第10回東京フィルメックスの最終日となる11月29日。閉会式に先立ち、今年のコンペティション作品の受賞発表会見が行われた。崔洋一審査委員長はじめ、ロウ・イエ監督、ジョヴァンナ・フルヴィさん、ジャン=フランソワ・ロジェさん、チェン・シャンチーさんの審査員全員が出席。今年の最優秀作品賞は、韓国のヤン・イクチュン監督作『息もできない』に送られると発表した。
発表会見ではまず、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターより、最優秀賞とダブル受賞で『息もできない』に観客賞が送られると発表された。同賞は、コンペティション作品と、クロージング作品『渇き』を除く特別招待作品を対象に、観客からの投票によって選ばれた。
続いて、 ジョヴァンナ・フルヴィさんより審査員特別賞(コダックVISIONアワード)の発表が行われ、イランのバフマン・ゴバディ監督作品、『ペルシャ猫を誰も知らない』のタイトルが読み上げられた。講評に立ったジャン=フランソワ・ロジェさんは、同作について「フィクションとドキュメンタリーの区別を越えてさまざまな映像言語を効果的に使うことに成功している。自由への模索を表現する素晴らしい音楽の使い方がとりわけ秀逸で独創的」と評価した。
最後に、ロウ・イエ監督が「最優秀作品賞は『息もできない』」と発表。チェン・シャンチーさんは同作の受賞理由について、「審査員一同、この素晴らしい初監督作品に賞を授与することを決めました」と述べ、「(同作は)映画においてある種の化学反応ともいえる困難な作業を成し遂げています。つまり、さまざまなジャンルや時に極端なまでの感情表現を織りまぜることに成功しているのです。おどけたコメディやメロドラマ、そして悲劇を織りまぜながら、韓国の近現代史における、そして今日の社会や家族の中に存在する暴力についての本質が監督の深い洞察力によって描かれている」と評価。続けて、「主演俳優であり監督であるヤン・イクチュンは、自らの作品の中で、強烈な存在感を持って生きていた」と、審査員一同がとりわけ感銘を受けたヤン監督の演技を賞賛した。
残念ながら嬉しい知らせを東京で聞くことのできなかった受賞監督のおふたり。会場ではヤン・イクチュン監督から届いた「『息もできない』は私自身のために作った映画です。しかし、今では私のためだけではなく、多くの皆さんと一緒に分かち合える映画になったように思えて、とても幸せです。これからも包み隠さず、果敢に表現していきます」と、『息もできない』を通じて「包み隠さずに心を開くことで、より清く健全になれることを知った」という内容のコメントが読み上げられた。バフマン・ゴバディ監督からも「日本の方々は世界で最も映画を真剣に観てくれる観客であると信じています」とのコメントが寄せられた。
総評を述べた崔監督は、「バラエティーにとんだ今日の映画に触れるということは、いま世界に一体何が起きているのか、そしてこれからどうなっていくのかを深く知る、我々にとってとても刺激的な行為だったと思います」と述べ、さらに「今回受賞にはいたらなくとも、コンペティションの作品10本が描いた世界には多様性があり、ダイナミックな新人監督たちの内から見られる作り手の存在感が、映画そのものの力のように確かに我々の前に存在していた」などと感想を語った。そして彼らが「多様性のある10本の作品のなかで、さまざまな問題意識に我々を導いてくれた」と審査員の総意を代弁し、結果発表を締めくくった。
結果発表に引き続き行われた質疑応答では、審査員各位に「受賞作以外に個人的に気に入った作品は?」という質問が出されたが、「2本の最も優れた作品にはっきりとした賞を与えることを選んだ」(ロジェさん)、「こんな平和裏に(協議が)終わっていいのかというくらい、意識の共有ができた」(崔審査委員長)といい、審査結果がほぼ満場一致で導き出されたものであることをうかがわせた。
また、アート系映画市場や今後国際映画祭が担っていく役割についての意見を求められ、国によって状況は異なるとした上で、「フランスではアニメを除き、国際映画祭を経ないで日本映画が公開されることはあり得ない。映画祭の果たす役割は大きい」(ロジェさん)、「映画祭なしではワールドシネマの認識を高めることはできない」(フルヴィさん)などの発言が飛び交い、世界的にアート系映画市場は厳しい状況にあるということ、国際映画祭の重要性はますます高まっていくということで意見を同じくさせていた。
さらに、ロウ監督には中国のアート系映画市場や映画祭に関する現状について質問が飛んだ。「中国の若い監督たちが抱えている問題はたくさんある。一つは検閲、もう一つはマーケット。中国には大きなマーケットがあるように思えるが、ハリウッド映画に占拠されたスクリーンが空くのを待っている映画がたくさんある。インディペンデント系の映画祭が、中国の巨大な市場にハリウッド以外の映画を紹介する役割を担っていると思う」とロウ監督。そして「個人的には、まず検閲の問題が大きいが……」と続けた。
会見も終了時間となったとき、突然イラン出身のアミール・ナデリ監督が客席にマイクを持って登場。「最優秀賞に『息もできない』を選んでくれてありがとう!ここ10年の間でもすばらしい映画だ!」と熱いコメントを送り、意表をつく形でその場の空気を一気にさらってしまった。
なお授賞式は、同日午後4時40分より、クロージング上映『渇き』の前に行われる。
(取材・文:新田理恵/写真:米村智恵)
投稿者 FILMeX : 2009年11月29日 13:30