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2009年11月29日 閉会式

closing_1.jpg 11月22日に開幕し、29日に最終日を迎えた第10回東京フィルメックス。有楽町朝日ホールにて行われた閉会式では観客賞、審査員特別賞(コダックVISIONアワード)に続き最優秀賞が発表された。今年度のコンペティション10作品を審査した5人の審査員が拍手で迎えられて登壇し、林加奈子東京フィルメックスディレクター同席のもと、審査結果の発表が行われた。

まず発表された観客賞では、本作が長編デビュー作となるヤン・イクチュン監督の『息もできない』が受賞し、すでに帰国したヤン監督に代わり、本作を配給する株式会社スターサンズ代表取締役の河村光庸さんが登壇し、「この春初めてこの映画を観ましたが、その才能、みずみずしさ、力強さに驚愕しました。同じ思いを多くの方に感じていただき、共鳴いただいたことに対し、監督に代わり感謝いたします」とコメントした。

続いて発表された審査員特別賞(コダックVISIONアワード)では、バフマン・ゴバディ監督の『ペルシャ猫を誰も知らない』が受賞し、副賞としてコダック株式会社より8000米ドル相当の生フィルムが監督に授与された。またゴバディ監督欠席のため、イラン映画コーディネーターでペルシャ語通訳のショーレ・ゴルパリアンさんがゴバディ監督に代わってトロフィーを受け、現在ベルリンにいるというゴバディ監督からのメッセージを読み上げた。
「審査員の方々、映画祭関係者の皆さん、本当にありがとうございます。今回は親愛なる友達に会えなくてとても残念に思います。日本の方々は世界で最も真剣に映画を観てくれる観客であると信じています」

また、審査員のジャン=フランソワ・ロジェさんは受賞理由として、「抑圧的な社会で、音楽を通じて自由に自己表現をしようとする人々を描きながらこの作品は、フィクションとドキュメンタリー区別を超えて様々な映像言語を効果的に使うことに成功しています。自由への模索を表現する素晴らしい音楽の使い方がとりわけ秀逸で、独創的であると感じられました。」と評した。

closing_2.jpg いよいよ発表となった最優秀賞は、『息もできない』が受賞し、副賞として賞金100万円が授与された。観客賞と合わせてのダブル受賞、という快挙となったヤン監督。審査員のチェン・シャンチーさんは「この素晴らしい初監督作品に最優秀賞を授与することに決めました。この作品は、映画においてある種の化学反応ともいえる困難作業を成し遂げています。つまり、おどけたコメディやメロドラマ、そして悲劇といった様々なジャンルや、ときに極端なまでの感情表現を織り交ぜることに成功しているのです。この作品では韓国の近現代史における、そして今日の社会や家族の中に存在する暴力についての本質が、監督の深い洞察力によって描かれています。さらに審査員一同、特に感銘を受けたのは主演俳優であり、監督であるヤン・イクチュンの演技です。彼は自らの作品の中で強烈な存在感を持って生きていたと言えるでしょう」と受賞理由を述べた。

続いて、ヤン監督からの喜びのメッセージを、河村さんが代読した。
「参加できただけでも幸せだった東京フィルメックスでこのような大きな賞をいただくことになり、とても嬉しいです。この映画は私自身のために作った映画です。しかし今では、多くの観客の皆さんと一緒に分かち合える映画になったように思えて、とても幸せです。これからも包み隠さず、果敢に表現していきます。包み隠さず心を開くことでより清く、健全になれることを『息もできない』を通じて知ったからです。ありがとうございました」

ここで、韓国にいるヤン監督より届いたばかりだという映像メッセージがスクリーンに映し出された。韓国のどこかの街の通りの真ん中で、「キャハハハ」と喜びの奇声(?)を上げながらぴょんぴょん跳ねたり、バレエのようにくるくる回ったりと、“喜びのダンス”を披露するヤン監督の姿に会場内は爆笑に包まれた。手前に置かれたカメラに、踊りながらだんだん接近してくるヤン監督がいよいよカメラの真ん前までたどり着くと、ハァハァ息をつきながら改めて受賞の喜びを語ってくれた。
「東京フィルメックスの最優秀賞をいただいたという知らせを、つい先ほど聞きました。私が会場に直接行って、受賞のダンスを踊れたら良かったのですが…韓国の私の家の近くで幸せのダンスを踊ることになったのは残念ですが、(受賞は)とても嬉しいです。こんなふうに踊るような気持ちで、今後も踊るように映画を作って皆さんとお会いしたいです。本当にとても嬉しいです。これからも、包み隠さずに私が語りたいことを果敢に表現できる監督、そして俳優になりたいと思います。ありがとうございました。それでは“変態ダンス”をお見せします。疲れた、疲れた。以上!」

closing_3.jpg ヤン監督のメッセージに、審査員長の崔洋一監督は「あんなお茶目な人に(賞を)あげて良かっただろうか」と笑顔で一言。会場内は再び笑いに包まれた。
崔監督は、受賞したゴバディ監督とヤン監督に賛辞を述べたあと、総評として「皆さんはもうお気付きだと思いますが、クオリティ、バラエティに富んだ今日の映画に触れることは、我々にとって世界に何が起きているかを深く知る、とても刺激的な行為そのものです。いくつかの傾向で(コンペティションの)10作品を語るならば、そこには多様性があります。ダイナミックな、力みなぎる新人監督たちの映画が、ここに確かに存在しているということです。鋭敏な感覚は私たちのよく知るオーソドックスな手法を越えて、新しい映画的世界観を与えてくれた。こういうものが私たちに、大いなる実験的精神の尊さを教えてくれました。また極めて論理性に富む物語は私たちの存在、探求心を試しているかのようにスリリングかつ緊張の時間を提供してくれました。多様性と世界の変化、というのはある種矛盾した時間と空間を作り出すが、そんな現在を生きる作家たちの過酷さと、それでいて極めて楽観的な複合がもたらす様々な問題意識に触れる喜びは、きっと皆さんと共有できることと思います。
あなたをびっくりさせてあげる、という林ディレクターの挑発的で、そして魅力的なお誘いに乗り、今私はここにいるのですが、これは正しい選択をさせて頂いているのでは、という気分、ある種の心地よさを感じています。これは、もし私と皆さんの前に映画の神様がいるとすれば、その神様に出会った喜びであるとも言えるのです。最後にこの素晴らしい結論を導いてくれた私の同僚たちに改めて御礼を申し上げたい」と審査員一人ひとりの名前を呼び、感謝の意を述べた。

最後に、林ディレクターが閉会式を締め括った。「映画祭期間中、たくさんの素敵な瞬間に出会いました。監督たちの笑顔、観客の皆様の笑顔。ご来場の皆様に改めて感謝申し上げます。10回記念の年。10回は、20回への折り返し。100回までのはじめの一歩です。私たちの夢は続きます。映画の未来に向かって私たちは歩き続けます」と力強い言葉で閉会の辞を述べた。
 
第10回という記念の年を迎えた東京フィルメックスは、これまで以上に驚きに満ちたプログラムに加え、韓国映画を始めとする特集上映の数々や北野武監督らを迎えて行われたシンポジウムなど、充実のラインナップで9日間を駆け抜けた。これからも映画の新しい作り手を祝福し、未知なる世界との出会いを提供し続ける場として、第11回からの東京フィルメックスに大いに期待したい。


(取材・文:大坪加奈/写真:村田まゆ、関戸あゆみ)

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投稿者 FILMeX : 2009年11月29日 18:30



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