2010年02月02日
戦前の松竹黄金期を支えた島津保次郎の作品が、今月開催のベルリン国際映画祭および3月開催の香港国際映画祭で上映されることが決定いたしました。
09年11月に開催された第10回東京フィルメックスでは、松竹との共催のもとに「ニッポン☆モダン1930~もうひとつの映画黄金期」と題して、1930年代の松竹作品を中心に、全27本の特集上映を行いました。
中でも国内の観客のみならず、海外の映画祭関係者の注目を集めたのが、島津保次郎監督の作品の数々でした。
これまで島津作品は海外でもあまり紹介の機会がありませんでしたが、作品に表れるモダンな魅力は世界中で人気の高い小津安二郎とは違った“もうひとりのヤスジロウ”として、今回の特集上映の発見として新鮮な驚きを持って迎えられました。
今回のベルリンと香港での上映が、海外における初めての本格的な島津保次郎特集上映となります。
このたび、両映画祭の作品選定責任者から、島津作品へのコメントをいただきました。
●クリストフ・テルヘヒテ氏
(ベルリン国際映画祭フォーラム部門ディレクター)
島津の映画は社会的変化や近代化が進行していた時代の証左となっているだけではない。その気取りのない控えめなスタイルと慎み深い語り口はまた、それらの変化の具体的な表現でもあった。彼の作品に見られる近代性と明快さは現在から見ても驚きであり、映画の登場人物たちが伝統と西洋化との間で葛藤する姿は今もなお感動的だ。
●ジェイコブ・ウォン氏
(香港国際映画祭プログラマー)
島津は伝統的な家族のあり方が衰退する様を厳しく批判する一方で、モダンな恋愛関係を切り離して楽しみながら捉えていく。楽しげな描写は文学的な題材を扱うとき、あるいは登場人物が芸術家であるとき、並外れた情熱へと取って代わられる。彼の奥深さと広がり、そして変化に対しての勇気と根気は、創作の喜びへの驚くべき航海へと私たちを誘うだろう。
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今後、ベルリン、香港を出発点として、島津保次郎作品が世界中へと広がっていくことを願っています。
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■第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門
日程:2010年2月11日-2月21日
上映作品(全3本):
「浅草の灯」
「婚約三羽烏」
「愛より愛へ」
■第34回香港国際映画祭
日程:2010年3月21日-4月6日
上映作品(全6本):
「上陸第一歩」
「隣の八重ちゃん」
「春琴抄 お琴と佐助」
「浅草の灯」
「婚約三羽烏」
「愛より愛へ」
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*英語字幕付きニュープリントは、日本万国博覧会記念機構の助成により作成されました。
*また、これまでの東京フィルメックスでの日本映画クラシック特集上映は、清水宏(2004年)、中川信夫(2006年)両監督の作品が同じくベルリンと香港でも上映された他、内田吐夢(2005年)のロッテルダム映画祭など、海外の映画祭やシネマテークでの巡回上映に結びついています。
昨年(2009年)の第10回東京フィルメックスで最優秀作品賞に輝いた「息もできない」のヤン・イクチュン監督が、3月の日本公開を前に、キャンペーンのため来日しました。
1/29(金)の午後、都内にて記者会見が行われました。
記者からの質問に答える際の真剣なまなざしと、時折り見せる茶目っ気は、映画祭での上映後の質疑応答や授賞式のビデオメッセージで見せた姿と変わらず。
「日本に帰ってきたような感覚が嬉しい。家族について悩みや苦しみを抱えた人たちにご覧いただいて、光明を見出してもらえれば、と願っている」と話しました。
「自分の中にあった表現したいことを全て吐き出した」と語る監督。そのことによって「これまで恥ずかしい存在であると思っていた"私"に対して、自分はとても大切で周囲から愛を受けてもよい存在なんだ」と気付いたそうです。作品に込められたメッセージや、俳優の演技、演出力などが数々の映画祭で高い評価を受けてきましたが、その多忙な一年について「2009年を一言で表すと"クレイジー"、今年は"休息"の一年にしたい(笑)」と話し、次回作については「全て出し切ったので、いまは自分の中に表現したいことが残っていない」と全くの白紙状態である心境を吐露してくれました。
映画祭での各国の監督との出会いや、観客とのやり取りからも多くの刺激を受けた様子のヤン監督は、映画にも込められた"人と人とのコミュニケーションの大切さ"を訴えて会見を終えました。
「息もできない」は3月下旬より、渋谷シネマライズにて公開が予定されています。