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2009年11月11日 「水曜シネマ塾~映画の冒険~」第三回:湯山玲子さん、ティファニー・ゴドイさん

20091111_5.jpg 映画祭のプレイベントとして東京・丸の内で開催されている「水曜シネマ塾~映画の冒険~(全5回)」。第3回となる11月11日のゲストは、出版・広告ディレクター、エッセイストとして活躍されている湯山玲子さんと、ファッション・エディター、コンサルタントとして国内外で活躍されているティファニー・ゴドイさんのお二人。今回は、ゲストのお二人に「1930年モダン日本の女たち」と題し、スライドショーで当時の映画のスチールを見ながら、戦前日本の市民の生き方、男女関係、おしゃれについてレクチャーして頂くという、まさに「シネマ塾」と呼ぶにふさわしいイベントとなった。

湯山さんは著書『女装する女』(新潮新書)で現代女性を10のキーワードで読み解いた、「女装する女のエキスパート」としてこのたび登場された。またゴドイさんは数々のファッション雑誌にエディターとして関わり、またNHK‐BS1で放送中の『TOKYO FASHION EXPRESS』ではナビゲーターを務めるなど、テレビでのご活躍も目覚しい。
女性の観客で占められた中に男性客もチラホラ見かけられる観客席。お二人ともシックな黒のトップスに、湯山さんはカラフルなストール、ゴドイさんはショッキングピンクのボトムスと、目にも鮮やかなファッションで登場された。
第10回東京フィルメックスにて特集上映される「ニッポン・モダン1930~もう一つの映画黄金期」の中で今回のレクチャーで取り上げた作品は、五所平之助監督の『マダムと女房』(1931)と『人生のお荷物』(1935)の2作品。この作品を挙げるにあたって、まずは1930年代とはどんな時代だったのか、湯山さんがざっくりとレクチャー。

20091111_4.jpg 1930年の1年前、つまり1929年は関東大震災に見舞われた年。瓦礫の街と化した東京を近代的な都市としてリフレッシュスタートさせようと都市計画が立てられたが、映画館というのはその計画の要として計画されていたという。この時代にあって当時すでに冷暖房の設備(!)を備えていたことからもいかに市民生活の中で重要な位置にあったかがうかがえる。また、それと並行するように羽田空港(当時は東京飛行場の名で開港)、地下鉄網などのインフラが整ったのも1930年代。まさにもう一つの映画黄金期を迎えるにぴったりの土台が出来ていたのだった。
一方で1930年代は、ナチス政権の台頭、スペイン内戦、日中戦争、と第二次世界大戦が間近に迫るキナ臭い時代。それでも、日本の市民生活は(戦争)直前までは案外のほほんとしていたんじゃないか…というのは先に挙げた2作品からもうかがえる、と湯山さん。実際、1929年の世界恐慌以降の不況下で女性たちは、お金が無くて洋服が買えなくてもメイクやヘアスタイルに知恵を使い、おしゃれをしていた。それは、現代の不況下で「ユニクロで服が揃えば、あとは(メイクとヘアで)何とかいける!」という感覚に通じるものがある、と湯山さん。それに賛同するように「1929年の世界恐慌の後は、市民は自分達に今、何が必要なのか、何で遊びたいのかを考えるようになって、ネイルや付けまつげ(これらのアイテムも30年代発祥)など、自分を元気にするちょっとしたアイテムでおしゃれをするようになった、とゴドイさん。またそれは昨年の世界規模の金融危機下にあったアメリカを見ているようだという。 
1930年代、ハリウッド映画は黄金期を迎え、この頃から、映画が世界のファッション・リーダーとしての役割を担うようになった。当時のファッション・リーダーといえばグレタ・ガルボやマルレーネ・デートリッヒ。彼女たちも帽子やヘアスタイル、ディートリッヒの細い眉毛など、ポイントで際立つファッションで世界をリードした。ところで現代のファッション・リーダーは誰か、という話になると「パリス・ヒルトンは?…違うか。」という湯山さんと「アンジェリーナ・ジョリーでしょうね」というゴドイさん。ここは「アンジー」の名前に落ち着いたお二人だったが、息つく間もなくお話が飛び出して、なかなか本題の映画の話に辿り着かない様子。

20091111_2.jpg その後、本日のテーマ作品である『マダムと女房』の話題に入ったが、この作品は日本初のトーキー映画として知られている。トーキーとは音声と映像が同時に出る映画で、これが一般的となっている現代では敢えてトーキーと呼ぶことはない。この作品は松竹蒲田小市民映画と呼ばれるように、当時の市民生活を喜劇的に描き、また当時の市民の生活風景が垣間見られる作品である。そこで湯山さんが映画の中で読み取れるポイントをスライドで表示し、ゴドイさんと解説をするのだが、例えばモダンに代表される「マダム」と、江戸ローカルを体現する日本髪を結った「女房」の対立、西洋と和、労働者と中産階級間のギャップなどなど、様々な対比が見て取れるとのこと。
とりわけインパクトが大きかったのは、音楽。劇中ではジャズバンドが出てきて、演奏が流れるのだが…「ジャズバンドが出るんだけど、メロディが民謡なの!これ、ジャズバンドじゃないだろ~ってのっけからビックリ」と湯山さん。続けて「西洋のものがだんだんと日本化していくんじゃなくて、取り入れた最初から、そのまま民謡」という湯山さんに「それはファッションにも同じことが言える。ファッションのカタチだけ取り入れる、そして新しいもの好き。一つのファッションに集中できなくて次、次、っていつもそう。これぞジャポニズム」と、ゴドイさん。 またこの映画のラストでは、日本髪の女房が髪を下ろして西洋化すること=(イコール)HAPPY、という意思が感じられるという。
続いて同じく五所監督の『人生のお荷物』に話題が及んだ。この作品も小市民の生活がユーモラスに描かれているが、この作品の主人公である壮年期に差し掛かった父は、家父長的責任やシステムから逃れようとする湯山さん曰く「草食男子」のはしり、と言えるようなキャラクターである。3人の娘と、年の大きく離れた男の子をもうけた主人公が、娘がみんなお嫁に行ってやっと片付いたと思ったら、9歳の息子がいた、と自身の境遇についてグチばかりこぼしているが、ぼやきの台詞がシリアス味を帯びていて、現代で起こっている物事となんら変わりがないことがうかがえる。また田中絹代演じる次女は、ご都合主義で新しいもの好きな、まさに「ギャル」で、買い物のシーンで何の躊躇なくガンガンお買い物をする彼女の姿にも、現代に通じるものを見た、と湯山さん。
田中絹代が身に着けているものにも話が及び、ファーや帽子、クラッチバッグなど、当時流行していたファッションが映画の中で見ることが出来る。 現代のファッション誌にまさに同じようなスタイルが掲載されていることにも注目し、会場の観客席にその雑誌が回覧で回されると、観客は興味深くページをめくっていた。
最後に、ゴドイさんに日本のファッションについて思うところを語っていただいた。ゴドイさんはアメリカから日本に来たとき、西洋では着る服にそれぞれしきたりやルール、用途別に着る服が決まっているのに対し、日本ではファッションにルールがなく、パッと見の印象と見栄えのよさで着る服を決めていることに驚いていたという。また、コスプレ好きなところも、人のアイデンティティを借りて気ままに旅をする感覚で面白い、とのこと。
今回特集上映される「ニッポン・モダン1930~もう一つの映画黄金期」では古臭いイメージの女性ではなく、気が強くておてんばな女性が多く登場する。紋切り型優等生的な女性は戦後、ステレオタイプとして出てきたのではないか、戦前の女性は悪くて野獣っぽいエネルギーがあって、活き活きしている印象を受けた、と湯山さん。
また、ファッションやストーリーでインスピレーションを受ける作品が数多くある、とゴドイさん。
今回取り上げた作品に出演している田中絹代について「ざっくり言うと、エリザベス・テイラーかな-」と湯山さん。「田中絹代はすごい。彼女の眉毛の動きひとつで、五臓六腑に染み渡る演技というのをぜひぜひ観て欲しい」。

第10回東京フィルメックスでは田中絹代生誕100年を記念し、『愛染かつら』や『西鶴一代女』などの代表作も数多く上映される。
都市文化が花開いた1930年代は同時に、女性のカルチャーも花開いた年代。現代を忙しく生きる私たちと変わらない80年前の人々に、そして田中絹代に会いに、ぜひ足を運んでいただきたい。 
「ニッポン・モダン1930~もう一つの映画黄金期」は11月21日から29日まで、東劇にて上映される。


(取材・文:大坪加奈)

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投稿者 FILMeX : 2009年11月11日 22:00



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