけで、伏線からしても今日のバージョンを意図して作られたと思うんですが、それをワンテイクで撮るということにした理由は何ですか?また、実時間で撮るということは難しいと思いますが、その際に苦労はありましたか?
A: この映画はチョンジュ映画祭のオープニングの作品として依頼を受けて作った作品です。これには日本の塚本晋也監督、タイのアピチャポン・ウィーラセタクン監督が参加しています。それぞれ30分ずつの短編をデジタルで撮って上映するというこの企画は「3人3色」という名前で、最初から30分という制限があったんです。ですが、私が限られた時間の中でワンテイクで撮りたいと思った理由はこの物語を皆さんに現実のものとしてお見せしたいと思ったからです。
今日前方の席の方は見るのが大変だったと思います。画面が結構揺れていましたので、映画酔いしなかったでしょうか。この映画は1つのショットでカットせずにすべて最初から最後まで引っ張って撮ったわけなんですが、どうしても途中でフィルムが切り替わるときにちょっとブレがあったと思います。というのは、フィルムは大きな巻き(ロール)がありませんので、現像した段階で5巻のフィルムに分けなければなりませんでした。それで、ロールチェンジの際にどうしてもブレが出てしまったのだと思います。それは物理的なことで仕方のないことなのでご理解ください。
(パク・ヨンジュン撮影監督)
私は実際に撮る時にあまり深く考えずに撮ったんですね。この撮影で大変だったのは、木の間をすり抜けて撮るということでした。で、この映画は50回から100回位見ているかと思うんですが、見るたびにやはり息の詰まるような思いをしています。ソン・イルゴン監督とは3本の映画をご一緒しています。まず、最初は「フラワー・アイランド」という作品だったんですが、それは本当に山とか谷ですとかそういうところで沢山取りましたので苦労しましたし、去年は「襟」というタイトルの作品をとったんですが、それは済州島というところで台風の中で撮らなければいけないという状況でとても苦労しました。そして今回は1時間半の間ずっとカメラを持って飛び回らなければならない状況でしたので、技術的にも大変でした。ただ、私はあまり深く考えないタチのせいか、それほど臆せずに、あまり色々なことを気にせず撮ったので、却ってよかったのではと思ってます。この点でも個人的に非常に満足しています。
Q: (映画が)ワンカットで出来るとなかなか思えないんですが、うまく出来てると思いました。特に役者さんが素晴らしい演技をしていて、どうやって撮ったのでしょうか。リハーサルは相当やられたと思いますが、実際どうだったのでしょうか。
A:本当にこれは容易ではない撮影でした。先ほど、撮影監督はあまり考えず撮ったと言っていましたが、本当に考えていたらこれは不可能なことで、撮影スタッフも俳優も全くどういう映画が出来るか全く分からない状態で撮影に望んでいたわけです。この映画は35mmのカメラで撮影するのは不可能でした。35mmのカメラというのは非常に重いので人間の体力では1時間半もの間、それを支えきれないわけです。で、今回はステディカムというビデオカメラを使って撮りました。とにかくカメラを体に取り付けているわけで、それをつけているだけでも腰が痛くなってしまって、撮影が終わった後も撮影監督はトイレにも行けないほどに腰を痛めてしまったんです。ですから、2人で交替しながら、カメラをお願いしました。特に寒い時に撮りましたので、リハーサルの途中にもう鼻水が出てしまうんですが、鼻水がずっとあごの方までたれてしまっていても、カメラが動いてしまうので、私たちは拭いてあげることが出来なかったんです。
今回は俳優さんたちはほとんど演劇出身の方を集めました。演劇界では本当に長く経験を積んだ立派な俳優さんたちでした。演劇はご存知のとおり、一度も休まずに演技をするわけなんですが、ですから演劇の経験を持たない俳優さんだったらちょっと無理だったかもしれないと思います。リハーサルについては部分的に、集中的にそのシーン毎にやるようにしていました。通しでずっとやるのはやはり無理だったんですね。体力にも限界がありますので、部分的にリハーサルしまして、そのリハーサルが済むと、3-4時間位休みを入れて、次のリハーサルという形をとっていました。今回の撮影では、本当に照明の数も多かったんです。一般的な商業映画に使われる照明の数からいきますと、大体その3倍くらいはあったのではないかと思います。また、セットもかなり広いセットを作りました。それから照明のコントロールも大変だったんですけれども、サウンドもやはり私はこだわりました 。出来るだけ同時録音をしたいと思っていました。アフレコと言いまして、後から俳優さんの口に合わせて録音するというのは、今回の映画に関して言えば無理だと思っていました。なぜなら、臨場感や現場での雰囲気を大切にしたいと思っていたからです。ですので、韓国映画界で非常に名だたる同時録音のチームを3チーム呼びまして、皆さんに協力いただいて撮りました。それから、クレーンなんかも沢山使って撮ったわけですが、片方のシーンを取っているときにはそのクレーンで撮る人たちは隠れていて、一つの場面を撮り終えると、彼らが出てきて撮るというようなことをしました。私はまだまだ映画の経験は少ない方なんですが、本当に極度の緊張感の中で映画の撮影が続けることができました。でも、この映画を撮ることが出来た耐えうる力というのはやはり俳優さんたちの集中力から頂いた気がします。本当に俳優さんたちが熱演してくれまして、その意味ではこの映画は俳優さんたちの映画だと言えると思います。
Q: 今回95分でワンカットという映画を撮られたわけですが、また今回のような趣向で映画を撮られるというか、何かアイディアとかお持ちでしょうか?
A: おそらく今回参加してくれたスタッフは、もう1回撮ろうと言ったら、皆逃げるんじゃないかと思います。(笑)ですから、別のスタッフを何とか口説いて集められたら、撮れるかもしれません。本当に肉体的な作業なんですね。とはいいましても、やはりいい素材やいい題材があればまたぜひやりたいと思っています。そしてその時は、例えば飛行機に乗ったり、汽車に乗ったりと、今回の映画よりもグレードアップされた映画を撮りたいと思います。
私が今回東京フィルメックスに参加させて頂くのは3度目なんですが、この映画祭の関係者の皆様には感謝したいと思います。韓国の人は、お酒を飲んで結構騒いだりするんですが、そういう文化から今回の映画は生まれたと私は思っています。日本にもお酒を飲んで騒ぐというような文化があるんじゃないかと思いますので、日本の皆様に大いに共感して欲しいと思いますし、この映画をもし楽しんでいただけたとしたら非常に嬉しいです。
「マジシャンズ」は日本公開の予定です(詳細は未定)
(取材・文責 東 紀与子)
投稿者 FILMeX : 2005年11月20日 18:50