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『プリンス』マームード・ベーラズニア監督Q&A
from デイリーニュース2014 2014/11/27
11月27日、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『プリンス』が上映された。本作は、第1回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した『ジョメー』に主演したジャリル・ナザリさんのその後を追ったドキュメンタリー。上映後にはマームード・ベーラズニア監督が登壇。初来日に寄せる熱い想いが込められた挨拶に続き、客席とのQ&Aが行なわれた。
拍手に迎えられて登壇したマームード・ベーラズニア監督はまず、「2011年3月の津波と地震についてお話ししたいと思います」と、椅子から立ち上がり、東日本大震災のニュースに触れた時の想いを、身振り手振りを交えて熱っぽく語った。悲惨な被災地の様子に心を痛めていたことはもちろんだったが、それ以上にベーラズニア監督を驚かせたのは、パニックを起こさず、互いに助け合う被災者たちの姿だったという。その驚きの大きさと、その姿にいかに教えられたかを説明。「ですから今回、ここで皆さんと一緒に自分の映画を見ることができて、本当に光栄です」と喜びを表し、およそ8分間に渡る挨拶を「ホントウニダイスキ!」という日本語で締め括った。
続いて、客席から寄せられた質問に答える形で、製作の裏話を語ってくれた。まずは、アフガニスタンからの難民だった主人公ジャリル・ナザリさんとの出会いから。劇中でも描かれている通り、2人の初めての出会いは、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞した2000年の映画『ジョメー』での共演。同作品に俳優として出演したベーラズニア監督は撮影中、ジャリルさんともう1人のアフガニスタン人だけが離れて昼食を取っている様子が気になり、監督にこう詰め寄る。「共演者なのに一緒に食事しないのであれば、私は帰ります」。イラン出身でドイツに暮らすベーラズニア監督は、自身の体験を重ねて、その時の想いを次のように説明してくれた。「私は海外に住んでいたので、独りで海外に暮らす淋しさがよく分かりました。ですから、一緒に仕事をしているのにイランで仲間外れにされた彼らが、どれだけ淋しいだろうと思ったのです」。これをきっかけにジャリルさんたちも一緒に食事するようになり、良い関係が出来上がったという。
やがて2人は10年以上の時を経て、本作で再び顔を合わせるが、撮影中のジャリルさんについては、「ドキュメンタリーを撮る事については、まったく興味がなかったんです」と、意外な発言。「彼はお金を稼いで、奥さんと自分の妹をドイツに呼ぶ事しか考えていなかったので、正直、彼の心はこの映画には全くなかったんです」。ところが、映画祭で初めて完成作品を見た時、態度が一変。「終わった後に、ハグしてきて"本当にごめんなさい。感謝しています。僕を許してください"と言ってきました」
また、劇中にはジャリルさんの結婚式の模様が収められているが、「アフガニスタンでは、結婚式に見ず知らずの男が入ることは絶対にできません」。それでも、その場面が不可欠と考えた監督は、ジャリルさんにカメラを渡し、使い方やどんな場面が欲しいのかを伝えて送り出した。「ですから、ご覧になった映像は、彼でなければ絶対に撮ることができなかった貴重なものです」
ベーラズニア監督は先週盲腸の手術を終えたばかりとのことだったが、この他にもアフガニスタンを取り巻く状況やそこに住む人々の誠実さや優しさなど、力強い言葉で語ってくれた。終了時間を迎えて最後に一言と促されると、「本当に心から感謝申し上げます」と述べた後、「心を込めて林さんにハグしたいです」と、司会を務めた林ディレクターとハグ。客席から寄せられた大きな拍手に深々とお辞儀で応え、Q&Aは終了となった。
ベーラズニア監督はアッバス・キアロスタミ監督に関するドキュメンタリー(「Close-up Kiarostami」(99))も手掛けている。キアロスタミ監督はこの『プリンス』を観て評価してくれたといい、エンドクレジットには「アッバスへ」と、そのことに対する感謝が示されている。
アフガニスタン難民から大きく運命を変えた1人の青年の姿を通じて、映画が持つ力を見せつけてくれた本作。日本公開は未定ながら、1人でも多くの映画ファンの目に触れる機会が訪れることを願ってやまない。
(取材・文:井上健一、撮影:船山広大、村田まゆ)
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