世界中の期待を集める新鋭監督に直撃インタビュー!コンペ部門出品作『2つの世界の間で』は、ヴェネチア国際映画祭コンペ部門にも出品された話題作。本作が長編第二作となるヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督は、前作でカンヌ国際映画祭のカメラドールを受賞、世界が注目する監督の1人だ。初来日となったジャヤスンダラ監督に、これまでの歩み、作品の裏話などを語ってもらった。
カンヌ、ヴェネチアの二大映画祭で注目され、満を持しての初来日となったスリランカ出身のジャヤスンダラ監督。キャリアのスタートは映画批評家だった。とはいえ、元々批評家志望だったわけではなく、ジャーナリストパスを貰えてタダで映画を見られる、という不純な(?)動機で大学卒業後に批評家としての活動を始めたとのこと。こうして3~4年ほど映画漬けの日々を送った後、インドの映画学校に通い、スリランカ政府からの依頼で制作した短編ドキュメンタリー作品で監督デビューを果たす。しかし…
「それは自分のやりたい映画ではなかったんです。そこで、自分の映画を作りたいと政府機関に申し入れたところ、保証期限切れのモノクロフィルムを自由に使って撮っていいという話になりました。限られた設備と技術で、3年かけて30分の映画を作りました」こうして完成したのが短編作品『Land of silence』。これが評価されたことで、奨学金でフランスに留学する機会を得る。
「フランスでの私の先生はツァイ・ミンリャンでした。彼の指導のもとで、2本目の短編映画を製作しました。これで人生がガラッと変わったんです。2本の短編が世界中で数多くの賞を受賞したおかげで、長編を作ることができました。それがカンヌのカメラドールを受賞した『The Forsaken Land』です。とても重要な賞です。新人監督賞なので、一生に一度しか獲れませんから。そのときの審査委員長がアッバス・キアロスタミだったことは、二重の喜びでした」
こうして世界の注目を浴びることとなったジャヤスンダラ監督。2作目の長編映画となる今回の上映作品『2つの世界の間で』に関する話を伺った。まず、『2つの世界の間で』というタイトルに込めた意味から。映画の随所で海と山、男と女、都会と田舎、生と死といった”2つの世界”を意味するような対照的な存在が登場するが…
「そう、すべてのシーンで2つの世界を描いています。作っている間、常に“2つの世界”ということを頭においていました。映画全体が“2つの世界”を描いています。ですから、『2つの世界の間で』というタイトルは、この映画のメタファー(隠喩)ですね。当初は、『Fallen from the sky』というタイトルでしたが、“平凡すぎる”と人から言われて考え直しました。2年ほど考えて、空と大地、2つの世界が出会うというところから『2つの世界の間で』としました」
また、映像の面ではカットを割らずにカメラを回す“長回し”が多いのが特徴的で、比較的ゆったりした展開にもかかわらず、最後まで見るものを惹きつけて離さない。その理由のひとつに、海へのダイブや暴動、殺戮といった刺激的なアクションが随所に盛り込まれていることが考えられる。この点について尋ねると、自分の映画制作に関する考えを次のように語ってくれた。「映画というのは、ワンシーン、ワンシーンで考えるべきだと思っています。大きな一つの映画を視野に入れながら構成するのではなくて、一つ一つのシーンから作り上げています。一つのシーンだけ取り出してもドラマとして完結するように。他の監督たちは“映画は最初と最後に短編映画が2つ必要だ”と言いますが、私は最初と最後だけでなく、映画全体をそうやって作ろうと考えています」
シーンごとへのこだわりを口にしたジャヤスンダラ監督。その言葉を裏付けるように、開始早々に極めてスリリングな場面が展開する。海岸に寝そべっていた主人公がおもむろに立ち上がり、切り立った崖を素手で登っていく姿をワンショットで見せるのだ。時折、足を滑らせながら登っていく様子は、見る者をハラハラさせるが…
「あの場面は命綱なしで撮影しました。下には万一落ちたときのためにマットを敷きましたが、みんなドキドキしながら見てました。実はこの前に、高いところから海へ飛び込むシーンを撮影したんです。ところが、主役の彼は“怖い、怖い”といって全く飛び降りてくれず、結局、スタントマンを使いました。だから、彼は飛び降りなかった代わりに“登るのならいいよ”と、一生懸命頑張ってくれたんです(笑)」
このように、様々な思いと苦労が詰まった作品をフィルメックスで上映した感想はどうだったのだろう。「上映については完璧な環境だったので満足しました。ヨーロッパの人たちには、アジアのことを色々と説明をしなければわかってもらえません。けれども、これまでアジアでは釜山映画祭で上映されただけ。きちんと観客の方と向き合う機会がなかったんですね。だから今回、Q&Aができてとても喜んでいます。また日本では、若い人たちが多く来てくれたことも特に嬉しかったですね」と満足した様子で話してくれた。
最後に、今後の予定と抱負を伺った。「この映画である程度名前が知られるようになり、世界に認められたと思います。今は世界中から色々な企画のオファーがきている状況です。でも、どれを選ぶかということに関しては、注意しなければなりません。次は、よりパーソナルで芸術的な映画を作ろうと考えています。でも、ボリウッドからもオファーがあって、やろうかどうしようか考えています(笑)」冗談混じりに語った後、日本映画との関連性を付け加えた。「最初の長編映画にプロデューサーはあまり満足していなかったようです。そこで、黒澤明のような映画を作りたいと言って、この作品の脚本を書いたんです。その後、黒澤明の『どですかでん』を50回ぐらい見ました。そうしたら、友人の批評家は、”この映画には黒澤明の作品に通じる部分がある”と言ってくれたんです。私が黒澤のことを考えていたことなど全く知らずに。プロデューサーからは”違うんじゃない?”と否定されましたが(笑)。しかし今回、日本の観客がこの作品を気に入ってくれたことで、自分でも黒澤に通じるものがあるに違いないと確信しましたね」
上映が終了した開放感からか、終始にこやかに冗談も交えて語ってくれたジャヤスンダラ監督。取材の翌日には鎌倉まで小津安二郎の墓を訪ねていく予定だと嬉しそうに話していた。日本映画にも造詣の深いこの新鋭監督が将来、アジアを代表する映像作家として世界に羽ばたくことを期待したい。
(取材・文:井上健一、写真:花房佳代)
投稿者 FILMeX : 2009年11月28日 22:00