東京フィルメックス10周年を記念する過去の受賞作品の上映会「第10回記念 東京フィルメックスの軌跡~未来を切り拓く映画作家たち」がシネマート六本木で開催されている。初日の10月31日には俳優の西島秀俊さんを迎えてのトークショーが行われ、多くの映画ファンで客席が満員になった。トークショー前に上映されたタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品の感想から、自身の映画に対する見方まで、短い時間ながらも西島さんの“東京フィルメックス活用法”や映画への思いが伝わる内容となった。
アピチャッポン監督の『ブリスフリー・ユアーズ』上映終了後、森での出来事を中心に展開する同作の、言葉では表現しがたい不思議な映像世界の衝撃に、観客が暫し騒然としている状態の会場へ登場した西島さんと東京フィルメックスの市山尚三プログラム・ディレクター。個人的にもアピチャッポン監督とよく会っているという西島さん。3年ほど前に同作を初めて見たとき、「こんなに映画って自由なんだと思った」とその時の感想を語る。
タイでは希少なアート系映画を撮るアピチャッポン監督だが、いわゆるアーティスト的なとっつきにくさはなく「穏やかで知性のある人」(西島さん)だという。もう付き合いが長いという市山Pディレクターも、「彼のことはまだ良く分からないし、ほかの誰にも似ていない監督」と評価する。
『ブリスフリー・ユアーズ』は東京フィルメックス第3回(2002年)の最優秀作品賞を、同監督の『トロピカル・マラディ』も第5回(2004年)の同賞を受賞している。アピチャッポン監督だけでなく、世界中の作品を、大小、緩急取り混ぜて紹介してきた東京フィルメックス。西島さんは第6回(2005年)の審査員を務めて以来、東京フィルメックスには毎年足を運んでいるとか。その第6回で審査員特別賞を受賞したのは、中国のイン・リャン監督長編デビュー作『あひるを背負った少年』だったが、同作のような無名の監督による小規模作品と、香港のアクション映画『SPL/狼よ静かに死ね』が
同じコンペティション部門に入るような映画祭は東京フィルメックスのほかにはない、と笑う。「いろいろなジャンルの作品を選んでいるから」という市山Pプロデューサーだが、映画祭の楽しみのひとつは“発見”であり「毎回初紹介の国や監督作を入れるようにしている」そう。西島さん流フィルメックスの楽しみ方も、そんな志向に見事マッチ。「フィルメックスで知らない監督の作品を見て、面白ければ追いかける」のだという。
いよいよ約3週間後にせまった今年の東京フィルメックスだが、今年のラインナップから、西島さんの注目作は何だろう?「バフマン・ゴバディ、ハナ・マフマルバフ、ペンエーグ・ラッタナルアーン、ツァイ・ミンリャン、ロウ・イエ……」と興味をひかれる監督作品は挙げればきりがなさそう。もちろん、「知らない監督、知らない国の映画も見たい」という。
また、映画を愛する西島さんから、東京フィルメックスへの熱いエールも送られた。
「(映画を見て)日常を忘れるのもいいが、映画によって、日常や生き方がもっと豊かに変わっていく。そういう作品に出会いたい。今、そんな機会がどんどん減ってきているので、フィルメックスにはぜひがんばってもらいたい。みんな(東京フィルメックスに)来ればいいのに!俺もいるし(笑)」。11月14日には「ゼロの焦点」、来年は「サヨナライツカ」の新作映画公開が控える。また、テレビドラマの出演などでも多忙な西島さんだが、「時間の許す限り(東京フィルメックスに)行きます」と嬉しい言葉を残し、会場を後にした。
(取材・文/新田理恵)
投稿者 FILMeX : 2009年10月31日 22:05