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2009年11月29日 監督インタビュー:『堀川中立売』柴田剛監督

shibata_1.jpg 第10回東京フィルメックスのコンペティション作品として、11月26日に上映された『堀川中立売』。京都堀川通りと中立売通りの交差する場所で起きる不思議なストーリーだ。第5回東京フィルメックスのコンペティション参加作品である前作『おそいひと』は重度の障害を持つ男性・住田雅清さんを主演男優に起用した異色作。今作品ではカラフルでコメディ色の強い作品と新たな柴田ワールドを展開している。フィルメックスでのワールドプレミアぎりぎりまで制作を続けた本作品への思いを柴田剛監督に伺った。

前作とは世界が大きく異なる『堀川中立売』の制作にあたり、監督は3つのアイデアについて語った。
1つはコメディへのこだわり。ドリフターズのネタにある「周りのみんなが知っていて、本人だけが知らないおもしろさ」というズレの世界を描くこと。2つめは少年犯罪のエピソードの基になる秋葉原事件後の異様な雰囲気。異様な雰囲気が現実に飲み込まれていく様を描くこと。
そして3つ目は映画が描く現実の世界とは違うもう一つの世界を描くことである。
「現実というのは全てが一方的で、良い奴、悪い奴と分類してケリをつけていかないと、キリがない。映画の世界ではそこをリタッチ(修正)したい」一方通行で動かすことのできない現実の立ち位置に監督がどんな修正をかけるのか。後半に出てくるパラレルワールドに注目をして欲しい。
 
shibata_2.jpg 現実とは違うもう一つの世界(パラレルワールド)を描くにあたり、最初は暗中模索だったと監督は当時を振り返る。
「クランクインする前はチンプンカンプンで、良く分からないことをやっているという意識はあるので、言葉でそれを伝えるのは無粋だと思ったんです。それよりもそのわからなさを共有することが重要だと」また、クラインクインの際に監督は「この映画は現実×3くらいのテンションの高い世界です」と挨拶したという。
テンションの高さとチンプンカンプンで分からないということだけが分かるスタート。
しかし、撮影現場において意外にも、現実とパラレルワールドという二つの世界の構造が全体を分かりやすくすることになったと語る。スタッフやキャストは表の世界と裏の世界を一遍に見ることで、映画全体がどのようになっているのかが予想でき、その面白さに共感していったという。「演者が理解することで、監督の仕事が半分以上楽になった」と笑いながら監督は話した。
 
パラレルワールドに対し、現実世界を象徴する寺田という青年を見守る保護司の役を演じているのは『おそいひと』で主役を演じた住田雅清さんだ。寺田に大きな影響与える保護司にはどのような役作りが行われたのだろうか。
「住田さんとは特殊な関係を築いていたのでほとんど何も言わなかったです。言葉には発していないですけれど、(住田さんと監督の)共通認識はあの『おそいひと』の殺人鬼の住田雅清の世界に込められた思いとか、願いとかを推し進めていこうというものです。住田さんもそれ感じて挑んできたんじゃないんですかね」。『おそいひと』の延長線上にある保護司。一方通行の現実世界を描く上で温かさだけではないキーパーソンを住田さんがどう演じたのだろうか。
 
犯罪の過去を持つ寺田については「ものすごいかわいそうな奴だなぁ、と。やったことは本当に良くないことだけど、それにしてもあまりにもだなぁと。それでも現実は一方通行で着実にカタをつけて(犯罪者に対する制裁を行って)次に進まなければならない。映画はその点を俯瞰で見ることができる」
 
俯瞰で見る見方として、監督は、寺田の行った犯罪だけでなく、それを受け取る周囲を大きく取り上げている。寺田はインターネットを通して流される悪意ある情報、遠巻きにしてみる不特定多数の視線に追いつめられる。「アダルトビデオとか食べ物とか感覚を伴わないものを見ようという興味本位の視線」と不特定多数の人々 をとらえた、監督の描写は不気味でユニークである。
 
shibata_3.jpg 不特定多数の人々はパラレルワールドにも描かれている。学生時代から思い入れのあるゾンビ。「ゾンビのすごいところは不特定多数が主人公であること。マイノリティが生きている人間。生きている人を背景にどんどん行進していく」。パラレルワールドでは存在感のある、生き生きとした、たくさんの人々がゾンビとして登場する。「ゾンビは特殊メイクで屍みたいにしなくても、「これはゾンビだ」って言い張ったら、そう見えるんじゃないかってなって」不特定多数の怖さがありながら、どこかユーモラスなゾンビ達。不特定多数の人々が時に影のように興味本位の視線だけになり、時にお祭りに参加する人のように生き生きとふるまったり、とらえどころなく描かれる。そんな不特定多数の人々に対しヒモとホームレスがどのように立ち向かうのかが見ものだ。
 
フィルメックスでの上映ぎりぎりに仕上がったという今作品だがどのようにスケジュールで進行したのだろうか。
「5月にクランクアップ、7月から11月が編集なので、そんなにぎりぎりでもないんですけどね」と語る。それでも完成したのは上映の4日前。
「決め打ちせず、いっぱいの可能性をとりあえず作っちゃう。手間がかかる作業ですし、時間もお金もかかる。プロデューサーに怒られたりはしますけれど、あの世界には必要だったんです」と妥協のない制作に対する気持ちを語る。作品中に出てくる加藤TVという京都発信のTV局の番組は実際に使用されている内容の3倍もの作品がとられているそうだ。他にどんな番組があったのか、機会があればぜひ見てみたい。
 
最後に監督からこれから『堀川中立売』をご覧になる皆さんにメッセージが寄せられた。「生きることは一方的な目線でしかいけないけれど、映画を見ることで、他人の気持に立てる。それを楽しみにこの作品を見に来てください」

『堀川中立売』は2010年春、ポレポレ東中野及び吉祥寺バウスシアターで上映予定。


(取材・文:安藤文江/写真:小林鉄平)
 

投稿者 FILMeX : 2009年11月29日 15:15



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